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ジルギスタ国での日々1

沢山の小説の中から見つけて頂きありがとうございます


「ライラ、この書類を明日までに。それから、今している研究の結果を明日の朝、第二王子殿下にご報告するので簡単に纏めておいてくれ」

「畏まりました」


 ここはジルギスタ王宮内にある薬草の研究所。

 職員は三人だけの小さな部署で時間は夜の七時。

 今日も徹夜かと、私のお腹が小さくぐぅとなる。

 

 コの字型に並んだ机は、上司であり私の婚約者のカーター様が真ん中。その左右に向かい合うように私と妹アイシャの机が並ぶ。違いと言えば、私の机にだけ頭の高さほど書類が山積みされていること。


 その書類の山の向こうをカーター様が早足に通り過ぎていく。ふわりと巻き起こった風に書類が飛びそうになり、慌てて手で押さえると「少しは妹を見習って整理をしろ」と言われてしまった。


 「はぁ」


 パタン、と大きく閉まる扉の音を聞いて、私は思わず机に突っ伏す。もう何日も碌に寝ていない。慢性的な睡眠不足で体が重いし頭痛がする。


 この国で薬草の研究をしているものは少ない。


 様々な薬草の特性を調べて、そこから新しい薬を作るのだけれど、研究はいつも成功するとは限らない。時には研究結果が出るまで何年もかかることもある。


 その間、同時期にお城に勤め始めた同僚が、どんどん出世していくのを指を咥えて見ていなきゃいけないわけで、簡単に言えば人気がないのだ。


 ここの研究結果として完成した薬が、製薬課の手によって日々大量に作られ流通しているので、決して役に立っていないわけではないのだけれど。


 そんな薬草研究所で代々所長をしているのが、婚約者のレイビーン伯爵家。今はその嫡男であるカーター様が所長をしていて、人手不足のために婚約者の私と妹が駆り出されている。


 私ライラ・ウィルバス子爵令嬢とカーター・レイビーン伯爵令息の婚約が決まったのは四年前、私が十五歳、カーター様が二十歳の時。


 祖父が薬草研究所でかつて優れた研究結果を出したこともあり、レイビーン伯爵家を将来に渡って支えるようにという国王の命を受けての婚約で、私もその意に応えるようずっと知識の習得に励んでいる。


「朝までに研究結果を出せということは徹夜ね」


 やるしか無い。

 私は腕まくりをすると隣の実験室に向かったのだけれど……


「何これ」


 沢山の試験管とビーカー、フラスコが流し台に山積みになっている。しかも、液体が入ったままのものも多数。沈殿物がこびりつくと洗うの大変なのに!


「アイシャ、また洗わずに帰ったのね」


 流し台に両手を置きがっくりと項垂れる。

 アイシャが仕事を放り出して帰るのは今に始まったことではないけれど、疲れがどっと肩にのしかかる。


 「仕方ないな、とりあえずこれから始めるか」


 研究室の端にある水瓶から水を汲み、まずは流し台に溜める。汚れのこびり付いたものは暫く浸けておくことに。

 まだ比較的綺麗なものを手に取り、それらから順に洗っていく。


 アイシャは薬草の研究に興味がないようで、学園での成績は下の下。でも、両親は女なんて少し馬鹿な方が愛嬌があって可愛いと、悪い成績表さえチャームポイントだと笑っていた。


 反対に最優秀生徒だった私は女の癖に可愛げがないらしい。「勉強してどうする」「男より成績が良いなんて恥知らず」と怒られたことも。


 それでも、カーター様の役に立てるなら構わない。

 赤い髪に緑の瞳、彫刻のように整った容貌のカーター様は平凡な容姿の私には勿体無いぐらい素敵な方。茶色の巻き髪に赤銅色の瞳の私はせめて中身だけでも釣り合うようにと頑張ってきた。


 せめてアイシャぐらい綺麗なら良かったんだけれど。


 双子だからと言ってそっくりなわけではない。私が父親似なのに対してアイシャは母親似、ピンクブロンドの髪とルビーのような赤い瞳は私のくすんだ赤色とは違って見惚れるぐらい綺麗な色。透明感溢れる肌に白魚のような手、神様によって繊細に作られたお人形のような容姿をしている。

 

 ……だめだめ、誰かと比べちゃ。

 私は私。

 出来ることをしっかりとやり遂げ積み重ねれば、きっとカーター様は分かって下さる。


 そう思っていた。

 この夜までは。


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