9.森を出る
そうは言ったものの山の上から見た感じ建造物の類は見えなかったので、とりあえずは川の下流へ向かうことにした。人間が生きるには水は必要不可欠な要素だし、それなら水の近くなら人間がいるかもしれない。そう考えてロクはアルミラージを狩った川へ戻り、下流へと歩みを進めた。
下り始めて3度目太陽が頭上に昇る。あたりの様子はすっかり森から林へ、林から平原へと人が住みやすそうな環境へと変化していった。川の近くの平原へと目を移したとき、地面に違和感を感じた。よく見ると草が踏み倒されていたり、所々土も見えている。
「獣道…ではないな」
何やら道のようなものを見つけた。自分以外の生物が残した痕跡を見るのは初めてだ。ロクは近寄ってその道へ近付く。観察してみると2本の引きずったような線と四足歩行しているであろう動物の足跡が残っている。
「これは馬車的な何かの跡?」
動物の足跡が明らかに馬のそれではなかったので断言はできないが、どうやら何かを引いて移動している跡なのは間違いなかった。ロクはこの先に人がいることを確信しこの道をたどることにした。
しばらくたどると道は徐々に大きくなっていったし、地面はどんどん踏み固められているような印象を受けた。さらに進むと前の方から何やらガタゴトと音が聞こえるのと、馬ほどの大きさのトカゲのような生き物が見える。ロクの身体に緊張が走る。あんなサイズのトカゲとか絶対に丸呑みにされる。徐々に近付いてくるトカゲだったが、何やら後ろにつけている。馬車か?そうなれば話は変わってくる、ロクはすぐに警戒を解きトカゲに近寄っていく。背中にはどうやら人が乗っているようだ。
「すみませーん!」
久方ぶりに声を出したからか裏返ってしまったがそれでもいい、確実に人が乗っているのだ、何かしらアクションを起こしてくれるはず。人の顔を確認できるくらいの距離まで近付くと、馬車モドキの速度も落ちて、やがて止まった。トカゲに乗っていたのは立派なヒゲを生やしたおじいちゃんだった。
「なんじゃなんじゃ危ないのぉ」
「すみません!」
「なんじゃて」
「あぁいえ、ここに来て初めて人を見かけたのでつい」
前世でも馬車の前にこうやって飛び出すのは自殺行為だろうし、危ない行為だった、反省する。
「初めて人を…?ふむ、おぬしどこからきたのじゃ」
「えっと…あっちの山?森?から来ました」
「ふむ…」
おじいちゃんは俺の恰好をジロジロと見て、やがて一点に目が留まる。腰に差していたアルミラージの角で作った短剣だ。
「それはどうした?」
「襲われたので倒しました」
「なるほどの…」
おじいちゃんは少し考えたような素振りを見せ、再び喋りはじめた。
「おぬしがいたのは無の森というところでの」
「無の森?」
「そうじゃ、何もない森といったところかの。食べられる物も少ないし魔物も多少出るようじゃが用事がない限り人は近寄らん森じゃな」
なるほど確かに何もなかった。毒リンゴしかなかったし。
「ところでおぬしは何故無の森にいたんじゃ?あの辺りには村もなかったはずじゃが」
「それはー…」
しまった。そうだよな、用事がない限り人が入らない森から来たと言われたらこの疑問は当然だろう。カバーストーリーを考えなくては…そう考えているとこちらの様子を察したのかおじいちゃんが再び話始める。
「まぁ何か訳アリのようじゃな、深くは詮索せんよ」
「…助かります」
「うむ、ところでおぬし見たところ素寒貧じゃが、行く当てはあるのかの?」
「お見通しですか、行く当てもなければ見たまんま素寒貧なのでお金もないんですよ」
「ほっほっほ、じゃろうな」
笑いながら立派なヒゲをいじるおじいちゃん、笑い事じゃないんだけどな?
「行くところがなければワシにくればよかろう、多少は働いてもらうがの」
「えっ、いいんですか?」
「お金もまともな武器も持ってないのなら冒険者にもなれんじゃろ、見たところギルドカードもないようじゃし」
「それは…その、そうですね、お世話になります」
「うむ、後ろの荷台に乗るがよい」
こうしてロクはおじいちゃんのお世話になることになった。




