表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/17

11

お父様インフレは強烈なのです。

 都役所とは日本で言えば市役所や区役所と同じ立ち位置と言ったところだろう。


 お父様は先代国王が王城の火災修繕で都役所と揉めたと言う。と言うか国のトップが国よりも下部の官公庁と揉めるなや。


 四バカのせいで自慢のお父様の老け込み具合が目に見えて分かるっちゅうねん。


 これはもう訴えれば絶対に勝訴出来ると思う。



「先代国王が寝タバコで城を全焼させたのはマリーも知ってるね?」

「はい、クソみたいな理由ですよね。もう放火に近い所業だと思ってます」

「うーん、愛娘がクソなんて汚い言葉を口にする日が来るとは……」

「すいません……」



 どうして私が謝らないといけないの?


 どうしてお父様が連鎖反応で泣かないといけないの?



「まあそれはそれとして。でだ、先代国王が修繕する時にその費用をケチった訳だ」

「……もう」

「普通の建築物なら設計段階で公道に繋がる私道を敷地内に敷く必要があるんだ。そこをケチったのが都役所と揉めた原因なんだよね」



 下らねえ、心底下らねえ理由で揉めちゃって。


 しかも揉めたのが元王族と言うのがタチの悪いところだ。


 あの血筋は本当にどうでもいい理由で人様に迷惑をかけるなあ。だからこそ私もギロチン台送りにされた訳だけど。


 あれ?


 私の場合は自業自得だったかな?



「要は私道が整備されてないから二束三文で叩かれる、と言う話ですよね?」

「流石は自慢の愛娘、物分かりが良くて感動だよ。勘当じゃなくて感動だよ?」



 因みにお父様は会話の中にチョイチョイ親父ギャグを挟んでくる性格なのだ。



「だったら今からでも整備すれば王城もそれなりの価値になるんじゃありませんか?」

「それが無理なんだよ……」

「どうしてですか?」

「先代国王が揉めちゃったせいで元王族自体が都役所のブラックリストに載っちゃってさあ。申請しても受理されないんだよ……」



 下部の官公庁にブラックリスト認定される元王族って何なの?



「で、でも申請は新政権がするんですよね? リリーちゃんが窓口ならすんなりと受理されそうな気がしますけど……」

「土地と建物の所有者がまだバカ国王のままなんだ。あのバカ、革命後も譲渡だけはしないとか頑なにゴネてね」

「……あのバカ国王」

「だろ? しかもあのバカ、財産の分与は現金でしか受け取らないとか言うんだよ……」



 バカの代名詞だけでお父様との会話が普通に成立してしまう。


 そして周囲の常連さんたちがタイミングを合わせた様に一斉にため息を吐く。今日はビールの出が凄いことになりそう。皆んな、自分たちを治めてきた元王族のバカさ加減に辟易としているのだろう。


 分かる、分かるよー。


 だからこそ私も天井を見上げながら涙をこぼす訳で。その姿勢のまま「今日は皆んなにビールを一杯奢っちゃう」と呟いてしまう。


 すると常連さんたちが逆に「俺らのアイドルをギロチンにかけやがったバカのためにマリーちゃんが身銭を切る理由はねえよ」と返す。



 いい人たちすぎて私の心は逆にズタズタになっていく。



 お父様なんてスッと席を立って常連さんたちにお礼を言って回り出す。お父様も選挙活動じゃないんだからそんな事しなくても良いってば。



「マリーちゃん、あの時は本当にすいませんでした」

「リリーちゃんもいいから。アレは全部バカたちの暴走って事にしちゃおう」



 と言うか記憶が無かったとは言え私がリリーちゃんを虐めたのは事実だし。謝られると逆に申し訳ないからその謝罪は受け取りません。だがリリーちゃんは私の言葉に感動して抱きついてくる。


 そして私の胸を貪る様に顔を埋めてくる。


 この子ってやっぱりその癖があるのかな?


 ヒロインに好かれて私の悩みは更に深まっていく。そして今日お父様がこの店にやって来た本当の理由は分からないまま。流石に多忙なお父様が今、娘の現状を知りたいとかリリーちゃんの愚痴を聞くためにここに来る筈はない。



 そんな風に思ってお父様の背中を視線で追いかけていると、当の本人がクルリと踵を返す。お礼を終わったからか、それとも単純に私の考えが筒抜けだったのか。



 お父様は眉間を指で摘んで今日一番の渋い顔となった。


 嫌な予感がする、これは絶対にいい話な筈がない。



 お父様の漏らした言葉で私の予感はほぼ確信へと変わることとなった。本当にお父様は人格者だ、だからこそこの言葉を口にする事に躊躇いがあったのだろう。



「マリー、勘当しておいて悪いんだけど……ちょっとだけ私の力になってくれまいか?」



 ほらね?


 お父様まで借り出されてただの親子の乾杯だけで終わる筈がないのよ。乙女ゲームの世界に転生して半年前から始まった私の第二の人生。それが四バカたちによって振り回される事になるとは梅雨知らず。



 こうも人生とは上手く行かないものかと思うと涙が止まらなかった。



「マリーちゃんの胸にしゃぶり付きたーい」

「……リリーちゃん、だから言い方に気を付けて……」

「まさか……マリー? 愛娘はリリー嬢とそんな関係に?」



 お父様にまで本格的に勘違いされちゃった。


 リリーちゃんの幼児退行がここ最近、特に酷いのだ。ヤンデレから始まってゴリラ化からの幼児退行、乙女ゲームのヒロインは人類の進化を問答無用でぶった斬る子でした。



 この子は本質的にいい子なのになあ。


 最近は見事に残念な子へと変貌してしまった。



 悪い方向とは言え、折角進んだ話の腰をリリーちゃんに折られて私は自分が背負った悪役令嬢の業も深さに辟易してしまう。



 本当にもう……。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 革命起きてるはずなのに民衆が優しすぎる… 没収さえしていれば
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