08
「…………」
リリアリアちゃん、ついに無言になっちゃった……。
お願いだから無言で店の引き戸を開けないで欲しい。
今日のリリアリアちゃんは元気どころか挨拶までナッシング……。まあ、検討が付かないとか言うと私の方が彼女に殺されそうだから声かけた方が良いよね?
昨日の彼女は「……こんばんわ」と影を落としながらも声を何とか振り絞って居酒屋に入って来たから、もう申し訳ないとかそれ以前にドン引きよ。
今日のリリアリアちゃんは完全にヒロインのキラキラ感を感じない。
『あの四人』は自分たちが本来は乙女ゲームの攻略対象でリリアリアちゃんを笑顔にする存在だと分かってるのかな?
「……リリ……アリアちゃん?」
「私、生まれて初めて人を殺したいと思いました」
病んでるなー。
リリアリアちゃんは席に着くなり背中からメラメラと憤怒の炎を迸らせている。この怒りの炎でホルモン焼きが焼けちゃいそう。
と言うか周囲の人たちに笑顔を届けるのがヒロインでしょうに。攻略対象がこれまでの人生で気付かなかった幸せを一緒に気付いてあげるのがヒロインでしょ?
それがどうして穏やかな心を持ちながら激しい怒りに目覚めちゃうの?
今日も話を聞くのが怖いわー。
でもリリアリアちゃんの不満をここで聞いてあげないとこの子、本当にあの四バカを殺しちゃいそうだし……。
「えっとお……、何飲む?」
「私、昨日からウォッカに目覚めたんです」
アルコール度数高!!
ンなもんヒロインのアンタに飲ませられるか!!
「ゴメンねえ、ウチにウォッカ無いからハブ酒でいい?」
「マリアンナさんが口移しで飲ませてくれるなら良いです」
「え?」
「私、もう精神的ストレスを如何にかしないと……死んじゃう……」
……前振りが怖えー。
と言うか悪役令嬢の私にアンタは何をさせようとしとるんじゃい。だからこの店はそう言う場所じゃないって言ってるでしょうが。
あれ?
私が以前そうやって注意したのってドナテロだったかな?
え、まさかリリアリアちゃんは四バカの筆頭と同じレベルになっちゃったって事? ダメだ、今はそっとしておこう。これ以上言うとリリアリアちゃんが本当に死んじゃう。
色んな意味で。
「アイツら、何やらかしたの?」
「……お」
「お?」
「お、おおおおおおおお」
「え? リリアリアちゃん、大丈夫?」
「アイツら、政府の経費で……如何わしい夜のお店に……突撃したんです!!」
「……リリアリアちゃん、無理しないでいいんだよ?」
「言います、それが私の仕事ですから!」
いや、それは乙女ゲームのヒロインが受け持って良い仕事じゃないでしょ?
「えっ……とお? どこから聞けば良いのかな?」
「アイツら、ダンジョンから帰るなりいきなり女性が上半身裸になって男性にイヤらしいサービスを提供するお店で打ち上げをするんだって……そう言って私に経費を前借りしようとしたんですよ!?」
おお、強烈を通り越してもはやノックアウト級のハードパンチを頂きました。て言うかあの四バカは攻略対象のくせにヒロインに何を要求しとるんじゃい。
リリアリアちゃんがカウンターに拳を叩きつけちゃった……。
アンタらは冒険者になって更生するどころか逆に歯止めが効かなくなっとるやんけ。
因みにこの話、リリアリアちゃんにこれ以上説明させる訳にはいかずそれとなく聞き出したところ、原因はアホ王子二人にあるそうだ。
ことの発端はアホ王子が如何わしいお店で打ち上げをしたいと言い出して、歳上が奢るのが筋だと主張した事かららしい。
バカ国王とクソ宰相は渋々それを了承。
そして実際に夜のお店に突撃したところ、アホ王子二人は欲望を全開にして暴走を開始。お店の女の子の肌をガチで手当たり次第しゃぶり尽くす。奢られる事が決まって心が緩んだのか、そんな暴挙に出たのだそうだ。
そして二人はしゃぶり終わったら満足げな顔でバカ国王とクソ宰相に女の子をバトンタッチ。
二人の涎に塗れた女の子を差し出されて年長者二人は甚だ激怒。
そして被害を被った女の子は号泣。
果てにはお店の逆鱗に触れて四人まとめて出禁を食らう。
聞くだけで背筋が凍る悪行だ。
と言うか自分で思い返して思わず顔を赤らめてしまう、お願いだから女の私にそんな想像をさせないで……。
て言うかアイツらが目の前にいたら私だったらブン殴ってるなあ。悪役令嬢とかヒロインとか立場なんて関係無く女の子をこんなに苦しめて平然と出来る男は許せない。
わざわざ思い返さなくてもあの四人が半年前までこの国を執り仕切ってたんだよなー。
そんな国で生まれ育ったかと思うと私もゾッとするわ。今更ながらに思うのは私のお父様が如何にまともだったかと言う事。だってお父様がいなければ誰もあの四バカを制御出来なかっただろうし。
これはやっぱり早めに手を打っておいた方がいいな。
じゃないとリリアリアちゃんが本当に人殺しになっちゃうから。
「ねえ、リリアリアちゃん?」
「何ですか? マリアンナさんまで私を責めるんですか?」
うわあ……。
ヒロインがやさぐれちゃったよ。ハブ酒が注がれたグラスを握りしめながら上目遣いで睨んでくる。いや、睨むのとは少しだけ違うかな?
