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まわりまわるは天下の金



 地図がどこにあるかは予想出来なかったけど、とりあえず冒険者ギルドへ行ってみようと考えた。


 そこならダンジョンに関係する情報はあるだろうし、この世界でお金を稼ぐというのがどういうことなのかわかるかもしれない。

 なんにしろ、僕はこの世界のことを何にも知らないんだ。ちょっとでも情報を集めなくては。


「テミスの話によれば確か……」


 正門の近くにあると言っていたので正門に来ているんだけど、それらしき建物が見えない。


「仕方がない。誰かに聞くか」


 知っていそうなのは門番だろうか。門は開いておりバザールも終わったからか門番も暇そうにしていた。今なら聞けるだろう。


「こんにちは」


「やあ、街から出るのかい?」


「いえ、冒険者ギルドがどこにあるかご存知でしたら教えてほしいなと思いまして」


「ああ、冒険者ギルドなら正門の壁を右に行って最初に壁にある扉が入り口だよ」


「へえ、壁の中にあるのか」


「彼らは街の防衛もしてるからね。有事の際には壁に沿って作られた通路を移動するのさ」


 そんな防衛に関することをペラペラ喋ってもいいのかな。この街のものなら誰でも知っている事実なんだろうけど、この街の防衛意識の低さは僕にも問題だとわかるレベルだな。


「ところで冒険者ギルドに何の用だい?」


 門番は不意に質問してくる。


「えっと、ダンジョンで取れる素材で必要なものがあって、依頼を出そうかと」


 ダンジョンで取れるものなんて魔石か音貨しか知らないけど。


「なるほど。依頼なんて出さなくても素材の大半は冒険者ギルドで売ってるからのぞいてみるといいよ」


 売ってるのか。そりゃそうか。でも、これでますますダンジョンの場所を尋ねる理由がなくなってしまった。


「ご親切にありがとう」


 僕は門番にお礼を行って教えられた通り右側の壁に沿って進む。壁は大きく、乗り越えるのは難しそうだ。もっとも空を飛べる魔物なんかいたら壁も意味なさそうだけど。


 冒険者ギルドと思わしき入り口の扉は歩いて三分ぐらいのところだった。入り口の扉自体は大きく中は見えない。ていうか営業してるかのかな?

 冒険者ギルドってもっと「わいわいガヤガヤ」って感じだと思うけど。


 僕は大きな扉にノッカーを発見すると、それを打ち鳴らした。


 少し待つと扉が少し開き、女性が出てきた。耳が頭の上についている。所謂、獣耳だ。見た感じネコ科の動物の耳だけど、何の獣人なんだろう?


「どちら様でしょうか?」


「あの、素材収集の依頼の相談にきました」


 隙間からのぞく室内を見ても気安く入れる雰囲気ではない。これはガチのお役所みたいだ。


「はい。それではご案内しますので、こちらへ」


 猫耳のお姉さんは重そうな扉を苦もなく大きく開くと僕を中に招き入れた。


 冒険者ギルドの中は基本的に通路になっており、それに沿って目的別の部屋があるようだ。入り口近く今から案内されるであろう応接室、その先は倉庫。倉庫の先はたぶん冒険者たちが依頼を受けるカウンターで、その前には壁から出るための扉が見える。冒険者たちはそこから出入りするようだ。


「こちらの部屋でお待ちください。担当者がすぐに参ります」


 そういうと猫耳のお姉さんは出ていった。


 応接室は質素ではあるものの清潔に保たれており、椅子や机もそこそこ年季が入った木製の頑丈そうなものだった。

 世界地図的なものも飾られており、この街の位置が書き込まれている。残念ながらその他の街は書き込まれていないようだ。

 壁には何かの旗がかけられており、これは領主か冒険者ギルドのマークみたいなものなのかな。


 ちょっと気になって旗をめくって裏側をのぞくと、そこには血痕とおぼしき染みが残っていた。


 ヤバい。


 そう言えば女神がミューズは百年ほど前に魔物に襲われて街に残った人たちは死んだと言っていたような気がする。そうすると、この血痕は百年前のもの……?


