魔力の質
「ピーちゃん! しっかりして、ピーちゃん!」
苦し気に全身を丸めるカラスを抱え、ラズリは必死になってピーちゃんの名を呼ぶ。
一体どうしたの? さっきまでは何ともなかったのに。何で急にこんなことに……。
原因を考えても思い当たることはない。あえて言うなら青麻という名の魔性から黒い札を剥がしたことぐらいだが、その時は特に何の異常も感じられなかった。
だったら何故?
「誰か何か思い当たることはない? なければ苦しみを取り除いてあげるだけでも良いの。ねえ、お願いだからピーちゃんを何とかしてあげて」
苦しんでいる姿があまりにも可哀想で、自分には無理でも彼らなら──と思い、三人の魔性に助けを求める。けれど、三人は顔を見合わせて首を振るだけで、少しも動こうとはしてくれなかった。
何で? どうして? いつもだったら奏も闇も、もっと優しくしてくれるのに……。
今回に限り、助けを断られる理由が分からない。普段の彼らは自分が助けを求めなくとも、必要な時には毎回手を差し伸べてくれていたから。
なのに、どうして今回だけ……。
理由が分からないため納得もできず、ラズリがじんわりと目に涙を浮かべた時──ようやく奏が口を開いた。
「そいつは……ピーちゃんは他の魔性の魔力を元に作られた鳥だから、魔力の質が違う俺達にはどうにもできない。……悪いな」
「魔力の……質が違う?」
初めて聞く言葉に、ラズリは首を傾げる。
魔性が魔力を持っていることは流石に知っているけれど、それに〝質”があることは知らなかった。
でも〝質”って? それってなんなの? という考えが、もしかしたら顔に出ていたのかもしれない。
ラズリがその質問を口にする前に、闇がその答えを口にした。
「魔性はそれぞれ属性ごとに魔力の質が違います。分かりやすく言いますと、自然界の火・水・地・風といったものですね。無論、魔性は数が多いため、その分属性数も多くなり、実際のところ属性がいくつあるのかは私でも把握しきれていないのですが……。それらの属性は、種族的なものからきているのか、はたまた性質的なものからきているのか、我々の魔力は本質が似通っているものであろうとなかろうと、決して交わることはありません」
「えーっと……それってつまり、水と氷でも駄目ってこと?」
「そうなりますね」
ここで水と氷を引き合いに出したのは、以前、女魔性が氷の力を使ったのを覚えていたからだ。本当は真っ先にラズリの頭の中に浮かんだのは奏の姿だったが、何度見ても彼の振るう力の正体はつかめず、そのため引き合いに出すことは難しかった。
そんなラズリの心境を知ってか知らずか、横で話を聞いていた奏は「え……そこは俺を引き合いに出すとこじゃないのか……」なんてことを、呆然とした表情で言っていたけれど。今は彼に構っている場合ではない。
「そうなると……ピーちゃんを助けられるのは、ピーちゃんの元になる魔力を持った魔性だけっていうこと?」
尋ねるように口にしたものの、聞かなくとも答えは分かっていた。
自分の身体の奥底に、こっそり魔力を仕込むような魔性など、絶対に性格が良いわけがない。
加えて、いくらラズリ自身が危険な目に遭い怒りを覚えていたとしても、王宮騎士の腕を簡単に切り落としてしまうくらいだ。間違っても奏のような優しさや、慈悲など持っていないだろう。
そもそも、奏のようなタイプこそが魔性の中では異質なのだ。どちらかといえば、ピーちゃんの元となった魔力の持ち主である魔性の性質こそが、本来の魔性であると言える。
ならばもう、ピーちゃんを助けることは不可能で。
苦労して自らの体内から排出し、鳥へと昇華させたのに、何もしないまま失うことになるなんて。失わなくてはいけないなんて。
「こんなの、酷いよ……」
ピーちゃんを抱きしめたまま、ラズリはぺたんとその場に座り込んでしまう。
それをじっと見つめていた奏は──ぽつりと、こんなことを口にした。
「まだ間に合うかもしれないと言ったら……お前はどうする?」
「え……?」
普段ふざけている彼にしては珍しく、真剣な表情だった。




