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平凡な私のどこに、奪い合う価値があるのでしょうか?  作者: 迦陵れん
最終章 飛翔

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「なんだ……? あれ……」


 圧倒的な気配を放つ赤い髪の魔性の姿を、ルーチェはただ呆然と見つめていた。


 二枚もの札を貼り付けられ、弱っていた男の姿は既にない。あるのは、身体中から魔力を溢れ出させ、こちらが一瞬でも気を抜けば魂ごと命を奪い取られてしまう──そんな迫力を持った男の姿だ。


 肩までしかなかった彼の赤い髪は今や床に長く広がり、抱えている緋色の髪の魔性の傷は完全に癒やされている。


 そんなにも強大な力を持っていたのなら、どうして今まで隠していたのか。


 最初から能力を封印などせず、本来の姿のままでここへ現れてくれていたなら、自分とて彼には手を出さなかったかもしれないのに。


 そんな後悔がルーチェの胸をよぎるが、今更手遅れだ。手を出す前には戻れない。


 そういえば、貼り付けた札はどうなっただろう?


 ルーチェは男の身体の札を貼り付けた箇所に目を走らせるも、それらは彼の放つ強大な魔力に耐えきれなかったのか、そのかけらさえ見つけることはできなかった。


 こうなったら死灰栖になんとか足止めさせて、あの緋色の髪の魔性を人質にとるしかないかもしれない……。


 さらっと最低なことを考え、ルーチェは後方へと下がりながら死灰栖を振り返ると、新たな指示を飛ばした。 


「死灰栖、なんとかあいつを──」


 足止めしろ──と言いかけて、不意に目の前へと飛んできた黒い札に目を止める。


「これは……」


 手に取るまでもない。死灰栖の魔力を封じ込めた、もう一枚の札だった。


 それがタイミング良く飛んできたことで、ルーチェは思わず不審な目を死灰栖へと向ける。


 まさかあいつ、自我を取り戻しているわけじゃないよね……?


 目を細めてじっと見つめるも、表情を変えない死灰栖を相手に、答えが導き出されることはない。けれど、無駄口を叩かず、自分に歯向かってこないことから、これについては後で考えればいい──と気にするのをやめ、ルーチェは再度死灰栖に命令を下した。


「死灰栖、緋色の髪の魔性を奪え!」

「御意」


 返事をすると同時に、死灰栖が赤い髪の魔性に向かい、攻撃を放つ!


 が、つい先ほどまで有効であったそれは、男の作り出した結界により難なく阻まれた。


 それを見て、反射的にルーチェが大声を上げる。


「死灰栖! 何をやっているんだ! さっきはあいつを追い込むことができただろう⁉︎」


 焦りを露わにするルーチェは、本来の能力を解放した奏の強さが、先ほどまでとは雲泥の差があることに気付いていない。


 無論、死灰栖自身はルーチェと違い、そのことに気付いていたが、いまだ自由に口を開けるだけの魔力を取り戻していなかったため、伝えることができなかった。


「手を抜くな、死灰栖! ()()()と同じように、緋色の男もこっちに引き込め!」


 そう、ルーチェが口にした瞬間だった。


 赤い髪の魔性の気配が、更に凶悪なものへと変化したのは──。


()()()ってのは、まさか……ラズリのことじゃないだろうな?」


 ゆらり、と身体を揺らしてゆっくりと立ち上がった男の迫力に、ルーチェはごくりと喉を鳴らす。


 たかが女一人のことで、どうしてそこまで彼が不機嫌になるのかが分からなかった。


「な、なんでそんなに怒ったように言うんだよ……? あの女は天使で、本来なら魔性の敵であるはずだろう? なのになんで、そんなにあの女のことを気にするんだ⁉︎」


 ただの玩具じゃなかったのか? 既に絶滅したと思われていた天使の血を引く少女を傍において、楽しんでいただけじゃなかったのか?


 少女のそばにいつも魔性がいた理由をそんな風に考えていたルーチェは、その時初めて、もしかしたら自分は間違っていたのかもしれない──と思った。


 そして、その考えを裏付けるべく、魔性の男はこう言った。


「愛することに、種族なんて関係ないだろ」


 と──。








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