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平凡な私のどこに、奪い合う価値があるのでしょうか?  作者: 迦陵れん
第十二章 双子

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無意識に呼んでしまう人

 なんだ? 何が起こった?


 なんの前触れもなく突然少女に平手打ちされたルーチェは、ジンジンと痛む頬をそのままに、呆然と固まっていた。


 一体全体何が起きたのか。


 生まれてこのかた褒められることしかなく、当然ながら他者による暴力などとは無縁に生きてきた彼にとって、平手打ちされたのは初めての経験だった。


 しかも相手は、ほんの数十秒前までは同情を誘えていたと確信していた少女だ。だからこそ余計に訳が分からず、頭が混乱する。


 打たれたのか? 僕が? まさか……!


 そんなはずはないと思うも、そっと頬に手をやれば鋭い痛みが走り、反射的に身を縮めた。


 これは……現実だ。


 そう理解した瞬間、ルーチェの中で一気に怒りの感情が膨れ上がる。


 この僕を打っただって? 許せない!


 頭の中を埋め尽くしたのは、たったそれだけのこと。


 どうして自分が平手打ちされたのか? 彼女は何を考えてそんなことをしたのか?


 そういった疑問など全く頭に浮かばなかったし、知ろうとも思わなかった。


 知ったところで、自分が打たれた事実は変わらない。


 いついかなる時でも優しく、慈しむように育てられてきたルーチェにとって、他人の命はゴミ屑と同じ価値しかないが、自分の命、自分を形成する全てのものは、神をも凌駕するほど価値があると思っている。


 そんな自分と同じ血を引く少女に対しては──流石にゴミ屑とは思わないが、ルーチェにとって足りないものを補う部品のようなものであり、また、彼女が双子の片割れとして生まれなければ、自分は最初から完全な状態で生まれることができていたのにと、憎く思う気持ちもあった。


「残滓の分際で、僕を打つなんて……!」


 怒りのままに一歩踏み出すと、渾身の力を込めて少女の頬を引っぱたく。


 あまりに力を入れたものだから彼女はよろめいてふらついたが、それでも意思の強い瞳でルーチェを睨みつけてきた。


「やっぱりあなたが私の村に火をつけるように命令したのね! この人殺し!」

「なんだって⁉︎」 

 

 人殺し呼ばわりまでされ、ルーチェの怒りは頂点に達する。


「僕が人殺し? 冗談じゃない! 僕はただ、完全体になりたかっただけだ!」


 そのために──たったそれだけのために、どれだけ苦労したかも知らないで。どれだけの年月を犠牲にしたかも知らないで。


「僕の辛さを何も知らないくせに、勝手なことを言うな!」

「そっちこそ! 大好きな人達を理不尽に殺された私の気持ちも知らないくせ……に?」


 言い返そうとしたラズリが、ハッと息を呑む。


 一瞬でお互いの額がぶつかりそうになるほどに近づいてきた青年。その瞳が、黄金色に輝いていたからだ。


「嫌! 離して!」


 ラズリはなんとか顔を背けようとするも、片手で襟首をがっちりつかまれ、もう一方の手では後頭部を押さえられ、頭を動かすことができない。


 ならば──と手で顔を隠そうとしたが、何故か身体はピクリとも動かせなかった。


「嘘……なんで……」


 焦るラズリに、青年は微笑みながら告げる。


「さっき言ったよね? 僕と死灰栖は()()()()()()()って。僕が願えば、彼はなんだって叶えてくれるんだ。たとえ願いを口に出さなくても……ね」


 便利だと思わないかい?


 言われた瞬間、ラズリは全てを諦めかけ──それでも最後の力を振り絞って、自らの瞳に力を込めた。


「あれ? いつの間にか多少は使えるようになってたんだ? でも残念だったね。君は所詮残り滓。本来の能力の持ち主である僕に勝つことなんて絶対にできないよ」

「そんな……こと……」


 ない──と言いたいのに、抗う気持ちとは裏腹に、ラズリの意識は徐々に遠ざかっていく。


 嫌……嫌だ……こんな人に、負けたく……ない……。


 心でどんなに抵抗しても、すぐ目の前にある青年の瞳が眩しすぎて、まともに目が開けていられなくなる。


 嫌だ……嫌だよ、奏……。


 どんなに絶望しても、分かり合えないと思っても、追い詰められれば無意識に奏の名を呼んでしまう。


 そんな自分を嘲りながら目を閉じたラズリの耳が、最後に拾った言葉は──。


「さようなら。用無しになった僕の半身。思ったより簡単で助かったよ」


 だった──。

 









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