ジル・フォン・エルバス
僕はこのエルバス国の第一王子として生を受けた。
名をジル・フォン・エルバス。
5歳の時に決まるはずだった婚約者が延期されたのは、僕が5歳の誕生日を迎えるこの年に目覚ましい経済成長をした、とある伯爵家が原因だった。
公爵家のイザベラ嬢が今まで僕の第一候補だったはずなのに、突如、陛下はそれに意義を唱えたんだ。
それにより、僕の婚約者の決定は延期となってしまった。
そこから何度も公爵家の方から婚約者の打診があったが陛下は首を縦には決してふらなかったのだ。
そして、明言した、僕が10歳の誕生日を迎えた次の春に婚約者を発表すると。
僕はこの5年、とある伯爵家を調べた。
どの領にも、闇の部分が必ずある。だが、とある伯爵家が統べる地は、毎年、闇の部分が徐々にだが減っていた。そして、経済成長も、蓄えも、全てが、倍近く上がっていた。
それこそ、王家を超えるほどに…文化も、経済も、上へと…だから、僕は不正が無いか、調べる事にしたんだ。
だけど、調べれば調べる程、その地が統べる領主としての力量を突き付けられた。
たまたま、お会いしたパーティーでは
文句が言えないほどの人柄で、派閥も無く、本当に、素晴らしい領主だった。
ある日、領主と話をする事があった。1人の御令嬢の事を尋ねるとその領主は、口を紡ぐ。
まるで、知られない様に、目に留まらない様に、守っている事に気が付いた。
それからは、彼女の事を調べた。
だけど、出てくるのは、変わっていると言う事だけ。
そんな中、僕は10歳の誕生日を迎えたのだった。
そして、次の春が来る時、僕の婚約者が決まる。
とある伯爵家の御令嬢とは一度も会えていない。
誕生日を迎えたパーティーの後、陛下から呼び出された。そして、告げられた事は、伯爵領以上の領地をお忍びで見て回ると言う内容だった。
自分の目で見て、気になった御令嬢が居ないか、王妃に相応しい御令嬢を探してこいと。
だから、僕は、領地を巡った。将来僕の代で近衛騎士団長となるアランを連れて。
沢山の領地を巡って、その領主の事や御令嬢の事をさり気なく聞いてまわる。
良い領主だと言う領地も
我儘な御令嬢がいて困っている領地も
不当に税が釣り上げられていた領地も
そこには、教科書に書いていないリアルな声が聞こえて来た。
それをメモしながら回って行く。
そして、5年前から調べていたあの伯爵領へと最後足を踏み入れた。