ジル・フォン・エルバス
アヤは今は神の声が聞こえない。
それは、聖女と言えないだろう…僕はそう結論付けた。
だが、彼女はこれから起こる事をある程度は知っている。まずはそれを聞いて、その情報を漏れない様にしなければならない。
助かった事に彼女はアイリーンの侍女となった。
これからアイリーンはお妃教育が始まる。その為に王宮で基礎が出来るまで泊まり込みだ。裏で手を回して彼女に着いて来てもらう事にしよう。
そうすれば、表立ってでは無いが保護した事にならないか?
「アヤ、今は神の声が聞こえない…間違いないか?」
「はい!神に誓って嘘は申しておりません」
「分かった。ならば、ここでの話はどこにも漏らす事を禁じる。皆も良いな!後で誓約も行う」
全員が頷き同意の意を示した。
「アヤ、話の続きを聞かせてもらえないか?」
「畏まりました。あの日、エンカ様が降下された日、本当は…」
チラッとザックをアヤは見た。それだけでここにいる全ての人が理由が分かったのだと思う。
「私がそこで命を落とすはずだったんじゃねぇかと思います…そうだな…アヤ」
ザックがそう言葉にした瞬間、アヤは苦笑いを浮かべた。
「はい、あの日、エンカ様と婚約者様、そして…ザックは死ぬはずでした。私がここに居る兄とイザベラ様が居なければ」
「そうか…アヤ、ありがとう。僕達を救ってくれて。でも、何故ザックを助けたんだい?僕にはアヤがザックを気にかけたとは思えないんだけども…」
「その通りです。もし、その場にアイリーン様が居なければ私はきっと兄とイザベラ様を巻き込む事はしなかったと思います」
「オイ!」
ザックが青筋を立ててたが、気にせずアヤは話し始めた。
ちょっと、ザックが可哀想だと思ってしまったのは仕方が無いと思う。
「ですが、それは、問題を先送りにしただけなのです。私が本来知っていた話ですが、アイリーン様はその場に居なかった、だからこそ、ザックもその場に居ないのです…彼が側を離れるはずは無いと思いますから…あの場ではエンカ様とその婚約者様だけが死に、あの花から産まれた魔物は…近くの町を襲ったでしょう」
「近くの町…!?!?」
「レオン様…そうです。あの魔物は本来であればレオン様が居た町を襲うのです」
「なるほど、本来はそこにたまたま居合わせた僕とアラン、レオンにアイリーン、イザベラ嬢が襲われると」
「そうです、殿下。あの魔物は町の人を襲います。その時、皆様は立ち向かわれるのです。そして…その結果…」
「僕達は負けてしまった」
「はい、ザックは皆様を逃す為、最後の力を振り絞り、そのまま死んでしまうのです」
……………………。
「一つ聞いてもいいか?」
アランがそうアヤに聞いた。アヤは頷き言葉を待っている。
「レオンの領土はどうなる?レオンの父上殿は?」
レオンが息を呑んだのが分かった。
「私が知っているのは、一つの領土が無くなったとしか知りません」
その答えが全てを語っていた。
もし、あの場で、本来の様に僕達を何らかの手段でザックが逃し、殺された瞬間…レオンの領土は…父上殿は亡くなっていたと言う事を。
「そして…アイリーン様は笑えなくなるのです」
その言葉に僕は絶句した。
アイリーンが笑えなくなる?あの太陽の様に輝いていた笑顔が……無くなる?




