表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/77

湖の古城4

本日二話目です


 途中で一度ボートを漕がせて貰ったけれど、予想以上に難しかった。

 悔しいけれど、アシュレン様がいなかったら遭難していたかも、対岸が見える湖で。


 私がオールを握るとフラフラとどこかへ向かう、もしくは同じ場所で円を描くボートも、アシュレン様だとスムーズに島へと向かう。何が違うのでしょう。


 あっという間に島に辿り着くと、湖岸に打ち上げるようにボートを停める。リュックは私が手にする前に奪われて、アシュレン様が背負ってくれた。


「それでどこに向かうつもりだ?」

「もちろん古城にお姫様の救出に向かうのですよ?」

「それならキスは俺に任せてもらおうか」

「お姫様が納得するならば」


 お姫様ねぇ、とアシュレン様は呟き私をじとり見る。


「……少しは妬くとかないのか」

「何か仰いましたか?」

「いや、何も」


 ぼそりと呟いた声は聞こえないけれど、大したことはないでしょう。


 アシュレン様はため息を吐くと剣を鞘から抜き草むらに向かって一振り。スパッと切れた葉が、はらりと風で飛んでいく。どうやら古城に繋がる道を探しているようだけれど、腰まである草は切っても切ってもきりがない。


「剣をお持ちとは珍しいですね」

「遠乗りの予定だったから護身用にな。うーん、もしかしてこれが道、か?」


 土中に埋められた石レンガが草の間からちらりと見えた。薙ぎ切ったところで、まだ脹脛ほどまである草を踏みつけ私が歩きやすいように道を作ってくれる。


「ありがとうございます」

「ひとつ聞くが、俺がいなければどうするつもりだったんだ?」

「一応小刀は持ってきました。でも、辿り着けなかった可能性の方が高いですね」

 

 草が生えているのは想定内だけれど、ちょっと見込みが甘かったわ。アシュレン様は先に立って草を剣で薙ぎ切り、踏み分け進んでくれる。私は申し訳なく肩をすくめながらその後に続く。


「ありがとうございます」

「何、いいもの見せて貰った礼だ」


 振り返り意地悪くライトブルーの瞳を細める。

 いいもの? と首を傾げたところでアシュレン様の視線が太ももに。

 こいつっ!


「忘れてくださいとお願いしました」

「あいにく、記憶力が良いので」

「……忘却の薬を作ろうかしら」


 恨みがましく睨むと、「ライラなら出来そうだ」とクツクツ笑う。本当、喰えない男だわ。


 でも、助けられたのは事実。足場の悪いところはさりげなく手を貸してくれ、私のために草を踏み締めてくれるからトラウザーは土と草の汁でドロドロ。


 なんだかんだ言って優しい。

 だからこそ甘え過ぎてはいけないと思ってしまう。



「もしかしてあれか?」


 少し前を歩くアシュレン様が足を止め、木々の向こうを覗き込む。私も隣に立ち同じように見ると、汚れくすんだ白いレンガの壁が見えた。


「きっとそうです。島のほぼ中心辺りでしょうか」


 草や低木は、庭だったであろう場所まで繁殖し、至る所に野ばらが群生している。

 それらを掻き分け、少し薔薇の棘に苦戦しながら蔦の絡まった玄関扉まで辿り着く。

 薄汚れているけれど、扉の色も元は白だったみたい。いわば白亜の城ね。


「この古城は誰が建てたのですか?」

「昔この地を治めていた領主が、自分を裏切った愛する妻を幽閉していたらしい」

「それは、なんとも曰くありになるわけですね」


 閉じ込められたお姫様は、幽閉された妻が話を変えて伝わったらしい。伝承が時と共に話の内容を変えるのは良くあること。浮気した妻じゃ、子供に聞かせる物語に不似合いだしね。

 

「裏切られた夫、もしくは幽閉された妻の呪いで湖の水が呪われたのですね」

「ま、この辺りにはそう伝わっているが、文献を調べたところ、水が飲めないのは妻が幽閉される前かららしい」


 となると、やっぱり気になる。どうしてここに城を建てたのか。


「今までこの島に来たことはないのですよね?」

「ああ。湖の水が飲めない理由に気付いたのは数年前。母もそれは知っているが、それと古城は関係ない」


  確かに古城と湖の水は関係ない。だからこの島に来なかったというのは分からないでもないのだけれど。


「気にならないのですか? わざわざ飲み水を船で運ばなければいけない場所に城を造ったことに」

「だからこそ幽閉にピッタリなのではないか? 逆らえば水を遣らないと脅せばいい」


 うーん、やっぱり腹黒。揺るがないわ。


「水は生命線です。使用人もいたはずなのに毎回大量の水を運ぶのは非効率的。反抗するなら食糧を断つと脅せば済むはずです」

「つまり……?」


 私の考えを読もうと、アイスブルーの瞳が覗き込む。なんだかアシュレン様を出し抜いているようで、ちょっと気分が良い。私も性格が歪んできたのかも。


「この島に飲み水はあったのです」

「周りを取り囲むのは湖、井戸水も飲めないのにか?」

「でもありました。どうやって飲み水を確保していたか気になりませんか?」


 別にそれを知ったところで薬作りに役立つとは限らないし、そんなこと期待していない。だって、今日は休日、何年振りかの旅行。ちょっといつもと違うことしたいじゃない。それが知的好奇心を満たすことならなおさら。

 

「なるほど。楽しい休日になりそうだ」

「でしょう?」


 さて。どこから探検しよう?

 ついでに眠り姫を見つけたら教えてあげるわ。

 アシュレン様。


お読み頂きありがとうございます。


古城の謎が気になる方、興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

最後に伏線回収するのが好きなので、そろそろ散りばめていこうかと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