ライラの未来4
本日二話目です
「私達が愛し合ってしまったのは運命だと思いますわ。でも、おねえさまを傷つけてしまったことは本当に申し訳ないと思っていて、きちんと謝罪しようとしていたの。それなのに、おねえさまはまるで当てつけのように異国に行かれるし。その被害者ぶった態度に、どれだけお父様とお母様がお怒りになり心配なさったか」
涙を零しながら矛先を私へと向ける。これではまるで、私がアイシャを責めているようではないか。
しかも、この騒ぎを聞きつけて、とうとう両親までが現れた。
「ライラ、あなたは帰ってくるなり何をしているの?」
「婚約破棄はお前が至らなかったからだ。アイシャを責めるのはお門違い。しかも今日はアイシャの結婚式なのだぞ」
私は婚約破棄の件でアイシャを責めたことは一度もない。ここに来てからもお祝いの言葉を口にしただけ。それなのに、二人とも相変わらず、私の話を聞こうともせず矢継早に責めてくる。
弁明しようにも、言い訳だの、自己主張が強いだの返ってくる言葉は想像できる。
だから、以前の私は諦めて黙って下を向き、怒りが収まるのを待っていた。
でも、今の私は違う。じっと二人を見据え視線を逸らさない。
だって私は何も悪いことはしていないもの。
余裕さえ感じてしまえるのは、カニスタ国で沢山の人が私を認めてくれたから。私には帰る場所がある。
「謝りもせずブスッとこちらを見て。本当、愛想も可愛げもない不出来な娘だわ。少しでもアイシャを見習いなさい」
「ライラ、いつまでナトゥリ侯爵様にご迷惑をおかけするつもりだ。いい加減我儘をやめて帰って来い」
「嫌です。私は、もうこの国に帰るつもりはありません」
「なっ、お前はどうしてそう我が強いのだ。儂が譲歩しているというのに、女の癖に生意気ばかり言うな!!」
おめでたい席でどうして内輪揉めを起こすのかと、私は内心気が気でない。ここにはウィルバス子爵家より上位貴族も多くいるのに。
「失礼ですが……」
アシュレン様が優雅な笑みを浮かべながら、私と両親の間に入ってきた。
「何か勘違いされているかと」
「勘違いですと?」
「ええ。ライラはとても可愛らしいご令嬢です。聡明で冷静、それでいて優しく皆に愛されています。自分の考えを持ちながら、きちんと他の人の言葉にも耳を傾け、控えめでそれでいて頼りになる」
繰り出される賛辞に私は表情を取り繕うのが精一杯。あわわ、と波立つ口元を扇で隠しながら、それは言い過ぎではとアシュレン様を見上げる。
すると、熱の篭ったアイスブルーの眼差しに射抜かれた。
「少なくとも、俺はライラ以上の女性に出会ったことはありません。おそらくこれから先も」
まるで愛の告白のような言葉に、扇を落としそうになる。真っ赤に頬を染めた私を、アシュレン様は愛おしそうに見つめてきて、そのせいで鼓動は早鐘のように鳴り響く。
私の代わりに意趣返しをしてくれているのは分かっている。分かっているけれど、その眼差しは真剣で、これが演技なのかと疑うほど。これでは勘違いするなと言う方が難しい。
「アシュレン様、あの、それはもしや、ライラのことを……」
案の定、私達の関係を勘違いした父が、戸惑いながら私とアシュレン様を交互に見る。その隣で、何故かアイシャは眉を吊り上げ拳を握りしめていた。
「それにライラは研究者としても優秀で我が研究室に欠かせない人物」
質問に答えず、自分のペースに持ち込むのはアシュレン様得意の話術。こうなれば彼の独壇場だ。
「研究者? ライラは雑用係としてそちらの国に行ったのでは?」
「まさか、俺はライラを研究者としてスカウトしたのです。そしてその才能は俺の想像を優に超えるものでした」
「そんな、まさか。ライラは女だぞ? 研究など出来るはずがない」
「どうして女性だと出来ないのですか? 現にライラは小麦の大量枯れの原因をつきとめ、その解決法さえ確立しました。お陰で長雨が降ったにも関わらずカニスタ国は今年も無事小麦の収穫を終えた」
その言葉に真っ先に反応したのはカーター様だった。
少し後ろでことの成り行きを見ていたカーター様は、ツカツカと私に駆け寄ってくる。
「ライラ、お前、俺の研究を盗んだのか! この恥知らずが」
「まさかそのようなこと。私はあの夜会のあと、直接カニスタ国に行きました。研究資料を持ち出す機会はありません」
「そんなもの、あの研究に関わっていたのだから覚えていることも……」
「あら、私は雑用をしていただけ、研究には一切関わっていないはずでは?」
カーター様は顔を赤くし、口をハクハクする。まさか、こんな大勢の人がいる前で本当のことは言えないでしょう。
ざわざわと、突然人が騒ぎ始めた。どうしたのかと見ると、第二王子殿下がこちらに向かって歩いてくる。どうして殿下がアイシャの結婚式に、と不思議に思い両親を見ると、二人とも虚を衝かれたような顔をしていた。どうやら、これは予想外の登場らしい。
「その話、詳しく教えてくれ」
現れた第二皇子殿下に私は慌てて頭を下げる。カーター様も驚いたように頭を下げながら後ろに下がった。
「先程、小麦の大量枯れが始まったという知らせがきた。それで急ぎ、カーターにあの農薬について詳しく話を聞きに来たのだが。カニスタ国では今年も豊作だったというのは本当か?」
「はい、本当です。詳しくはライラに説明させましょう」
アシュレン様が目線で私を促す。第二王子殿下は女の私が出張ってきたことに不快感を露にしたけれど、気にせず話すことに。
「私の調べでは、小麦の大量枯れの原因は菌の繁殖ではありません。この辺りの山の山頂部にある地層には小麦にとって毒となる成分が含まれていることが分かりました。大量の雨が降りその地層まで雨水が及んだ時に大量枯れが起こります。そして、この原因に対する解決策も発見し、カニスタ国では前年同様の収穫量を得ることができました」
「ということは、カーターの作った農薬では小麦の大量枯れは防げないということか」
「既に枯れ始めたのであれば、これから国内にどんどん広まって行くと思われます」
私の言葉に第二王子殿下だけでなく、集まっていた人々が息を呑む。そしてざわざわと騒ぎ始めた。領地で小麦を作っている貴族は青ざめ、商人達はどこから輸入するのが良いか相談し始める。
「まさかそのような事! 第二皇子殿下、ライラは所詮女。こんな研究結果、当てにはなりません。しかもカニスタ国の研究室の室長は女性だというではありませんか。愚鈍な女が仕切る研究室の開発など信じては……」
「おいカーター、お前、室長が誰だか知っていてそのような無礼な発言をしているのか!?」
カーター様の発言を遮る第二王子殿下の怒声が会場に響いた。
本編は明日の二話で終わりです。エピローグを一話、二話今考え中です。完結後少し間空けての投稿になりそうです。
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