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とある兄妹(兄)3

「なんでこんなに痩せてるのよ!なるみが必死に守った命を蔑ろにしないで!」


彼女の母親の言葉がまるで刃物の様に俺の心を刺す。

涙が溢れて来て、何も言葉は出てこない。


「君、名前は?」


「大山健斗です」


「ケント君ね、この後時間ある?」


そう言われ、俺は涙で濡れた顔で頷いた。

連れて来られたのは、彼女が生前住んでいたアパート


「どうぞ、落ち着いたかしら」


「はい」


「ここはね、娘が住んでいた所よ。今は私がここに住んでるのよ。娘を感じたくてね…」


部屋を見渡すと、可愛いぬいぐるみに、本棚には医学書に何かの小説がぎっしりと仕舞われていた。


「あの子ね、医者になりたかったのよ。ああ…この子はやっぱり主人の子ねって思ったわ。でも、恥ずかしい話、家にはお金が無くて。私の稼ぎだけじゃ大学に行かせてあげれなかったの。

あの子が小さい頃、主人と別れて、それから必死に働いたわ」


ポツポツとなるみさんのお母さんは話し始める。


「あの子が高校に上がってから、大学費を貯めるんだってバイトし始めて、頑張って働いてたわ、私はその時自分の事でいっぱいいっぱいで、あの子の事をしっかり見てあげて無かった。

そして、特待生制度を使ってあの子は医学生になった。


私は、医者になるの、反対だったの。幾度となくぶつかって、そして、あの子に言っちゃったの。


そんなに医者になりたいなら、この家から出て行って!


お父さんと同じ道に進めば、その家族は不幸になる…


そんな事無いのに。私と主人がうまく行かなかった事を職業の所為にして…愚かでしょ」


俺は何も答えられない。


「あの子、その時、私になんて言ったと思う?


‘’お母さんは私を産んだ事後悔してる?‘’


って聞いて来たのよ…その時、そんな事ないって言ってあげれば、あの子は今も私の目の前で笑っていたかしら…」


「結局、私はその問いに答えなかった。そして、あの子は出て行ったの…そして、冷たくなって帰って来たのよ」


「本当に、すみません。俺を助けたから…」


「あの子は、医者になりたかったんです。だから、ケント君の命を救えた事、きっと後悔なんてしてないわ!だから、ケント君もしっかりしなさい!しっかり食べてあの子の分まで生きて、それが今貴方に出来る私達への恩返しよ」


「はい」


「一つ、私個人の頼みを聞いてくれないかしら?」


「なんでも言ってください、俺に出来る事があれば何でもします」


「ありがとう。私の所に、少しでもいいから顔を見せに来てくれないかしら?あの子が最後に命を掛けて守った子だから、私も貴方を見ていきたいの」


そして、俺はなるみさんのお母さんの所に顔を見せに行くようになった。

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