とある兄妹(兄)2
ドンッ!
凄まじい音が聞こえ、悲鳴が響き、グッタリと車の下にいる女の人。
彼女から沢山の血が流れてくる。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
「アヤ?」
真っ青な顔をしたアヤが俺を必死に呼ぶ。
「あの人は?」
アヤに構わず、俺はすぐに車の下にいる彼女に駆け寄った。
「誰か…誰か…誰か…きゅう…きゅう…救急車!」
周りにいた男の人が皆で車を持ち上げ、彼女を引き出す。
沢山の切り傷に、打傷、手足は変な風に曲がった彼女がそこにいた。
必死に心臓マッサージをしてる人
出血を止めようと処置する人
車の運転手を取り押さえる人
沢山の人が彼女を助けようと手を取り合っていた。
暫くすると、救急車が到着し、彼女を連れて行く。
俺達は警察の人に話を聞かれ、顔を真っ青にした母親が俺達を迎えに来た。
俺はその時の記憶が朧げだ。だが、彼女の最後の顔が忘れられない。
そこから数時間後、俺を助けてくれた女の人が息を引き取ったと連絡が来た。
病院へ両親に支えられ、助けてくれた彼女と対面した。
病室には、彼女のご両親と思われる人が、泣き崩れていた。
「そんな…嫌よ…目を開けてよ。まだ、お母さん貴女に謝れてないわ…」
必死に彼女を起こそうと揺さぶる。
「なるみ!いなくならないで!あの言葉は嘘なの…お母さんに謝るチャンスを頂戴。イヤ…イヤ…起きて…」
「なるみ…お父さんだよ。久しぶりだね。こんな風にお母さんともなるみとも会うとは思わなかったよ。
少年を助けたと聞いた。良くやったな。立派な娘だよ。でも…お前も助からないと…。
会えなくても元気でやってくれれば…それで良かったんだ…こんな再会は…望んでないんだよ…」
「イヤよ…愛してるのよ…私の大切な娘なのよ…ねぇ…起きてよ」
彼女の母親を抱く様に父親が寄り添ってただ悲しみ、嘆く姿を見た俺は頭を下げるしか無かった。
俺の両親と一緒に頭を下げ、感謝を伝える。
それしか、出来なかった。
彼女の父親が大丈夫だと。娘の分まで生きて欲しいと言ってくれたけど…俺は…あの人のあの姿が脳裏に焼き付き、最後の姿が離れない。
あの日からご飯が受け付けなくなった。
体力も落ちて、沢山の人に心配された。
でも、俺の代わりに死んだなるみさんに申し訳なくて
心が次第に死んでいこうとしていた。
なるみさんが亡くなったあの事故から半年が経った。
何かに導かれるように、彼女のお墓に俺は行った。
お墓の前には、彼女の母親が立っていた。俺に気づき目を丸くし、そして、怒鳴った。