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【書籍化、コミカライズ】虐げられた秀才令嬢と隣国の腹黒研究者様の甘やかな薬草実験室  作者: 琴乃葉
第1章

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ライラの足跡2

本日二話目


 それからの日々は忙しかった。


 地層に含まれる毒が原因なら、試してみようと思うことがあった。

 それはアシュレン様も同じで。


 私達二人の頭に浮かんだのは、湖の古城で見つけた藻。

 あれが小麦の大量枯れの原因となる毒も吸収してくれるのでは、と期待した。


 まずは、井戸水を大きな樽に溜め、その中に洞窟の岩石を丸一日入れて毒を含んだ水を作った。

 今度はそれを、藻のはびこった水槽に移し替える。これで毒が無くなれば藻が吸収したことになる。


 次に鉢植えを十個用意して、毎日違う鉢植えに水槽の水を撒いていくことに。

 一日目に水を撒いた小麦は全滅。二日目、三日目も同様。


 もしかして藻は毒を吸収しないのでは、と焦りが滲んだ五日目から少しずつ変化が。

 鉢植えの小麦が枯れなくなってきたのだ。


 その結果、どうやら藻が毒を吸収し無毒化するのに最低でも一週間はかかることが分かった。そのことを室長に報告すると、


「凄いわ! もう解決策の目処がつくなんて、さすがライラね」

「いえ、偶然です。それにアシュレン様も手伝ってくださいましたし、藻を沢山繁殖してくれていたのはティックとフローラです」

「ええ、彼らも頑張っているのは分かっている。それでもやっぱり私は、あなたの研究者としての素質には舌を巻いているの」

「ありがとうございます」


 素直にその言葉を受け微笑む私に、室長は僅かに目を開いた後、アイスブルーの瞳を優しく細めた。


 カニスタ国に来て初めて褒められた時はどうしていいか分からなかった。ただオロオロと頬に手を当てていた。

 でも、今は素直にその言葉を受け止めて喜ぼうと思う。アイシャのように可愛らしく微笑むことはできないけれど、私を認めてくれた人には感謝の気持ちを込めてお礼を言おうと思う。


「随分いい顔するようになったわね」

「そうですか?」

「ええ。初めて会った時もしっかりした令嬢だと思っていたけれど、一人で背負い込んでいるような張り詰めたところが少し心配だったの。でも、今は凄く伸び伸びしているわ」


 そんな風に室長は私を見てくれていたんだ。

 もしかして、別邸にもちょくちょく顔を覗かせていたのは、私のことを心配していたからかも知れない。


「研究室の皆のおかげです」

「その中に愚息も入っているなら母として嬉しいわ」

「もちろんです。アシュレン様には一番助けて頂いています」


 「それなら良かった」と笑う室長の顔は母親の顔だった。やっぱりアシュレン様と似ているな、と思う。


「そうだ、今から国王に報告に行くのだけれど、頼んでいた書類はできたかしら」

「はい、こちらに」


 手渡したのは小麦の大量枯れの原因とそれに対する対処法を書いた報告書兼研究結果。

 最後には私の名前が書かれている。


 アシュレン様やフローラ、ティックの名前も書くべきだと思うのだけれど、皆に断られてしまった。これは私の名で報告すべきだと。


「ご苦労様。ライラ、これからが大変だけど頑張ってね」


 室長はそう言って部屋を出て行った。

 



 ※※※※※


「さあ、今日は忙しくなるわよ」


 フローラが腕まくりをしながら気合いを入れる。ティックも腰に手を当ててやる気満々だ。


 室長の報告のあと、お城をあげて藻の養殖に取り掛かることが決まった。今日は沢山の水槽が馬車で届けられる日。その数五百。ちょっと眩暈がする数。しかも、二週間後にはその倍が届く。


 幸い藻の繁殖力は凄く、手元には藻が蔓延った水槽が十個。水槽の大きさは両手で抱えるぐらい。


 研究室では狭いので、作業はお城の裏ですることに。荷馬車に十個の水槽を積み込みゆっくりと運んでもらい、私達はその後ろをぞろぞろと付いていく。


 空を見上げれば雲一つない晴天だけれど、アシュレン様いわく、いつ長雨の時期に入ってもおかしく無いらしい。


 リーベル村に行く時に買った帽子を私は両手で深く被り直す。

 左右に編んだ三つ編みが歩くたびに跳ねた。

 服装は洗いざらしのシャツに膝丈のスカート。水を使うので足元は長靴代わりのブーツ。


 ゆっくり進む、と言っても同じ城内。間も無く裏庭に着き、アシュレン様とティックと御者が水槽を井戸の近くに下ろしてくれた。

 

 既にそこには室長がいて、足もとには石灰岩が無造作に置かれていた。藻は石灰岩に含まれる物質を吸収すると繁殖のスピードが上がる、というのがフローラとティックの研究結果。藻にとって、いわば餌のようなもの。


 作業としては、新しい水槽に水と石灰岩、小さく切り取った藻を入れたあと、日当たりの良い場所に運ぶ。

 私達だけでは大変だから、薬草課の方々も手伝ってくれることに。


「レイザン様、おはようございます。今日は宜しくお願いします」

「おはよう。説明は室長から受けている。こちらの職員も是非手伝いたいと言っているから、遠慮なく使ってやってくれ」

「ありがとうございます」


 お礼を言って立ち去ろうとすると、レイザン様がじっと私を見てくる。


「初めて会った時に比べ、明るくなったようだ」

「そうですか?」


 室長と同じことを言われてしまう。 

 来たばかりの私はどう見えていたのだろう。


 レイザン様と話をしていると、馬の蹄と車両の音がして、沢山の水槽を積んだ荷馬車がやってきた。その後ろからはぞろぞろと騎士団の方々。


「アシュレン、今日の指揮はお前に任せるぞ」

「騎士団長、ご協力ありがとうございます」


 水槽をどこに置くかが実は問題で。室外に置いておくと鳥の被害を受けるし、かといって温室は貴重な薬草でいっぱい。そこで考えられたのがお城の各部屋の窓辺に置くことだった。


 それぞれ部屋の一番日当たりの良い場所に置いて、お世話までしてくれるらしい。なんだか国を挙げての大仕事になってしまって、この計画を聞いた時はお腹が痛く食事が喉を通らなかった。


 お城は三階まであり、その各部屋に水槽を運ぶのは体力勝負。そこで応援に来てくれたのが騎士団の皆様。捲った袖から見える筋肉が実に心強い。


騎士団とのやりとりは次話で。どうぞ最後までお付き合いください。

お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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