吹き零れる程のI、哀、愛
レビュー執筆日:2022/7/3
●「癖の強さ」で明確に個性を出しつつも、「アルバム」としての構成力の高さや「J-POP」として素直に楽しめる点もうかがえる一作。
【収録曲】
1.ラブホテル
2.あ
3.おやすみ泣き声、さよなら歌姫
4.憂、燦々
5.マルコ
6.女の子
7.社会の窓
8.NE-TAXI
9.かえるの唄
10.さっきはごめんね、ありがとう
11.シーン33「ある個室」
12.傷つける
今から9年ほど前、今作で初めてクリープハイプのアルバムを聴いたのですが、その時の印象は「かなり面白いバンドだな」といったものでした。彼らの特徴として分かりやすく挙げられるのは、ボーカリスト・尾崎世界観の不貞腐れたような独特のハイトーンボイスでしょう。歌詞に関しても、「夏のせい 夏のせい 夏のせいにしたらいい」(ラブホテル)や「クソですね そうですね」(あ)、「もうこれ以上僕は何を信じたらいいんだろう」(女の子)のようにボーカルとマッチしたやさぐれたものが多く、それが明確なインパクトとなってリスナーの耳に届くように感じられます。
かなり癖が強いボーカルなので、下手すると「しつこい」感じになってしまいそうなものですが、曲調・歌詞の両面から一辺倒にならないような工夫がなされているので不思議とそういう印象は受けませんでした。例えば、『マルコ』は歌詞がSFチックになっていますし、『社会の窓』はリスナーの視点で「もっと普通の声で歌えばいいのに」等とノリの良い雰囲気で自己批判する点がどことなくコミカルに感じられます(歌詞の内容自体は結構切実だったりするのですが)。ベーシスト・長谷川カオナシの淡々としたボーカルが特徴的な『かえるの唄』や素直に感謝を伝える『さっきはごめんね、ありがとう』のような曲も交えつつ、最後はフォーキーでしんみりとした『傷つける』で締めており、「アルバム」としての構成力の高さもうかがえるのではないでしょうか。メロディもつい口ずさんでしまいそうなキャッチーなものが多く、「J-POP」として素直に楽しめる面もあるように思えます。
『社会の窓』の歌詞に出てくる人のようにボーカルで敬遠している方もいるでしょうか、そんな方でもアルバムとして聴いたら良い意味で印象が変わるかもしれない……と思わせるような作品でした。
評価:★★★★★