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ライラの未来3

「派遣侍女リディの平穏とは程遠い日々〜周りは愛されているって言うけれど、気のせいだと思います〜」が魔法のiらんど大賞2022恋愛部門特別賞を受賞いたしました。宜しければこちらも是非ご覧ください。


 秋晴れの抜けるような空の下、アシュレン様の手を借り馬車を降りた私は教会の前庭へと向かう。

 着飾った人たちがすでに集まっていて、あちこちで楽しそうにおしゃべりをしていた。


 見知った顔も多いけれど、どうやら私だと気づかれていないようで。

 それよりも視線は隣のアシュレン様に注がれている。

「あの方はどなた?」

「夜会でも見たことがないわ」


 あちこちで囁かれる黄色い声。頬を染めうっとりと見つめる令嬢達の視線に気づかないはずがないのに、アシュレン様は平然と前を見る。


「今更ながらですが、アシュレン様の見目の良さを実感しております。随分視線慣れしていらっしゃるのですね」

「それを言うならライラは視線に鈍いな。おかげで俺は令嬢達を構うより、あいつらを牽制するのに忙しい」


 アイスブルーの瞳を鋭くさせ周りを見渡したあと、アシュレン様は呆れ顔で私を見おろす。そんな顔で見られた所で心当たりは全くない。何のことだろうと訝しむ私にアシュレン様は小さく息を吐くと、私の髪を一束掴み……あろうことか唇をつけた。


「な、なっ。アシュレン様!?」


 あちこちで「きゃぁ」と小さな嬌声があがる。アシュレン様は、再び赤くなり唇を震わせる私を見て満足そうに微笑んだ。


「これで粗方、片付けられただろう」


 だから、何がですか? 眉間に皺を寄せ軽く睨んだところで、アシュレン様が気にするわけもなく。付き添って貰っている身では何も言えない。うぐぐ、と口を波立たせていると、出席者一覧と思われる紙を持った侍女が近づいてきた。


「お客様、失礼ですがお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」

「ええ。ライラ・ウィルバスです」

「……!」


 侍女がハッと息を飲み瞠目する。


「アシュレン・ナトゥリだ。彼女のエスコートとして同行したが、何か問題でも?」


 冷たいライトブルーの瞳で微笑むと、侍女はとんでもないと慌てて首を振る。


「失礼いたしました。以前お見掛けした時と随分、その、雰囲気が違っておりましたので」


 ウェルカムドリンクをすぐにご用意いたします、と頭を下げ侍女は去っていった。

 

「ライラ・ウィルバスだって」

「アイシャ様の姉、カーター様の元婚約者だろう?」

「失恋して、当てつけのように異国に旅立ったと聞いたけれど」


 侍女との会話を聞いていたのか、私達を中心に波紋のようにざわめきが広がる。

 ついで私を見た人が目を見張る。


「あれがライラ?」

「アイシャより美人なんじゃないか?」


 会話の内容までは聞こえない。多分、妹に婚約者を取られた哀れな私を嘲っているのでしょう。

 好奇の視線は覚悟していたけれど、やっぱり気持ちのいいものじゃない。

 でもここで視線を落とすのは負けたようで嫌だから、敢えて口元に微笑みを貼り付け前を向いた。そんな私の気持ちを後押しするように、アシュレン様がそっと背中に手を添えてくれる。


「注目だって楽しんでしまえばこっちの勝ちだと思わないか?」

「アシュレン様はいったい何と戦っておられるのですか?」


 予想の斜め上を行く言葉に思わず吹き出してしまう。

 張りつめていた気持ちがその一言で霧散し、肩の力がすっと抜けた。

 意地悪な微笑みを窘めながらも、背に当てられた手が心強い。


 アシュレン様はその言葉の通り、周りの視線をものともせず私を会場の中央へとエスコートしてくれた。


ーーと。その時。


「おねえさま! 来てくださったのですか」


 会場に響き渡る甲高い声は、聴き間違えるはずもないアイシャのもの。

 真っ白なドレスに身を包み、ピンクブロンドの髪を高く結い上げた今日の主役は、まっすぐに私に向かってくる。でも、アイシャの足は私まであと数歩というところで立ち止まった。


 アイシャの視線が私から隣に立つアシュレン様に向けられる。ルビー色の瞳を丸くしたあと、その視線を鋭くして私を見る。そこに嫉妬の色が浮かんだことに、私以上に反応したのはもちろんアシュレン様。


 背に当てていただけの手を下に滑らし腰を掴むと、グイっと私を引き寄せる。

 そして、誰もが見惚れるような完璧な笑みを浮かべた。


「本日はライラのエスコートとして出席させて頂きます」

「……アシュレン様がおねえさまをエスコート」


 アイシャは私のドレスとブルーダイヤのネックレスを見て、悔しそうに顔を歪ませた。


「アイシャ、結婚おめでとう」

「……ありがとう、おねえさま」


 でもすぐに気を取り戻しに華やかな笑みを浮かべると、あろうことか私の手を取った。

 ルビー色の瞳を潤ませ、眉を下げ儚げな姿を装う。アイシャの常套手段に私は反射的に身構えた。


「おねえさま、こんなことになってしまってきちんと謝らなくてはと思っていたの」

「気にしないで。貴女はなにも……」

「やっぱり怒っていらっしゃるのね。でも悪いのは全て私、カーター様を責めないでください」


 どうやら私の言葉を聞くつもりはないよう。まるで自分こそ悲劇のヒロインであるかのように声がさらに大きくなる。


「おねえさまがあまりにも忙しく、カーター様を構って差し上げないから。婚約者らしいことを何一つしようとなさらないおねえさまに代わって、せめて私が話し相手にと思っただけなの。それがまさか婚約破棄をして私と結婚したいとまで仰るなんて、思いもしなかったわ」


 忙しいのは貴方達が二人揃って仕事を私に押し付けたから。私が寝る間も惜しんで研究していた時に密会をしていてよく言えたものだ。

 とはいえ、今日はアイシャの結婚式、ここはグッと言葉を飲み込む。それなのに、アイシャの言葉はまだ続いた。

冒頭にも書きましたが、「派遣侍女〜」が魔法のiランド大賞2022で特別賞を頂きました。ありがとうございます。 


お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!残り数話、是非最後までお付き合いください。

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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