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ここから居酒屋パートです。墜ちる人間はトコトンまで墜ちる、アルコールに逃げて愚痴をこぼす。
そう言う人はこぼした愚痴の数だけ時間と信用を消費する、と言うところを描いてみました。
断罪イベントから半年が経ったある日。
ーーーー異世界風居酒屋・悪役令嬢。
「いらっしゃせーーーーーー!! ああ、アレクサンドロさんだ。お久しぶりじゃん」
「マリーちゃん、久しぶりって言うけど俺ここに来るの三日と開けてないぜ?」
私は断罪イベントを見事に回避して今は王都の片隅で居酒屋を経営している。
もうあれだけ王族の秘密を暴露したから貴族の令嬢はやれないと、一度は無罪放免で戻った実家で父にそう言って勘当して貰うように頼み込んだのだ。
父も私の事を可愛がってくれていた人だったが、やはりそこは貴族の一当主。
私の言葉の意味を理解して泣く泣く了承してくれた。まあ、私からすれば貴族社会なんてもう懲り懲りだと言うのが本音だけど。それに慰謝料の十億グランも手に入れたのだから本来は遊んで暮らしても良いくらいだ。
それでも金銭感覚を狂わせる訳にはいかないと、王都の片隅で労働者階級を相手に場末の居酒屋を経営する事にした。
そんなこんなで店のオープンまではそれなりに苦労はした訳で。
この店をオープンさせるまでの間、散々に市場調査と料理の研究を繰り返した。
この中世ヨーロッパ風の乙女ゲームの世界に何とか日本っぽい居酒屋を実現したいと考えてとにかく苦労した。唯一救われたのはこの世界に魔法が存在する事。
そして私にその才能があった事。
この店は私の前世の記憶と魔法の才能によって営業が成立しているのだ。
今日も店の中は大繁盛である。
「マリーちゃん、モツ煮二つ」
「はーい」
「マリーちゃん、こっちはレバー串タレで三本」
「はいはーい」
「マリーちゃん、俺たちはモツ鍋塩味でお願いしていい?」
「モツ鍋入りましたー、塩味ラジャー!!」
あれよあれよと注文が舞い込んでくる。
店はカウンターが十席の四人掛けテーブルが三つ。両手を上げないと歩くのも困難な間取りの店舗内。それでも足を運んでくれるお客さんは皆んな常連さんが多くを占める。
この店の経営はリピーターさんによって支えられていると言っても過言ではない。
だけど一見さんを軽く見ることもしない。
寧ろ一見さんを快く歓迎出来る常連さんばかりで私は助かっている。今日も異世界風居酒屋・悪役令嬢は平和な空気に包まれていた。
それでも例外とはいついかなる時も存在するもので。
四人掛けテーブルの一つでドヨーンとした空気を撒き散らすお客さんがいた。と言うか彼らは常連なのだ、この店に毎日入り浸っては隅っこのテーブルで愚痴を吐き散らかしては閉店まで粘っては千鳥足で自宅への帰路につく。
そんなめんどくさい常連の正体とは……。
「マリアンナ!! ホッピーのなきゃみをおきゃわりだ!!」
「父上、我々にはボトルで入れた一番安い焼酎が有るでしょう!?」
「レオナルド、きっさまーーーーー!! 私は国王なるぞ!? その私に指図しゅるとは良い度胸ではにゃいか!!」
「父上、兄上の言う通りです。我々にホッピーのなかを頼む様な余裕は無いですよ?」
まさかの元王族だった。
それも私を断罪イベントに送り込んだこの国の元国王とそのバカ息子二人。そして一人静かに晩酌を進める元宰相の男の計四人。
どうして『元』かって?
理由は至ってシンプルだ。
それはギロチン台で暴露した彼らの性癖が原因でこの国で革命が起こったのだ。王都の全市民が集った私のギロチン処刑会場、そこで民衆に王族全員が変態だと言う衝撃の事実が伝播した訳で。
呆れた民衆は変態王族に政治を任せてなるものかと憤りを感じたのだ。
その結果、王政で成り立っていたこの国は崩壊。
今は民主制となって経済も王政時代と差して変わらず安定しており、寧ろ安定の兆しさえあり特権階級も廃止された事で市民も気軽かつ自由に職業を選べる様になった。
斯く言う私もその恩恵を受けた一人だ。
そんなこんなで一市民に成り下がった王族三人に元宰相を数えて合計四人は毎晩の様にこの店で愚痴をこぼすのだ。それも愚痴の内容はほぼ半年前の革命について。
と言うかアンタら、良く私の店に来れるものだな。
元はと言えば私を断罪したからアンタらは王族から引き摺り下ろされたんだろうが。でも私もヒロインを虐めたのは事実だし、この状況はマッチポンプなのだろうか?
だけどどんな事情があれこの店に入れば誰もがお客さん。
私は因縁の人物に注文の品を笑顔で運んでいく。
「はい、なか一丁。ドナテロさん、呂律が回ってないじゃん。大丈夫?」
「マリアンナーーーーーー!! 私はまちぎゃっていちゃ、ちゅまにゃんだ!! 飲めるけどね!?」
ドナテロは亡き上戸らしく酔っ払うと良く私にスキンシップを求めてくるのだ。
「ちょっとお、この店はそう言うお店じゃないんですからね?」
「そこのおっさん、俺たちのアイドルに何しやがんだ!! 皆んなあ、マリーちゃんを守るぞ!!」
おお……。
場末の居酒屋で元王族が労働者階級の人々にボッコボコにされていく。この店の常連さんは私の事を革命の女神と言って憚らない。
私の暴露によって王政が廃止された。それにあやかって私は民衆から正式にギロチンアイドルと言われる様になったのだ。
なんか嫌。
そして私の店で暴れないで欲しい。
おお、ドナテロに巻き込まれて他の三人もボコボコにされていく。頼むから店の皿とか投げないで貰いたい、割れたら誰が弁償してくれるのか、と言う話だ。
私はいつもの光景を大きくため息を吐いてゲンナリしながら見守っていた。そしてタイミングを見計らって注意を促す。
別にドナテロらがどうなろうと構わないけど、せっかく繁盛し始めた居酒屋を潰されたは堪らないと言うのが本音だ。
「はい、ストーップ! 常連の皆んな、まずは落ち着いて」
「マリーちゃんにセクハラなんて許せねえよ!!」
「私は何とも思ってないから。それよりも怒ってくれたお礼に皆んなにビールを一杯ご馳走しちゃう!」
常連たちが私の奢り発言に活気付く。
それと同じくドナテロも歓喜の声を上げる。が、流石にそれはない。アンタに奢る謂れはないのだ。常連さんも皆んなそう思ったらしく再び王族四人に怒りの拳を見舞い出す。
だから暴れないで欲しいんだけど?
こうやって私の今の日常は騒がしくも活気に満ちて流れていく。今日も異世界風居酒屋・悪役令嬢は順風満帆に営業する事が出来た。
そんな中でガラリと店の引き戸が開く。
私は店の入り口に視線を向けるとそこには意外な人物が立っていたのだ。この店が営業を開始して早半年。これまで全く姿を見せなかった彼女がひょっこりと姿を現した。
「こんばんは、マリアンナ様」
「あれ!? リリアリアちゃん!?」
悪役令嬢が営む居酒屋にまさかのヒロイン訪問である。
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