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平凡な私のどこに、奪い合う価値があるのでしょうか?  作者: 迦陵れん
最終章 飛翔

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一石二鳥

「お前は、ラズリに手を出した時点で詰んだんだよ」


 胸の前で腕を組み、死灰栖の攻撃を結界によって難なく阻み続けながら、奏は微かな笑みを浮かべる。


 最初のうちは、多めに見てやろうと思っていた。


 ラズリの義理の兄である彼が、たとえどんな目的を持っていようとも、自分が手出しさせなければ何も問題はないのだから。


 ならば下手にこちらから手を出して、ラズリに出生の秘密を知られてしまうことより、無視を決め込む方が得策だと。


 だからこそ、牽制の意味も込めてわざとらしくラズリといつでも何処でも一緒にいたし、街中での擬態も最低限にして、分かる者には魔性と分かるぐらいのものにしかしなかった。


 そうすることで、ラズリには魔性が味方についているということを認識させ、手出しを控えさせようと思っていたのだが──。


「存外、頭が悪くて驚いたよ。しかも、ここまでやらかしてくれるなんて……な」


 言い終えた途端、奏の全身から、再び大量の魔力が溢れ出す。


 それは煮えたぎる怒りによって、際限なく生み出されるマグマのようだと自分で思った。


 ずっと封じてきたから気づかなかったが……俺の魔力は、ここまで強大になってたんだな……。


 まるで他人事のように、そう考える。


 元々、何らかの素質は備わっていたのだろう。それが両親を殺されたことで覚醒し、自らの(やみ)に辺り一帯を取り込んだ時、両親の持っていた魔力すらも一緒に取り込んだことで、大きく魔力量が増大した。


 (やみ)は全てを呑み込む能力──だから恐れられているのかと思っていたが、実際は、呑み込んだ魔力を全て吸収して自分のものにしてしまうことこそ真に恐れられている理由であり、また、その能力を駆使することで際限なく強くなっていくと同時に、魔性からすらかけ離れた化け物になっていくのだという事実に、幼かった奏は恐怖を覚えた。


 だからこそ、化け物になりたくない一心で、自分自身の手により何年、何十年とかけて、幾重にも封印を施してきたのだ。


 だというのに、それを破壊するのはこんなにも呆気ないものなのか──と、少しだけ虚しくなる。


 こいつらがラズリに手を出しさえしなければ、俺はまだ自由に生きられていたはずだったのに……。


 真っ赤な瞳を爛々と輝かせ、奏は右の掌の上に、赤い球体を生み出した。


 それは、サイズ的にはピンポン玉ぐらいの大きさでしかないが、(やみ)の力を最大限に凝縮させ圧縮した、一発必殺とも言える球体であった。


「ひっ……! し、死灰栖! あれを、あれを破壊しろ!」


 半天使である青年も、いくら魔性の能力を持たないとはいえ、奏の生み出したものがどれだけ危険なものであるかは気配によって察したのだろう。


 顔色を変えて命令を下すも、今の死灰栖の攻撃では、奏に擦り傷一つ負わせられはしなかった。


 死灰栖自身も無駄だと知りつつ、だが半分以上自由を奪われた状態では、従うしかないのだろう。半ば以上諦めたような気の抜けた攻撃に、奏は軽く肩をすくめる。


「憐れだと思わなくもないが、正直俺は、お前にも恨みを持ってるしな……」


 だから、どんなに力量差があろうとも手加減はしない。


 二人ともを、冥の海に沈めてやる。


 自分の両親を殺しただけでなく、ラズリの体内に厄介なものを仕込んでいた死灰栖。あれのせいで王宮騎士の片腕がラズリの目の前で失われるなどという事故が起き、彼女の精神を混乱させた。


 それに──こちらは確証があるわけではないが──ラズリの住む村に張ってあった結界を破壊したのも、おそらくは死灰栖だ。


 そう考えると、半天使の青年より死灰栖に対する怨みの方が強い気がする。


 だが、それはもう今更だ。


 どちらをより怨んでいようがいまいが関係ない。


 ラズリと自分との平和な未来をぶち壊した二人には、それ相応の報いを受けてもらうと決めたのだから。


 同時に邪魔な二人を片付けられるなんて、一石二鳥。


「まずは、お前から……」


 奏はそこで標的を半天使の青年から死灰栖へと変え、赤い球体を無表情でピン──と弾いた。








 

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