まるで何かの中毒者みたいなジト目で私を見てくるよお……。お願いだからそんな目で私を見ないで欲しい。
「れ、例の禁呪法はどうなったの?」
「……魔法書は王城の図書館で発見しました」
「え、じゃあ……」
「でも……私、もう疲れました」
げえ……。
どんな時でも明るく前向きな純度百パーセントのヒロインが諦めちゃった。でも話を聞く限りだと誰もリリアリアちゃんを責められないじゃん。ここはなんて言えば彼女的には正解なのだろう?
『頑張って!! リリアリアちゃんなら絶対に出来るって!!』
うーん、ここまで疲労困憊な人に更に頑張らせるのは何かが違う気がする。
『大変だったねえ、でももう頑張らなくていいんだよ?』
ダメダメ、私の平和な居酒屋ライフのためにもリリアリアちゃんには頑張って欲しい。
『あの四バカを一緒に地獄に叩き落としましょう!!』
これが一番効果がありそうだけどヒロインへの鼓舞には最も不釣り合いな気がする。ダメだ、なーんにも思い浮かびません。今の私にはリリアリアちゃんへの同情が精一杯。
でも彼女は絶賛泥酔中です。
この様子を見て流石にリリアリアちゃんを見捨てることは出来ない、少なくとも巻き込んだ側の私は罪悪感で胸がいっぱいです。私にしがみ付いて人目も憚らず号泣する彼女に困り果ててしまう。
なんか勝手に居座りだした野良犬に情が移った気分だ。
「マリーちゃん、その子って友達? 最近この店で良く見かけるねえ」
「え?」
ウッカリ間抜けな声を漏らしてしまった。
ふと一人の常連さんが私たちのやり取りに何か疑問を感じたらしい。確かに側から見ればちょっと特殊なやり取りだと自分でも思う。
コレって絶対に私が男にフラれた女友達を慰めてる様に見えるんだろうなあ。
でも泣かせた相手は『あの四人』なんだけど。
「……マリアンナさん、私たちって友達ですよね?」
「う……」
「……え? もしかして私だけの一方通行ですか?」
ひょええええええええ。
最も恐れていた事を確認されてしまった。別に私はリリアリアちゃんが嫌いではない、だけどやはり私たちは乙女ゲームの悪役令嬢とヒロインの関係だ。
出来るなら距離を取っておきたいところ。
超絶美少女のヒロインがガバッと身を乗り出したかと思えばゼロ距離で私を見つめて来るううううう。こんな体勢になって友達関係を断れる人間なんておりませんがな。
「……私とリリアリアちゃんは友達……だよ?」
「マリアンナさん!!」
リリアリアちゃんってばものすごい迫力だから拒否出来ない……。
「は、はい!!」
「……それは普通の友達? それとも親友?」
踏み込んで来たーーーーー!!
リリアリアちゃんはインファイターでした。
「そ、それは……」
「因みに私はマリーちゃんを親友だと思ってます。リリーって愛称で呼んで欲しいと思ってます!!」
ついに私の事を愛称で呼び出した。
もう引けない……、どうやら私はドップリと乙女ゲームの世界の住人になってしまったらしい。鼻息荒く答えを迫るリリアリアちゃんに完全に押し切られました。
「私、リリーちゃんの事大……好きだよ?」
「……今晩、マリーちゃんの家にお泊まりして良い?」
「ええ!? 今晩!?」
「一緒のベッドで寝て良い? ……マリーちゃんの胸の中で泣いていい?」
オーマイガー……。
コレって強制イベントですか?
「い……いいよ? でもお私の家ってボロアパートだから男爵令嬢のリリーちゃんには見合わないかも……」
「大丈夫、ウチの実家なんて雨水も凌げないくらいボロいから」
さいですか。
こうして私はリリーちゃんの迫力に負けて彼女を一晩家に泊まらせる事となった。私って自分でも知らなかったけど押しに弱いらしいです。
お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m
また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。