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舞台は初の居酒屋外。


ずっと会話だけで終わらせる事も考えましたが、やっぱり主人公は動かないと。躍動しない貰ってお店に戻った時に盛大にため息を吐いて貰うとしましょう。

 バイオレンス・ビーが生息するダンジョンは王都の郊外に存在する。


 ダンジョンの造りは至ってシンプルで地下に延々と続くもので、潜れば潜るほどに出現するモンスターやトラップのレベルが高くなる。



 因みにバイオレンス・ビーの生息領域はこのダンジョンの地下三十階。



 冒険者のレベルで言うと五階層までが初心者レベル。二十階層までは中級者レベルで三十階層にもなると上級者の実力が備わっていないと無事に地上まで帰還出来る保証は無い。


 私にバイオレンス・ビーのミツをくれた店の常連さんはかなり危険な事をしたと言う事になる。因みに四バカは余裕で五十階層にまで到達出来るレベルらしい。



 四バカは上級冒険者の更に上、特級冒険者と同等の実力を備えているのだ。


 世の中って本当に理不尽だよね。



 バカさ加減と冒険者の力量って比例するんだから最近は特に乙女ゲームの世界に救いが無いものかと真剣に考えてしまう。



「お父様、私以外にも水性魔法の使い手を集めたんですね?」

「マリーは自慢の愛娘だけど流石に一人の力でダンジョンを水浸しに出来るとは思ってないさ。それが出来たら魔王を名乗ってもいいレベルだからねえ」

「確かに。それでもかなりの人数を集めてますけど……」

「ざっと二十人ってところだね。全員特級魔法使いだよ、レベルは……マリーに少しだけ見劣りするレベルかな?」



 お父様の視線を追うとそこにはピッタリ二十人の男の魔法使いの姿があった。彼らは今か今かと魔法発動の時を待って集中を高めている。


 ふむ。


 確かに私の魔法力設定は乙女ゲーム内でも屈指の筈だ。説明書によるとマリアンナ・ウルベルトは特級の更に上、超級魔法使いと同等との事だ。



 だからお父様の見立ては概ね正しい。



 唯一、この場で誤りと断定出来る事があるとすればリリーちゃんくらいかな?



「死すべし死すべし死すべし死すべし死すべし死すべし死すべし死すべし死すべし、四バカ死すべし死すべし死すべし」



 リリーちゃんの様子が間違いなくおかしい。


 この子は目に巨大なクマを作って頭に鉢巻きを巻く格好でダンジョン前に集合していた。鉢巻に火を灯した蝋燭を挿すスタイル、側から見ている分には危険な香りがプンプンと漂う。



 リリーちゃんは八つ墓村の住人か何かですか!?


 だからリリーちゃんはちゃんとヒロインをして下さい!!



「……リリーちゃん、大丈夫?」

「大丈夫だよーー、今日こそアイツらを地獄に叩き落とせるんだからダメな訳ないじゃん。ひっひっひっひ」



 目が怖えーーー。


 目を血走らせる乙女ゲームのヒロインがいてたまるか。と言うかリリーちゃんの背負った四バカの怨念がまさかここまで深いとは思わなかった。


 笑い声なんて完全に魔女のそれやんけ。


 だけどここで四バカをどうにかしないと、この世界にはいつまで経っても平和が訪れない。それもまた間違いではないのだ。



 ……私って乙女ゲームの世界に転生したんだよね?


 何処ぞのロールプレイングゲームの世界に転生した気分になるのは何故?



「マリー、そろそろ四バカがダンジョンに潜って半日が経った頃だ。準備はいいかい?」

「……何時でもいけます。お父様、魔法発動の合図をお願い出来ますか?」

「了解だ。では私の合図でこの場に集まった魔法使いが一斉にダンジョンの入り口に向かって水性魔法を放つ。いいね?」



 総勢二十名と一人、水性魔法の使い手たちの緊張感がグングンと高まっていく。


 ダンジョンは冒険者ランクが上がると必然的に地下に潜る時間が早くなる。特級冒険者扱いの四バカなら半日もあれば近く二十階層へと到達出来る計算となる。


 二十階層まで潜ってしまえばアイツらも入口から迫り来る水性魔法から逃れられないだろうと計画したのはお父様だった。



 やだなー。



 ダンジョンの中に四バカのドザエモンを作り上げる作業のお手伝いとか考えただけで背筋が凍り付く思いだ。プカプカと水面に浮かぶ四バカの姿を想像すると三日はまともに飯が食べられなくなるじゃん。


