4 変わらない横顔
いや……そんなまさかな。
SF映画じゃあるまいし、ありえないだろ?
何度も必死に自分自身にくりかえす。
そんな事は絶対ありえないと。
でも、何度考えてもそうとしか考えられない。
あの携帯を手にしてから起こる不可解な事は仮に過去にタイムスリップしたと考えれば全て辻褄が合うのだ。
そうだ、試しに誰かに聞いていよう。
そうすればハッキリするだろう。
俺はふいに目に入ったゲームセンターにすいこまれるように近づいて行き、店の前でたむろっている若者に尋ねてみた。
「あの……すいません」
「は?何?」
「ど忘れしてしまって、今って何年でしたっけ?」
「へ?」
不思議そうに首をかしげる若者達。
そりゃそうだよな、こんな事普通は携帯で調べれば1発だし、見ず知らずの人に聞いてくる奴なんていないよな。
「……〇〇年だけど」
「……ありがとうございます」
冷静を装いつつその答えに一気に血の気が引いて行くのがわかった。
驚きを隠しきれずあ然としている俺を横目にぶつぶつと何かを話し始める若者達。
まるで自分だけが異世界に飛ばされてしまった、どっかのアニメの主人公のように、ただその事実に恐怖しかなかった。
なぁ?こんな事ありえるのか?
若者が教えてくれた年は今から3年前。
まだコロナ感染症が全国的に広がる少し前だ。
だからみんなマスクをしていないし街の景色が嫌に懐かしいわけだ。
一体何故?
どうして俺は過去に来てしまったんだろう。
混乱する頭を無理やりフル回転させて考える。
多分、過去に飛ばされたのはあの神社で携帯電話を拾った時。
突然目の前の景色が変わったあの瞬間が全ての始まり。
とゆう事はあの場所に戻れば元の世界に戻れる?
アニメとか小説だとだいたいそんな流れだよな。
まぁそういった話だとほとんどの場合戻ってみると何も無くなってたとか、入れなくなっていたなんて展開が待っているけども。
今はそんな事言ってられない。
可能性があるのならとにかく行くしかないよな。
そんな僅かな可能性を縋る思いで実行に移そうとした時、ふとある事が頭をよぎった。
さっき神社で願った叶うはずのない思い。
そうか……俺は今、過去の世界にいるんだよな。
なら、ここでならもう一度彼女に会う事ができるかもしれない。
もしかしたら俺がここに来たのはその為に?
神様が俺の願いを叶えてくれたのか?
その考えが頭に浮かんですぐ、俺はある場所へと無意識に走っていた。
あの頃よく2人で行った場所。
今が何日かなんて気にもとめずにただひたすらに走る。
懐かしい校舎。
古臭い木材の匂いと昔より小さくなった机や椅子を横目に人影の無い廊下を気にもとめず、俺は自分が通っていた高校の屋上を目ざした。
高校生の時なんて金もなかったし、どこかに行くあてもないから放課後はよくここに来ていた。
時には授業をさぼったりして先生に怒られて。
そんな時、いつも隣には彼女が居た。
そうあの優しくてちょっと不器用な笑顔で。
「はぁ……はぁ……」
階段をのぼりきり、息を切らしながら屋上へと続く扉のノブに手をかける。
走ってきたせいだろうか、やけにドキドキと胸がうるさくて俺の動きを妨げる。
ここにいるのか?
本当にまた会えるのか?
俺は息を整えゆっくりと古くなった扉を開く。
ギシギシときしむ音を立てて開いていく隙間から外の空気が室内へと流れ込み、むせ返りそうになりつつその先へと視線を向ける。
………………
一瞬時が止まったのかと思うほどに頭の中が真っ白になって俺はつい呼吸をするのも忘れてしまっていた。
1人寂しげに佇む人影。
あの頃と何一つ変わらない優しい横顔で、あの頃を思わせる懐かしい制服姿の彼女がそこにいた。
そこに居たんだ……。