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ラスト二話。次回で最終回となります。
愛された悪役令嬢マリアンナ・ウルベルトの未来を最後まで温かく見守って頂ければ嬉しいです(`・ω・´)ゞ
ラスボスイベントから半年が経ったある日。
ーーーー異世界風居酒屋・悪役令嬢。
「いらっしゃせーーーーーー!!」
「マリー、久しぶりだねえ。元気だったかい?」
「お父様? 今日はどうされました?」
「いやなに、娘の顔を見たいと思うのは親として当たり前の感情だろう? でもお勘定だけは最後にしてね?」
お父様は顔を合わせるなり親父ギャグを放り込んできた。
お父様の訪問は何時だって突然だ。
私はラスボスイベントを経た今もこうして王都の片隅で居酒屋を経営している。店の経営は相変わらず順調で、毎日の様に店の中は常連さんたちがごった返す。
あれから時折お父様も店に顔を出してくれる様になった。
私は乙女ゲーム『魔法の園』の悪役令嬢に転生して、記憶を取り戻した時はタイミングの悪さも手伝って絶望だってした。それでも今は平和で充実した毎日を送れるのだから良しとしようと思うようにしている。
……だから店の隅っこだけは見ない様にしてます。
「マリアンナ!! 紅生姜サワーをおきゃわりゅだ!!」
「父……じゃなかった。タダのオッサン、だから安酒のキープボトルが残ってるって言ってんでしょうが」
「父……じゃなかった。赤の他人のオッサン、僕も兄さんもアンタの飲み食い代は出しませんよ?」
「きっしゃまらーーーー!! ここまで育てた恩をわしゅれおってーーーーー!!」
「ラスボスのおっさん、私の息子たちに父親ヅラすんの止めてくれない?」
「ミケランジェロ、きっしゃまあ……。取り立ててやった恩義をわしゅれおってーーー……」
元王族の四バカたちはあれ以降、関係を拗らせてました。
どういう経緯かは知らないけどアホ王子二人のDNA鑑定をしたところ、二人はバカ国王と血が繋がっていない事が判明したらしい。実はこの二人は今は亡き王妃と不倫関係にあったクソ宰相の息子だったのだ。
乙女ゲームの歴史上、究極とも言えるクソったれなスキャンダル。
昼ドラの構成作家もビックリのまさかの仰天エピソードでした。て言うかこの設定、説明書にも書かれてなかったやんけ。
こんな事実が世間に知れたらゲームのファンが泣くぞ?
そもそも元王妃も何やらかしてるの? ゲームのストーリーでは既に故人と言う事で美しい過去を掘り起こすキーパーソンだった彼女。
確か元王妃ってアホ王子たちのストーリーを進めるといい感じに感動的なスチムが出てくるんだよなあ……。
それがいざ蓋を開けてみたら見事なまでの昼ドラ感満載なドロドロっぷり。元王妃は死んで尚、いや、寧ろ死んでいるからこそ考え無しに人間関係をぶち壊しにかかるのだ。
もはや元王妃の存在感は悪霊レベルだった。
冒険者生活でバカ国王のドン引きレベルのバカっぷりに嫌気が差していたアホ王子たちは事実が判明するなりコロッと態度を変えてクソ宰相を父と呼ぶ様になってしまった訳だ。
アホやな。
で、それとは別に肝心の四バカが無事だった理由。
リリーちゃんの古代魔法でダンジョンに封印、基、生き埋めにされた筈の四バカがどうして私の居酒屋で普通に飲んだ暮れているのか。
はい、その理由もバカバカしいものでした。
「マリー、ダンジョン管理も楽じゃないよ……。はあ……」
席に着くなりため息を酒を煽る実の父。
ダンジョン管理はウルベルト公爵家の管轄、お父様は先日の四バカのダンジョンラスボス化計画で大きく頭を抱える事となってしまった。
実はあのダンジョン、地下七十階層にセーブ兼地上に繋がるワープポイントがあったのだ。
閉じ込められて出られなくなった四バカはならば逆に奥に潜る事を決意した。ダンジョンの歴代最高到達階層記録は地下六十階。元国王たちはその記録更新を最も簡単に達成してしまう。
そして辿り着いた七十階層で淡く光る魔法陣を発見してしまったのだ。
ここで更にタチが悪いのが発見された魔法陣が外へと繋がるゲートだったのだ。何よりも不幸だったのはその先と繋がっていたのが私の居酒屋だった事。
一番ナメてると思ったのはそのゲートが四バカの指定席へと繋がっていた事。
バカじゃないの?
