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【書籍化、コミカライズ】虐げられた秀才令嬢と隣国の腹黒研究者様の甘やかな薬草実験室  作者: 琴乃葉
第2章

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現地調査という名の婚前旅行.1

 ハドレヌ伯爵領行きの申請は案の定あっさりと通った。もはや申請は不要だったのではと思う速さだ。


外交官のクラウド様からの依頼に加え、ハドレヌ領には珍しい薬草や花もある、となれば反対する理由はないのかも知れないけれど、室長は珍しく書類を読むことなく判を押していた。


 ただ、ハドレヌ領が国境に面しているので、往復だけでも二週間はかかる。伯爵領の滞在期間を四日として、二十日弱研究室を離れるのだからそれまでに片付けなくてはいけない仕事も多い。


 アシュレン様の言う通り、期日の迫った仕事はないけれど、それでも抱えている実験はいくつかある。

 おかげでこの四日間は深夜帰宅が続き、出発前の馬車を前にして私もアシュレン様も欠伸を噛み殺していた。


「荷物はこれだけか」

「はい」


 馬車の座席半分は荷物で埋められている。前回のように山に登るわけではないから、野宿の用意はしていないけれど、着替えだけでもそれなりの数になってしまった。


 他にも、珍しい薬草があれば持って帰るつもりなので、採取に使う道具や瓶もある。


 植物の種類によっては日持ちしないものもあるので、乾燥させたり煮詰めたりするのに必要な実験道具も持ってきたせいもあって、広いはずの馬車が少々狭い。


 私達が乗り込むと、馬車は動き始めた。

 朝の柔らかな日差しが馬車内に入ってくるのは心地よいのだけれど、アシュレン様はそれさえ眩しいようで早々にカーテンを閉めてしまう。寝る気ですね。


「ナトゥリ侯爵家の馬車は座面が柔らかく、さらにこの揺れは眠気を誘いますね。アシュレン様、昨晩は何時に寝られたのですか?」

「寝ていない。引き継ぐ領地の書類を仕上げていたら、朝日が昇った」


 結婚と同時にアシュレン様は伯爵位を叙爵する。今もすでに領地経営を手伝っていると聞いていたけれど、正式に引き継ぐにあたっていろいろと複雑な手続きがあるらしい。


 あれもこれもクラウド様が悪いと溢しながら、アシュレン様はゴロリと横になった。頭は当然のように私の膝にある。


「ア、アシュレン様」

「気にするな。大人しく眠るだけだ」


 気にするかどうかを決めるのは私だと思うのですが。


 アシュレン様は頭が落ち着く場所を探すように暫くもぞもぞとしたのち、動くのを止めたと思ったら、すぐに寝息が聞こえてきた。

 こうなると、もう私に選択肢はない。


 やれやれとその整った顔を見れば確かに疲労の色が見て取れた。

 馬車の揺れに合わせてサラサラと揺れる髪。何も手入れしていなくて、この輝きはずるい。

 カーテンはそのままに窓を少しだけ開ければ気持ちのよい風が入ってきて、アシュレン様の口元が少し緩んだ。

 こ、これは。


 可愛い。

 腹黒が可愛い。


 実は以前から触れてみたいと思っていた銀色の髪。今なら少しぐらい、いいかしら。

 そっと髪に指を入れ梳かすと、サラサラと気持ちよく指の合間を流れていく。想像よりずっと柔らかく細い。

 さらに慎重に指先で頬に触れると、嫌そうに顔を動かす。いけない、うっかり起こしてしまうところだったわ。


 仕方ないな、と諦め、私は足元に置いた鞄から紙とペン、硬い板を取り出す。クラウド様から頼まれた本作りは、研究室の仕事をこなすのに精一杯で殆ど手が付けられなかった。


 本は最近開発された活版印刷で刷られるため、伯爵領から帰ったらすぐに原稿を渡す約束になっているので移動時間も無駄にはできない。


「印刷には色インクも使うそうね」


 文字を黒にして、葉は緑と茶色で刷るらしい。厳密にいえば緑と言っても若葉のような瑞々しい緑から深緑まで幅広いけれど、そこまでのバリエーションは無理とのこと。

 それでも表紙だけは五色刷りにするというのだから、売り込みたいのは内容だけでなく、活版印刷の技術もなのでしょう。


 これといった資源がないというのが、他国からみたカニスタ国の評価。

 でも、クラウド様は人こそ資源だと言い切られ、国はあらゆる分野の技術革新に助成金を出しているらしい。


 国の研究室で働いているから、助成金なんて制度は知らなかったけれど、それを活用した研究や技術改革が目まぐるしそうだ。学生でもその助成金を使って開発に成功したグループがあると聞いたけれど、もしかしたらスティラ王女殿下が話されていた方々かも。


 そんなカニスタ国が今一番他国にアピールしているのが医薬品というのだから、関わっている人間としては責任の重さを感じる。

 王姉が責任者、その息子が副室長というだけでも他国にはインパクト大だ。


 さらに私が開発した薬は他国でも高評価で、ジルギスタ国の第二王子殿下が絶賛しているという噂が広まっている。

 アシュレン様と交わした約束をきちんと守ってくれているなんて、意外と律儀なのねと、そこに関しては評価をあらためる必要があるかも。


 さてと、と私は改めてペンを握り、カトリーヌ様が翻訳してくれた文章を思い出す。

研究の論文は書いたことがあるけれど、本となればまた勝手が違うので、数ページだけれど翻訳されたものを先にいただき、参考にすることにした。


 書く薬草はすでに決めているので、その特徴と効果、それから乾燥時間を文字にしていく。

 没頭すると周りが見えなくなるのは私の悪い癖。

だから、薄目を開けてアシュレン様が私を見ていた、なんて、まったく気がつかなかった。



馬車は以外と速度が遅いそうですが、異世界なので1週間でも割と遠くまでいけます。と、いう設定。

お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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