5 届かなかった想い
夢……じゃないんだよな?
高鳴る鼓動は最高潮を超えこのまま破裂してしまうのではないか?とさえ思えるくらいにバクバクと高鳴り俺の言葉や動きを完全に止めていた。
まるで初恋をした少年が今まさに告白しようかとゆうようなシーンが容易に浮かんでくる。
まさに今の俺はそんな感じだ。
何度願っただろう。
もう一度彼女に会えたら……
もう一度話す事ができたら……
ほんの数分でもいいから
ただ、もう一度だけ……
彼女はしばらくどこかを寂しげに眺めていたが、しばらくして俺に気がついたのかこちらを見て一瞬驚いたような表情を浮かべた後に俺が大好きだったあの笑顔でやさしく微笑んだ。
「久しぶりだね」
「……ああ」
なんでだ?
彼女に会ったら話したい事が山のようにあったはずなのに、聞きたいこともたくさんあった。
なのになかなか言葉が出てこない。
まるで金縛りにあっているかのように俺はただそこに立ちすくみ彼女の瞳を見つめていた。
そのうち何かがゆっくりと頬をつたい地面に落ちていったのを感じた。
「どうしたの?泣いてるの?」
「別に……泣いてないさ」
「嘘つき」
いたずらっ子のようなあどけない顔で俺に近づく彼女に焦って俺はその雫を拭った。
「いや……久しぶりに会えてうれしくってさ」
「大袈裟だなぁ」
「そんな事……だってお前は……」
そこまで言って言葉に詰まる。
もしも本当に過去の世界に戻って来てしまったのなら、今、目の前にいる彼女はこの後自分がどうなるかなんてきっと知らないはずだ。
それを話してしまったらなぜか彼女が消えてしまうようなそんな気がして怖かった。
「……やっぱり」
「え?」
「私……死んだの?」
寂しそうに俺に問いかけるその瞳に涙が溜まっているように見えたが気のせいだと願いたかった。
もしかしたら……俺はずっと悪い夢を見ていただけで、これが本当の現実なのではないだろうかとどこかで思っていたのは嘘じゃない。
もしそうだったらどれだけ嬉しいか。
でも俺の体は高校生の時よりも大きく成長し声も低くなって確実に時間が進んでいる。
変わらないのは彼女だけ。
「……そっかぁ」
「なんでそんな事言うんだよ」
その言葉の意味を理解しようと頭をフルに回転させるが答えは出てこない。
何故、この時代の彼女が自分の未来を知っているんだ?
「……最初はね、私もこれは現実だって思ってた」
「……」
彼女は俺を見上げて寂しそうに笑う。
「身長だいぶ伸びたよね、前はあんまり視線が変わらなかったのにね」
確かにあの頃は俺の方が少しだけ高いくらいでほとんど変わらなかった。
でも、今は頭1つ分位の差がある。
彼女の時はあの頃のまま止まっているんだ。
「……ここは過去の世界じゃないのか?」
「さぁ?気がついたらここにいたから。よくわからないけど、少し違う気がする」
そう言って周りを見渡す彼女につられて俺もそこから見える景色を眺めた。
言われてみれば確かに何かが…上手く言葉にできないけど何処かが違うような気がする。
でも、だとしたらこの世界は……
ここは一体何なんだ?
もし、過去の世界だとしたら彼女を最悪の運命から救う方法があるかもしれない……なんてここに来るまでずっと考えていたけど、やっぱりそう上手くはいかないよな。
アニメや小説なんかとは違うんだ。
……そういえばあいつが死ぬ少し前、俺に話したい事があるって言ってた。
その日は忙しくて明日にしてくれって聞かなかったんだけど、結局聞けずに最後を迎えた。
ずっと心残りだった事……なんであの時話くらい聞いてやんななったんだって。
もう手遅れだとしても、二度と取り返しがつかないとしてもちゃんと聞きたい。
彼女の気持ちを、今度こそ彼女の声で。