 僕は見ちゃいけないものを見た気がする。おとなしく座って待っていよう。


「お待たせしました。担当のオネイロスです」


 どことなくオカマっぽさを思わせるような印象の男性だ。年齢は若くもないけど、中年という感じでもない。化粧をしているので年齢はよくわからないな。


「シマです。この街には観光で滞在しています」


「なにやら依頼を出したいとのことで」


「はい。ダンジョンで取れるという音貨に興味がありまして」


「それならば、サンプルをお持ちしましょうか? 音貨と言っても様々な音色がありますので」


「あ、お願いします」


 オカマっぽいと思ったが仕草も言葉使いもオカマっぽさは感じない。ちょっと失礼だったかな……。いや、オカマを見下しているわけではないんだけど。


「では、サンプルを取ってまいります」


 オネイロスが応接室を出ていくのと同時に猫耳のお姉さんが飲み物を運んできた。


「飲み物をどうぞ」


 中身は宿のレストランで飲めるお茶と同じもののようだ。


「ありがとうございます」


「では、ごゆっくり」


 それと入れ違いにオネイロスが戻ってきた。「早いな」と思ったけど、そのために倉庫が隣にあるのかもしれない。


「これがサンプルです」


 オネイロスは持ってきた平たい箱をテーブルに置くと蓋を開ける。そこにはビー玉のような音貨が恐らく音色や音階順に並べられていた。

 箱の中には小さな宝石のようなものがついた棒が入っており、これで叩いて音を確認するらしい。


「どうぞ、これで叩いて音色を確認してみてください」


 僕はオネイロスから棒を受け取ると、端から音貨を叩いてみる。鉄琴のような音もあれば木琴のような音、なんならシンセサイザーで作った電子音のような音もあった。


「いや、これはすごいですね」


「ありがとうございます。これだけの種類を集めるのは苦労しまして」


「というと、一つのダンジョンだけで取れるわけではないんですか?」


「はい。色々なダンジョンで取れる音貨を集めて種類分けしているのです」


「へー」


「それでどうですか? お気に召した音貨はございましたか?」


「うーん」


 面白くはあるけど僕にはDTMの神具があるので正直に言えばどれも不要だ。だけど、ダンジョンの場所は聞き出さなくてはならない。


「隣町のダンジョンで取れるものってどれですか? 予算があまりないので低価格なものを中心に考えていて」


「それでしたら、こちらの三オクターブ分の音貨ですね」


 先程鉄琴のような音を出していたものだ。


「これって自分で取るとしたらどれくらい大変ですか?」


「そうですね……。一曲に必要な音貨にも寄りますが、隣町まで半日、ダンジョンで四時間探索したとして音貨が集まるまで平均で一ヶ月ぐらいです」


「結構かかりますね。それでこれを十セット買うとしたらいくらですか?」


「まとめてそれだけ買っていただけるのなら三白金音貨というところですね」


 三十万円てところか。なるほど買ったほうが安そう。


「では、十セットを三組買います。それで値引きとかは要らないので、この辺の街がわかる地図とか有りしたら見せてくれませんか?」


 地図は秘密というわけではなさそうなので直球で聞いてみる。


「はい。いいですよ。それでは音貨と共にお持ちします」


 よくわかんないけど、地図は見せてもらえるようだ。軍事的に敵対する勢力が近くにいないんだろうか。




◆ ◆ ◆




 僕はイラストが下手だった。小学生のころは同年代よりはうまかったと思う。しかし、絵を書かなくなったらどんどん下手になってしまった。

 少し練習したこともあるが、それだけでは全くうまくならなかった。


 新曲を上げるたびにネットで見つけた著作権フリーの画像や写真で誤魔化しているが、もっとキャッチャーなイラストを使ったほうが再生数は伸びると思っていた。


 しかし、イラストレーターに依頼するやり方もわからず、直接依頼して「礼儀がなってない奴」なんてSNSで晒されてしまうかと思うと、他の人に頼むのは精神的に無理だった。


「どっかいい風景でも取りに行くか」


 とは言ってもお金はないので徒歩圏内だ。


 近くの公園で街頭に照らされるベンチを撮影してみる。


「なんじゃこりゃ」


 カメラの性能が悪いのか、明るさは大丈夫だがピントがブレブレの写真になってしまった。ベンチの幽霊だ。


 確か脇を締めて肘を固定しながら撮影すれば……。


 少しはマシになったがとてもではないが使えるようなレベルではない。


 僕はそこからスマホの電池が切れるまで撮影していたが、納得できるものは取れなかった。




◇ ◇ ◇




 オネイロスに地図を見せてもらいながら説明を受ける。どうやら道で街同士が繋がれており、途中の分かれ道にはご丁寧に看板があるらしい。

 基本的に道に沿って歩いている限り迷うことはないそうだ。隣街はハーメスと言い、冒険者の拠点となっている街で治安はあまりよろしくないらしい。


 他の街も説明してくれたが、どれも三日以上歩くことになるので駅馬車を使ったほうがいいと教えてもらった。


「オネイロスは詳しいね」


「そうてすね。私は冒険者ギルドでは調査を担当してまして、どこで何が取れるかを調べていますので」


「なるほど。それでか」


 きっとオネイロス自身も凄腕の冒険者なのだろう。


 ダンジョンの仕組みもわかったし、代金の九白金音貨をアイテムボックスから取り出すふりをして袋から取り出すと、テーブルの前においた。


「ありがとうございます。商品は少し重いですが持てますか?」


「ちょっと持たせてもらってもいいですな?」


 僕は音貨が詰まった袋を持ってみた。確かに重いが持てないわけじゃない。ただ袋を剥き出しで持っていたら確実に悪い人に狙われるだろう。なんたって約百万円分のお金を持っているみたいなものだし。


「一回帰って鞄を持ってきます。預かってもらうことは出来ますか?」


「大丈夫ですよ。それでは引換証を発行しますので少々お待ちください」


 オネイロスは手元に持っていた帳簿のような本に何かを書き込んで僕に見せた。


「こちらの内容で問題なければ、割符をお渡しします」


 なるほど。そういう感じなんだね。


 内容は問題ないようなので僕は頷いて、割符をもらった。


「良い取引をありがとうございました」


「こちらこそありがとうございました」


 これでダンジョンへの行き方はほぼわかったようなものだ。鞄を買って、冒険者ギルドで音貨を受け取ったら、今度はその鞄に食料品なんかを詰め込み、隣町まで行けばいい。


 僕はこの時点でソニアとした大切な約束を忘れていた。





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