どう言う経緯を辿れば私が必死こいて立ち上げた居酒屋が四バカの出勤経路になるんだって話よ。と言うかコイツら、毎日の様に仕事帰りに私の店に入り浸りやがって。
まあ、以前と状況は変わらないと考えれば多少は目を瞑れるけど。
それでもダンジョンからの帰還後、即乾杯とか絶対に人生舐めてるよね? 今日もコイツらは帰還するなり「ただいま、からのーーーー、とりあえず生!!」とか言いやがった。
いつか腰を入れて引っ叩きてー。
それとこの世界は乙女ゲームじゃなかったの? 今一度言うけどどうにも設定がロールプレイングゲームっぽいんだよねえ……、はあ。
「お父様、早くどうにかならないんですか? この店を勝手に出入り口にされたら私だって穏やかではいられませんよ?」
「……リリー嬢に託すしかあるまい。もう少しだけ待って欲しいんだ」
お父様も疲労が溜まってるなあ……。
何とも言えない哀愁を撒き散らしてお父様は申し訳なさそうに言葉を吐き出していた。これは見ている分だけでこっちの方が申し訳ないと感じてしまう。
「この前も開店準備前に店で着替えてたら……四バカたちが狙った様なタイミングでワープして来ちゃって……」
「ま、まさか……? ……見られたのかい!?」
「ギリギリでセーフでした……」
おお……。
この場に居合わせて話を聞いていた常連さんたちが一斉に立ち上がって四バカたちを取り囲む。殺気に満ちた目で飲んだくれる元王族たちを無言のまま見下ろす。
毎度の如く常連さんたちは荒れ狂い、キョトンとする飲んだくれ四人を見る見るうちにボッコボコにしていった。四バカはいついかなる時でも扱いがぞんざいだった。
おお、おお。
店内に酒気と一緒に怒気と殺気が満ちていく。
最初はギャーギャーと文句を言っていた四バカたちも大勢の常連さんたちに殴られて蹴られて、ついで怒鳴られて見る見るうちに縮こまっていく。まるで何処ぞのギャグ漫画みたいにシュルシュルと小さくなって言い訳さえも言わせて貰えない様だ。
情けねー、あれが本当に元王族かと思うと何よりも私自身が情けないと感じてしまう。
盛大にため息が漏れると言うものだ。
シュンと言う効果音が背後に見えるくらいに店の片隅で四バカは小さくなっていた。人望って大事だよね、こう言う場面を目の当たりにすると心底そう思える。
と言うかアンタらいつになっても成長しないよね?
常連さんたちは「俺たちのアイドルの着替えを覗くなんざ極刑だ!!」と怒鳴ってます。乙女ゲームの世界って無実と極刑しか判決の選択が存在しないのかな?
