悪気はなかった
まさか、そんな──信じられない。
あまりのことに驚きを隠しきれず、透耶は大きく目を見開いてベッドの上を見つめていた。
少々奏を窘めようと口を開いた矢先、不意に聞こえた声に驚いてベッドを見れば、そこには身を起こした青麻がいたのだ。
いつ目覚めるか分からない──もしかしたら一生このままかもしれない、と思っていた青麻が。
「青麻……青麻、大丈夫か?」
目の前にいる側近が幻覚でないか確かめるように、透耶は彼の肩を両手でつかむ。
幻じゃない……。間違いなく生きている……。
「良かった……。青麻、本当に……」
「我が君……この度はご心配とご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
目覚めてすぐ謝罪しようとする青麻に、透耶は微笑んで首を横に振る。
「よい、よい。余は、お前が無事だっただけで十分だ」
なんていう感動の再会。
魔性は血も涙もない──実は血はあるらしいけど──と言われているから、透耶と青麻の目には一滴の涙すら見えないが、側から見ているラズリからすれば、とてつもなく心揺さぶられる光景だ。加えて目の前の二人は、人外の美貌を持つ魔性二人。あまりにも美しすぎて、拝みたい気持ちにすらなってしまう。
だというのに──。
そんな最高の場面に、平然と水を差す男がいた。
「ほらみろ。俺が言った通りにして良かっただろ? そいつが目覚めたのって、絶対にさっきの青い鳥のおかげだぜ? よく言うだろ?〝幸せの青い鳥”って」
それは──なんとなく違う気がするけれど、すぐに、そうでもないかな? と思い直す。
結果的にオオルリのおかげで青麻が意識を取り戻したというのなら、あの鳥は確かに〝幸せの青い鳥”で間違いないのかもしれない。同様に、もしカラスによって意識を取り戻したのであれば、〝幸せの黒い鳥”ということになってしまうが。
「それにしても、どうして青い札から取り出した魔力を鳥にして、青麻さんにぶつけたの?」
奏によって感動に水を差され、ふと冷静になったラズリは、さっき疑問に思ったことを奏に尋ねた。
札から魔力を取り出すのは理解できたとしても、それをわざわざ鳥に姿を変えて青麻にぶつけた理由が分からなかったからだ。別に鳥の姿にしなくとも、札から取り出した状態でぶつけても良かったような気がするのに。
どうしてわざわざ、そんな面倒なことをしたのか。
すると奏は、さらっと恐ろしいことを口にした。
「だってさ、鳥の姿の方が、万が一透耶に攻撃された時に躱しやすいと思ったし、靄の状態のままだと幾分かは風に流されてどっか行っちゃうかもしれなかったしな。俺の見立てでは、青麻は魔力切れによって死にかけてるようだったから、ある程度魔力を注入すれば助けられるかもしれないと思って、ああしたんだ」
「じ、じゃあ、もし余があの鳥を殺していたら……」
「青麻はずっと、あのままだったかもしれないな」
何の悪気もなく返された言葉に、透耶の顔色が真っ青になる。
そのままヘナヘナと床に頽れかけて──ハッとしたように立ち上がると、勢いよく奏の胸ぐらをつかんだ。
「貴様っ! そういう大事なことを、何故最初に言わないのだ! 下手したら余が青麻にとどめを刺してしまうところだったではないか!」
透耶の叫びに、ラズリは内心で激しく同意する。
──うん、気持ちは分かる。助けたいと切実に願っている部下の命を自分が奪ってしまうなんて、いくらなんでも酷すぎるし、後悔してもしきれないよね。
幸いにも、透耶はギリギリのところで攻撃はしなかったけど──正直、かなり危ないところだった。私だって、どうして魔力を鳥に変換するのかが分からないのと、他の魔性の魔力を死にかけの魔性にぶつけていいの? という不安でいっぱいだったし。
だからこそ、透耶のその言い分は、絶対に間違っていないはず。
なんだけど──やっぱり奏はどこかおかしいというか、危機感がないというか、彼はそれに、ペロリと舌を出してこう答えた。
「そもそもが思いつきだったし、面倒だったからだけど?」
と──。




