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平凡な私のどこに、奪い合う価値があるのでしょうか?  作者: 迦陵れん
第十一章 譲れないもの

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分かり合えない

 理解不能なことを言われた時、頭の中が真っ白になって硬直してしまうのは、魔性も人間も同じなんだなとラズリは思った。


 何故なら、あまりにも信じ難い奏の一言を耳にした時、言葉を失ったのは自分だけではなかったからだ。


 チラリと視線を向ければ、透耶も青麻も、小さく口を開けて──大口ではないところが流石というべきか──ポカンとしていた。


 まさか人の命が懸かっている場面で、『面倒』などと考えていたなんて。


 しかも思いつき? それってつまり助けられる確証はなかったということよね?


 なのに、自分はともかく青麻を大切に思っている透耶にまで何も告げずに、単なる思いつきを実行したと?


 もしもそれで取り返しのつかないことになっていたら、どうするつもりだったのだろうか。


 透耶に謝る? いや、謝ったところで済まされる問題ではない。


 それどころか、謝るつもりなど最初からなかったような気がする。もし失敗したら、また何か別のことを思いつけばいいとかなんとか、彼ならそういった無責任なことを考えていそうだ。


 失われてしまった命は、二度と元には戻らないのに……──。


 そう考えた途端、村の人達や祖父の姿が脳裏に浮かび上がった。

 

 大好きだった、大切な人達。


 失いたくない、ずっと一緒にいたい、そう願っていた、かけがえのない人達。

 

 もしその人達に同じようなことをされていたら、たとえどんなに謝られたとしても、自分は絶対に許すことなどできなかっただろう。


「やっぱり……違うんだ」


 ポツリ、と小さな声でラズリは呟く。


 やはり魔性と人間では、そもそもの考え方が違うのだ。特に感性というものが、明らかに違いすぎる。


 それともそれは、相手が奏だからだろうか? 闇や透耶であれば、違うのだろうか?


 けれど──。


 自分が一緒にいるのは、奏だから。これまでずっと一緒にいてくれたのは奏だし、これからも一緒にいてくれるのは奏だけだから、他の魔性の感性なんて、どうでもいいのだ。


 自分にとって大事なのは奏だけであり、だからこそ、目を背けられないもの。


 分かってくれたと、思ってたのに……。


 大好きな人達を失って悲しむ自分に、奏は優しく寄り添ってくれた。まだ完全に癒えたわけではないけれど、心の傷が小さくなるまで、根気良く話を聞いて慰めてくれた。


 その、奏が──。


「あんなことを……言うなんて……」


 唇を噛みしめ、目を閉じてうつむく。


 すると、様子がおかしいことに気付いたのか、奏が近付いてくる気配がしたため、ラズリは咄嗟に彼から距離をとった。


「は……? ラズリどうした? なんで俺から……」


 突然のことに奏は大きく目を見開き、当然ながら『訳が分からない』といった顔をしている。


 それはもちろんそうだろう。


 残酷なことを平気で言ったり、他人の命を軽く考えている奏には、自分の気持ちなんて理解できるはずがない。


 大切な人達を一人残らず失い、たった一人生き残ってしまった自分が、さっきの奏の言葉でどれだけ傷付いたかなんて、おそらく彼にはいくら考えても分からないだろう。


 たとえどんなに優しくされようと、どんなに一緒にいてくれようとも、所詮彼は魔性であり、自分は人間なのだ。四六時中一緒にいることで分かり合えたと思ってしまっていたけれど、それは勘違いだった。


「奏……やっぱり私達は分かり合えないんだね……」

「はぁ? さっきからお前、何言って……っ⁉︎」


 奏の言葉の途中で、突如ラズリの足元から灰色の布のようなものが出現した。


 あ──と思う間もなく、ラズリの姿は一瞬で消え失せていて。


「くそっ! やられた……!」


 つい数瞬前までラズリがいた場所を拳で叩き、奏は歯噛みしたのだった。

 


 








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