「お父様、リリーちゃんに何を頼んだんですか?」
「うん? あのバカたちを封印し損ねてはダンジョンの入り口を閉鎖する理由も無いからねえ」
「つまり土木工事の陣頭指揮ですか? もう一度ダンジョンに入れる様にするって事ですか?」
「そう、彼女はやっぱり何だかんだで才女だから。まともになれば何でもそつ無く熟してくれるから。それと……」
「それと?」
お父様がキョロキョロと周囲を気にしながら私に耳打ちをしてくる。「ちょっと良いかい?」と言って私を手招きするのだ。
お父様は民衆から慕われている。そして何より私の父だ。この店の常連さんからもすんなりと受け入れられて時折お酌をされる事もある。そう言った周囲からの気配りを見事に対応しつつお父様は小声で私に教えてくれた。
お父様がまともに戻ったリリーちゃんに何を頼んでいるか、それを居酒屋特有の騒がしい喧騒の声に紛れて説明してくれた。
「……七十階層の魔法陣を書き換えて貰おうと思ってね」
「……また四バカを懲らしめるつもりですか?」
「うん、ちょっと帰って来れない場所までワープして貰おうと思ってるんだ……」
「含みがある感じですね?」
「……そろそろかなあ?」
お父様がチラリと四バカに視線を向けた。
アイツらはこうやって常連さんたちにボコられては店の片隅にあるゲートを使ってダンジョン内に逃げ帰るのだ。因みにそのゲートは一度でもダンジョン内のものを潜れば何方からでも移動は可能となる。
つまり店のゲートを使用可能な人間は……四バカたちを人間扱いして良いのかな? まあ、とにかく現状はダンジョンの歴代最高到達階層記録保持者である四バカしかゲートを使用出来ない。
だから常連さんたちも追いかけたくともダンジョンに逃げられたら四バカ追えないのだ。
もしかしてお父様は四バカがダンジョン内に逃亡するのを待ってるのかな?
そんな風にお父様の横顔を覗いていると、四バカは情けない顔で泣きじゃくりながらゲートを潜っていく。「お、覚えてろよ!?」ともはや小物のテンプレ感漂う捨て台詞を吐き捨ててスゴスゴと逃げていった。
あ、ちょっとお!?
アンタら、腹いせに人様の店の壁に落書きするんじゃ無いっての!! そんな悪あがきをするから常連さんたちが更に殺気立ってボッコボコにされるんでしょうが。その報復行為の何と情けない事か、そんな小学生以下の事しか思い付かないからアンタらは他人様から嫌われるっていい加減に気付け。
それと常連さんたちも店の備品を投げないで……。
私の事を想ってくれるのは嬉しいけど備品と店内に傷を付けないで……、どうして最終的に私が被害を被るんだろう?
あ。
先頭を走るバカ国王が転んだから後に続くアホ王子二人とクソ宰相がドミノ倒しで盛大にすっ転ぶ。何度でも言うけどお願いだから私の店を荒らさないでくれません?
アイツらは本当に何をしたいんだろう?
一国の王族から転覆してホームレスになって、そこから転じて冒険者となったかと思えばダンジョンのラスボスに転職失敗。
最終的にダンジョン探索の歴代最高記録を叩き出す猛者に収まってしまう。
四バカの職務経歴って特殊すぎるわー。
日本だったら転職の面接とかで「君たち、何がしたいの?」と面接官も呆れながら質問するんだろうなあ。いや、書類選考も通らないかな?
私が色々と考えていると結局四バカたちはゲートを潜って店から姿を消してしまう。アイツら、協調性のカケラも無いな。我先にとゲートを潜ろうとするから詰まっとるやんけ……。
アンタら見てると日本のテレビのコマーシャルを思い出しちゃう。
元体操の金メダリストが「水のトラブル何千円」って歌ってたアレ。
はあ、今日何度目だろう? 本当にため息しか出ない。だが自分の日常に辟易とする私ではあるが見逃さなかった。視界に入ったお父様がニヤリとほくそ笑んでいたのだ。
お父様はそんな私に気付いて悪い笑みを浮かべて口元を吊り上げる。こんな様子の父を初めて見て私は不安しか覚えません。これはさっきお父様が言ってたリリーちゃんへの頼み事に関係があるんだろうなあ。
真相を聞くのが怖えー。
そしてこれまたタイミングを見計らった様に店の引き戸が開く。ガラガラと軋んだ音を上げて一人の人物が店内に足を踏み入れたのだ。
その人物とは……。
「ウルベルト卿、首尾よく計画は進捗してます」
お父様と同様に悪い笑みを浮かべたリリーちゃんだった。
「やあ、リリー嬢。手間をかけさせてしまったね?」
「いえいえ、私も楽しく仕事させて頂きました。ひっひっひ」
あれえ?
リリーちゃんってまともに戻ったんだよね? 彼女が漏らした不気味な笑い声に不安だけが募っていった。
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