半身
二度目に下した死灰栖への命令は、すぐに実行された。
というのも、目を閉じた彼がおもむろに片手を前方に突き出したと思ったら、次の瞬間には一人の少女が目の前に姿を現していたからだ。
「な、何? ここは……どこ?」
いきなり知らない場所へと連れてこられ、驚いたように周囲を見回す少女を見て、ルーチェは一目で『彼女だ』と確信した。
薄茶色の髪、同色の瞳。それに何より、彼女の身体の奥底から感じる、自分と同じ気配。
これまでずっと探していた、自分が求めてやまなかった少女。その少女が今、目の前にいる。
「ああ……ようやく会えた。ずっと会いたかったよ、僕の半身」
すぐにでも抱きしめたい気持ちを堪え、彼女が自分から腕の中に飛び込んできてくれるよう、優しく微笑んで両腕を広げる。
しかし彼女は何故かびくりと肩を揺らしただけで、一歩後ずさった。
「私があなたの半身? 一体何を言ってるの? 訳の分からないことを言わないで!」
睨みつけるような目を向けられ、こちらから更に距離を取る。
ようやく見つけた半身なのに、どうしてそんな態度を取るのか──不思議に思い、ルーチェは眉間に皺を寄せた。
「訳が分からない? ……どうして?」
こっちは長い間ずっと彼女を探して、探し続けて、心も身体も疲弊しているというのに?
君はそんな僕を疑問視するばかりか、否定するというのか?
一瞬苛立ちかけるも、すぐに心を落ち着けるべく、深呼吸を繰り返す。
ここで彼女と言い合いをしても、いいことは一つもない。彼女は恐らく自分と違い、親族による身体の繋がりを感じられないのだろう。
でなければ、こんな態度をするはずがない。自分と同じく、自らの半身を見つけられたことに喜びを覚えるはずだ。
だが、そうではないから突然見知らぬ場所に連れてこられ、その場にいた自分に『僕の半身』と言われたところで、理解できず戸惑っている。そう考えれば、全て納得がいった。
とはいえ彼女には、早急に己の立場を理解し、協力してもらう必要がある。でなければ、ルーチェの望む世界の実現に時間がかかってしまうからだ。
元々彼が少女を探し始めた理由は、家族としての情などではなく、自らの目的に利用するためだった。
その彼女を見つけた今、一刻も早く協力関係を築き上げなければいけない。
しかし、このままでは埒が明かないと、ルーチェは改めて自己紹介をすることにした。
「それじゃあ仕切り直しといこうじゃないか。──初めまして。僕の名はルーチェ。ミースヴァル島に住む人間達を統べる王であり、同時に君の双子の兄でもある。僕は君の存在を知ったその日から、今日までずっと君のことを探し続けてきた。この世に残されたたった一人の肉親である君を保護することは、僕の義務であり、使命だからね」
言い終わると同時に極上の微笑みを少女へと向け、手を差し伸べる。
実は美形の兄がいたという事実に喜んで飛びついてきてくれるのが狙いだったのだが、現実はそんなに甘くなかったらしい。
彼女は若干考えるかのような素振りをした後で首を振り、ルーチェを拒むかのようにまた一歩距離をとった。
「どうしたんだい? 自己紹介はしたじゃないか。君はまだ僕に足りないものがあると言うのかい?」
「そうじゃない。そうじゃないんだけど……」
ルーチェの質問については否定し、少女はそっ──と彼の斜め後方へと物言いたげな視線を向ける。
なんだ……?
後方に何かあったかと、その視線を辿ったルーチェは、すぐに彼女の言いたいことを理解し、ポン、と手を打った。