 私もそろそろまともに悪役令嬢したい。


 ここは四バカの顔をホルモンの部位に置き換えて想像してみよう。



「アイツらめえ、一昨日も私に恥をかかせやがって……。四バカは全員その生首を河川敷に晒しちゃる」



 私の隣でメラメラと怒りの炎を迸らせるリリーちゃんが物騒な発言を繰り返す。



「お父様?」

「マリーは魔法に集中してくれていいから。リリー嬢は……ちょっと一昨日四バカ関連で色々とあってね」



 ……お父様ったら私にが気を遣わなくても大丈夫です。


 だって事の経緯はリリーちゃんから直接聞いちゃったから。昨日のリリーちゃんは私の家に泊まってベッドの中で散々にその愚痴を漏らしてたから。



 一昨日四バカはタバコポイ捨て事件で迷惑をかけた農家に足を運んだらしい。



 先日のタバコポイ捨て行為を反省したから自発的に謝罪をしに行ったと言う殊勝な発想からでは無く、新政権のお偉いさんから頭ごなしに怒られて渋々と農作業を手伝いに行ったのだ。



 と言うか大人だったら誰かに言われずとも率先して頭を下げにいけや。



 寧ろその場で謝れ。


 因みに四バカは謝罪に際して菓子折りの一つも持参しなかったらしい。



 とまあ私の愚痴は横に置いておくとして、四バカは農作業中に何を思ったのか余計な気を回してしまったのだ。農家の人がわざわざ分別して管理していた育苗のポットを一箇所にまとめてしまう。


 因みに育苗とは畑に種を直接まかずポットなどの容器である程度まで育てる作業工程で、育てる農作物によっては自然の影響を受けにくくなり、丈夫な苗を作れたりする。


 問題は四バカが何も考えずにポットを纏めてしまった事。


 農家の人が実験的に無農薬農法を実施するため敢えて隔離していたポットを他の農作物のそれと纏めてしまったのだ。無農薬だったからそのポットにはアブラムシが潜んでいて、それが害虫となって他のポットの苗を攻撃して農家の努力を踏み躙ったのだ。



 怖気の走る悪行じゃん。


 と言うか四バカ自身が最大の害虫やんけ。



 そしてもはや恒例となったリリーちゃんによる四バカの尻拭い、彼女は涙を流して被害を被った農家に頭を下げるハメになったのだ。



 リリーちゃんが本当に不憫なんですけど。



 リリーちゃんは日に日にストレスを抱え込むと同時に痩せ細っていく。もはや彼女から乙女ゲームのヒロイン感は完全に失せて、人を呪殺せるレベルまで彼女の外見は変貌を遂げてしまったのだ。


 そもそも勝手な判断で動くから余計に迷惑をかけるハメになると四バカはいい加減気付いて欲しい。



 気を遣っても尚、他人に迷惑をかける人間が元王族って……もう。



「じゃあそろそろカウントダウンを始めようか」



 おっと、余計な事を考えている内にお父様が魔法発動の合図を始めた様だ。集まった魔法使いたちは集中し始めて引き締まった表情を浮かばせていく。


 全員が手を前に突き出して水性魔法をいつでも発動出来る状態となった。集中力が上がるにつれてリリーちゃんの怨念も同様に最高潮へと上昇していった。



「ひっひっひっひ、アンタらの棲家はジメジメしたダンジョンがお似合いなのよ。この恨み、晴らさでおくべきか……」



 だから怖えーーーー。


 もうダメだ。これ以上リリーちゃんを心配していたら私の方が折れてしまう。今は魔法を成功させる事だけに集中するとしましょう。



「五、四、三、二、一……。……ゴー!!」



 お父様の掛け声と共に水性魔法が集まって洪水を作り上げた。災害クラスと化した水性魔法がダンジョンに向かって轟音を捲し立てて突き進んでいった。



「イケイケーーーーーー、四バカと一緒に私の恨みを晴らしてーーーーーー!! この仕事が終わったら私は国会議員を引退してマリーちゃんと一緒に平和に暮らすって決めてるの!! 一緒にお風呂に入ってウフフな事をしあって最高の百合ライフを満喫しちゃるんだからね!!」



 乙女ゲームのヒロインが喚き散らす。


 この光景から目を背けて魔法を放つ私の目から魔法以上の威力を誇る涙がドバドバと流れ落ちてもう一つの洪水を作り上げていった。



「……マリー?」

「……事実無根の虚言です」

「でもリリー嬢はこれでもかってくらい目が血走ってるよ?」

「お願いだからお父様もそんな目で見ないでーーーーーー!!」



 仕事中にお父様から向けられる視線が痛かった。


 リリーちゃんは四バカの最大の被害者だから黙っていたけど、その妄想癖は油断ならないものだったのだ。


 その妄想は他人にも影響を与えるらしくこの場の集まった総勢二十人にも及ぶ特級魔法使いたちに鼻血と言う名の真っ赤な水性魔法を誘発させる威力を誇ってました。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] そら農作業しらないやつらに手伝わせたらおかしなこともするだろうに…政権もおかしいよ、4バカになに期待しとるんや…
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