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【書籍化、コミカライズ】虐げられた秀才令嬢と隣国の腹黒研究者様の甘やかな薬草実験室  作者: 琴乃葉
第1章

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冬の始まりと風邪予防3

本日二話目です


 王城の裏は、思いのほか広かった。こんなに奥に敷地が伸びていたなんて意外。

 井戸や洗い場のある裏庭の向こうは背の高い木がこんもりとしていた。常葉樹が多いようで冬だけれど葉をつけた木が多く、そのせいか辺りは薄暗い。


 その中をくねくねと縫うように走る小道を抜けると、突然ポカンと空があけた。目の前には青々とした葉の繁る薬草園。


「凄い! こんなに広いなんて思いませんでした」


 ジルギスタ国の倍以上はあるだろうか。私達が使う薬草は自給自足ではないけれど、頻繁に使うものや、研究も兼ねて育てているものも多い。


「必要な薬草はあるか?」

「はい、ポピュラーな薬草ですから」


 目当ての薬草は一目見て分かる場所にあった。私は薬草の生育状況を時にはしゃがんで観察しながらそこへ進む。よく手入れされた薬草園だ。


「これです」

「これが?」


 怪訝な顔をしてアシュレン様が見る先には半枯れ状態の薬草。高さは私の腰ぐらいで、大ぶりの赤茶けた葉が重たげに垂れ下がっている。


「これは……風邪薬によく使う薬草だよな。主に花、それから種を使う」


 夏に花を咲かせ、秋に赤い実をつける薬草は一年で枯れてしまう。だから、春先には抜いて新しい苗に植え替える必要がある。


「使うのは葉と茎です。手で簡単に折れますので葉付きのまま持てるだけ採りましょう」


 私は出来るだけ根元に近い所に両手を添え軽く捻ると、茎はポキリと小さな手応えと一緒に簡単に折れた。次々と折って行く私の横で、アシュレン様も茎に手をかける。


 騎士団からこちらに向かう途中、再び巻いた私のマフラーがちょっと作業の邪魔をしているように見えた。


「マフラー、邪魔ならお持ちしますよ」

「いや、暖かいしできれば借りていたい」


 なんだか気に入ったご様子。こっちに来る前に港町で適当に買った安物なんだけれど。


 薬草はすぐに両腕にいっぱいになった。それを持って来た道を戻り裏庭にある井戸へと向かう。


「アシュレン様、大きめの鍋を借りたいのですが厨房はどちらですか?」

「研究室じゃなくてここでするのか?」

「研究室はフローラ達が使っていますし、屋外のほうが何かと都合が良いのです」


 分かった、とアシュレン様は私を厨房に連れて行ってくれた。

 そこで借りた五十センチの深さの大鍋にお湯をいっぱいに沸かすと、アシュレン様と一緒に裏庭に運ぶ。


「研究室でしない理由ですが、すぐに分かると思います」


 鍋を地面に直接置いてもらうと、湯を沸かす間に洗った薬草の葉と茎を手でちぎりながら入れていく。そして豪快に借りてきた柄杓で混ぜる。ぐるぐると柄杓を回すうちにお湯が赤胴色に変わってきた。そして、その色が濃くなるにつれて、


「うっ、なんだ、この鼻をつく刺激臭は」

「これが屋外でした理由です」


 アルコールをさらに煮詰めたような匂いに鼻の奥がツンとする。そのうち、目もしょぼしょぼしてくるはず。



「アシュレン、ライラ、こんなところで何をしているの?」

「室長!」


 いつからそこに居たのか、両手に書類を抱えた室長が少し離れた場所から鼻を摘みながらこっちを見ていた。


「風邪の予防薬を作っています。室長はどうしてここに?」

「新薬の方向性が見えてきたから、レイザンにちょっと相談をしにきたの。風邪の予防薬って聞こえたけれど、それがそうなの?」


 室長は鼻を摘んだままこちらに来ると鍋の中身を覗き込む。


「あっ、湯気が目に入ると痛いですよ」


 慌てて告げた私の言葉に、室長とアシュレン様が同時に数歩下がる。私も風上に移動してから、再び柄杓でざっくりと混ぜ始める。


「ジルギスタ国ではこの薬草は至る所に自生していました。ちょっと森に入れば群生しているし、飛んできた種が勝手に畑の隅で育ったり、田舎では畦道を歩けばあちこちで見かけます。カニスタ国ではどうですか?」

「この国もよく似たものだ。平民の子供達は花や実を摘んで薬草問屋に持っていき、生活の足しにしていると聞く」


 隣国なのでその辺りはあまり変わらないのね。カニスタ国の方が気温が高いから、花や実のなる時期はちょっと違うかも知れないけれど、誤差一ヶ月程度でしょう。


「よし、これで出来ました」

「もう出来たのか?」

「煮ただけよね?」


 同じアイスブルーの瞳を丸くする二人。こうしてみるとやっぱり母息子(親子)ね、その表情がとてもよく似ている。


「はい、あとは瓶詰めして終わりです」

「本当に簡単だな。煮る時の温度とか湯と薬草の割合はどうなんだ? 見た感じかなりざっくりと作っていたように思うが」


 おお、さすが。よく見ていらっしゃる。

 そう、それがこの薬のいいところはそこなのだ。


「適当です。薬草とお湯の割合は、薬草一に対してお湯が五から六ぐらい。葉や茎は、大体小指の半分ぐらいにの大きさにちぎってください。使うのは煮汁なので、あまり細かくすると瓶に移し替える時に紛れ込んでしまいます」


 細かすぎると、瓶に移し替えるのに葉や茎を取り除く作業をしなくてはいけない。とくにその大きさにこだわりはなく、揃える必要もない。


「それから煮る温度ですが沸騰したお湯を二、三分冷ましたぐらいがちょうど良いです。冷えていると成分が出にくいので葉を入れた状態でいいので温め直してください。でも沸騰したお湯で作るとアクが浮き使い物にならなくなるので注意してください。煮る時間はだいたい十分ぐらい、このぐらいの色が出れば完成です」

「普段のライラのレシピからは考えられないぐらいざっくりとしているな」

「本当、料理のレシピみたい。これなら誰でも簡単に作れるわね」


 そう、そうなんです、室長。例えがうまい。

 プロの料理人なら細かく材料を測るでしょうけど、母親が作る家庭料理は殆どが目分量。

 それと同じ感覚で作れる理由はその使用方法にある。

沢山の方にお読み頂きありがとうございます!

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☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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