無駄な努力
過激な方法は闇に留められ、ならばどうやって目の前の男二人に報復するか、奏は考えを巡らせていた。
いくら二人が気に入らないとはいえ、命を奪う気までない。とはいえ、ある程度のダメージを与えておかなければ、また要らぬ考えを持つだろう。
生かさず殺さず、けれど確実に二人の気力を奪う方法──視線を動かし、二人を交互に見比べながら思案していた答えは、しかし案外すぐに見つかった。
否、最初からその方法は奏の頭の中に候補として浮かんではいたのだが、個人的に避けたいやり方であったため、他の方法を模索していたのだ。
できることなら一番やりたくはなかった方法。だけれども、彼らの力を奪う上で、最も効果的なものでもあった。
ラズリを助けに行くため一刻を争う中、つまらないことに拘わっている場合ではないと、奏はそこでようやく覚悟を決めることにした。
「死灰栖、お前の魔力……俺が貰い受ける」
片膝をついた状態の死灰栖に宣告し、奏は自分の魔力を巨大な手の形へと変化させる。
先ほども少しばかり死灰栖の魔力を奪ったが、今度はそれとは全く違う。死灰栖の魔力を全て奪い、これからは魔性として生きていけないほどの奈落へと叩き落とす。
もう二度と、自分やラズリに手を出そうなどと邪な考えを抱かぬように──。
作り上げた巨大な闇の手を死灰栖へとまっすぐ伸ばし、手の平全体で包み込むようにして全身を握りしめていくと、彼は唸るように声を発した。
「ぐっ……う……我は、我は、貴様の力なぞに決して屈せぬ……」
心意気は見事だ。
さすがに魔神を目指していただけはある。
死灰栖は身体の周囲に結界を張り、懸命に抗っているが、それもいつまで続くか──。そんなことをしても、闇の力に打ち勝てるはずなどないのに。
そうだ。
闇の魔力は稀有で最強だと言われているからこそ、奏はこれまでできる限り自分の能力の本質がバレないように生きてきた。放っておけば勝手に溢れ出る魔力を己の体内の奥深くに封印し、魔人として生きてきたのもそのためだ。
今日まで頑なに封印を解かず生きてきたのは、一度封印を解いてしまえば、次にまた封印できるか分からなかったからだ。
しかしそれ以上に奏が恐れていたのは──他者の魔力を吸収してしまうことだった。
ただでさえ珍しい能力を持っているというのに、魔性相手に戦うたびに、望みもしない魔力が相手から奏の身体へと吸収され、絶対的な魔力保持量が増えていく。と同時に、当然ながら、魔力を奪われた相手は酷い時には能力さえも失い、魔人として扱われる絶対条件である〝人型であること“さえも維持出来なくなり、問答無用で魔使へと身分を落としていった。
自分の能力は、他者を不幸にする──。
魔人から魔使に成り下がる者を何人も見続け、奏が自分の能力についてそのように断じたのは、当然といえば当然だった。
だが、それだけではない。
奏はふと軽い気持ちで自分の能力を使った際、以前に比べ、はるかに威力が強く大きくなっていることに気が付いた。
どうしてだ……?
その時の奏は、単に軽い疑問を覚えただけだった。
だが、二度、三度と同じことが続くうち、軽い気持ち──脅しのつもり──で放った攻撃により、相手の魔人を殺しかけてしまったことがあった。二人の能力差は、少しばかり奏が相手より勝る程度。決してそこまで差のある相手ではなかったというのに。
その魔人は、自らの傷を癒した後、奏に首を垂れてこう言った。
「まさか、同じ魔人でこうも強い方に出会えるとは思いもよりませんでした。今後もし貴方様が魔神として立たれる際には、是非わたくしめを配下として加えていただきますよう、よろしくお願いいたします」
完全に、予想外だった。
実際そんなつもりで相手と刃を交わしたわけではなかったのだ。それなのに──。
強すぎる能力は、それを操る者を孤独にする。
強ければ強いほど崇拝される存在となり、信者が増える。しかし奏が望むのは信者でも配下でもない。ただ気楽に付き合える〝友人“、それだけだ。
けれど、もうさすがに諦めた。
これだけ長い間能力を隠してきて、それでも闇一人だけしか真の友と呼べる者はできなかった。
ならばこれ以上、無意味な努力を続ける必要はない。




