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平凡な私のどこに、奪い合う価値があるのでしょうか?  作者: 迦陵れん
第十一章 譲れないもの

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急務

 意識を失い、床に倒れた灰色の髪の魔性を見下ろしていたルーチェは、室内に落ちていたもう一枚の黒い札を手に取った。


 今現在彼の手元にあるのは、黒い札が二枚──そのうち一枚は死灰栖の腕に貼り付いている──と、使い損なった真っ新な札だけだ。


 氷依とミルドを失いさえしなければ、もうあと二枚が手元に余分にあったのかと思うと、悔しくてたまらない。


「ミルドはともかく、氷依に札が貼り付きさえしなければ、今頃三枚の札があったのに……」


 憎々しげに灰色の魔性を睨みつけ、ルーチェは軽く魔性を足蹴にする。


 こいつさえ姿を現さなければ、氷依を失わずに済んだ。もしかしたらミルドだって、人間の姿のまま使い続けることができたかもしれない。


 どんなにこの魔性が強かろうと、愛着というものがある。


 無論ミルドに対してはそんな感情を持ってはいなかったが、氷依は別だった。便利な手駒と思う以上のものを、持ち始めていた矢先の出来事。


「どうしてみんな、僕の邪魔ばかりするんだろう? 僕はただ、自分にとって最も大切なものを取り戻したいだけなのに……」


 呟きを漏らすルーチェは、その()()()()()()()()()()()()こそが、魔性達に危険視されている事実を知らなかった。


 彼にとっては自分の願いを叶えるための仕方のない行動であったとしても、それに巻き込まれる魔性達にとっては生きるか死ぬかの死活問題。更に言えば、普段から下に見ている人間に操られるなど恥でしかない──生き恥を晒すなど、死ぬよりもっと恥ずかしいことだ──と思っているため、遠巻きに観察してはいるが、今のところ手を出すには至っていないというのが現状だ。


 しかし、一度(ひとたび)危険はないと判断されたなら、もしくは逆に危険すぎると判断されたなら、人間達への見せしめの意味も含め、ルーチェはすぐにでも殺されてしまうだろう。それだけの力を、魔性は有している。


 しかしルーチェは、そのことにすら気づいてはいないのだ。


 何体かの魔性を自在に操り、大切な存在を自らの手に取り戻せば、どうにかできると思い込んでしまっている。


 魔性とは、それほどまでに簡単な存在ではないというのに──。


「……まあ、過ぎたことは仕方ない。今はこの魔性をどうやって使うかを考えないとね……」


 この城に姿を現した時のことを考えると、元はかなりの力を有していた魔性のように思える。


 けれど再びここへ現れた際には、かなり弱って覚束ない様子だった。


「こいつから吸収したのは、札二枚分の魔力だったはずだけど……」


 たった札二枚分の魔力を失っただけで、果たしてあそこまで弱るものだろうか? 


 札を投げつけた時は無我夢中だったため、もしかしたら最も魔力吸収量の多いものを貼り付けてしまったのかもしれないが、それにしてもあの弱り方は不自然だ。


「それとも虚勢を張って、強い振りをしていただけとか……?」


 だとしたら、ものすごく面倒くさい。


 弱いなら弱いと最初に言ってくれていれば、二枚もの札を貼り付けたりしなかったのに。


「と言ったところで、無理だよね」


 魔性とは、自分の力を必要以上に誇示する生き物なのだから。


 虚勢を張ることはあっても、謙遜するなどあり得ない。


「とにかく今のままだと目を覚ましても使い物にならなさそうだし、なんとかして少しでも札の魔力を本体に戻すようにしないと……」


 とはいえ、何をどうやったらいいのか全く思い付いてはいないが。


 自分の手の中にある唯一の駒をどうするか──それが今のルーチェに課された急務だった。




  







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