要らぬ二つ名
父親の持っていた闇の能力を引き継ぎ──自身が望まぬこととはいえ──発現させてしまった奏は、本来であれば以前と同じ穏やかな生活を望む場合、両親と同じように隠れ住む必要があった。
だが、激しい怒りによって纏う色が黒から赤へと変わったことにより、皮肉にもそのしがらみから解放され──赤を全身に纏うことにより、見た目的には〝火”の能力を持つ魔性として捉えられるようになり、珍しくも何ともない、ただ火の能力を持つだけの魔人だと思われるようになった── 自由を手に入れることができた。
それにより、『これ幸い』とばかりに奏は好き勝手に世界を自由に動き回り、様々なことに気の向くままに手を出し、問題を起こしまくって、気づけば〝問題児”の異名をつけられるまでになっていた。
それでも別に命を狙われるわけではない。魔性なんてものは大なり小なり問題を起こしている者ばかりだし、ようやく自由に動けるようになったのだから、関係のない他者に口を出されるなど真っ平ごめんだ──と軽く考えていた。
しかし、そんな奏の考えは、ある日起こした自身の気まぐれによって、根底から覆されることとなったのだ。
きっかけは──天使が創造した人間達の楽園『ミースヴァル島』に対する魔性達の侵略であったことは間違いない。
奏は最初、そんなものに興味はなかったし、争うなら勝手にしてくれとばかりに興味すら抱かなかった。
別にわざわざ人間や天使のいる島へ出向かなくとも、今いる場所で十分暇は潰せる。だから無意味な島の取り合いなど、一風変わった刺激を求める者達だけが勝手にやればいい──と。
だから少しばかり仲良くなった他の魔性に参戦するよう誘われても、奏は決して首を縦には振らなかった。いや、振れなかったのだ。何かのきっかけで、自身の能力が他者に露見することを恐れて。
今の自分は父親とは違う。故に万が一能力のことがバレても、うまく誤魔化せる自信がある。
そう思いながら、しかし本当にバレた時のことを考えれば、自主的にバラしに行く選択肢など存在すらしなかった。
「俺はただ、平和に遊んでいたいだけなんだ……」
権力も、名声も、なにもかも自分には必要ない。
欲しいのは、自由に動き回れる環境だけ──。
なのに世界は、奏を放っておいてはくれなかった。というのも、天使達のしぶとさに焦れた魔神達が、ミースヴァル島への魔性による一斉攻撃を命じたからだ。
主を持つ者、持たない者、関係なく全ての魔性は島へ攻撃を仕掛けよ、との命令が下された。
もしこの命令に従わぬ不届者がいたら、その場で容赦なく命を奪うから覚悟せよ、と。
これには、さすがの奏も従わざるを得なかった。だからこそできる限り人目につかないよう大天使のもとへ一直線に行き、さっさと始末をつけた──つもりだったのだが。
まさか、自分が大天使を殺めた瞬間を見ていた者がいたなど、夢にも思わなかった。
そして、そのせいで要らぬ二つ名を付けられる羽目になるとも──。
「なんでだよ……。こんなことのために、俺はあいつを殺したわけじゃなかったのに……」
そのときのことが原因で、奏は再び自由に行動することができなくなった。
魔神になりたかったわけではない。自分の強さを認められたかったわけでもない。
ただ──面倒なことは早く終わらせて、もとに戻りたかっただけだった。




