イザベラ・デュセ・カラベル2
「殿下何かいい事がありましたか?」
「ああ…この間の訪問で面白い子に出会えたんだ」
凄く優しく微笑む殿下を見て目を見張る。
「そうなのですか、いい出会いだったのですね」
「いい出会い…ククク…あはは…」
突然口元に手を当てながら笑う殿下を見て、殿下と少しお近づきになれたと安堵する。
「僕を邪魔者にした挙げ句、逃げ出したんだよ!あの時の姿が…プッ…顔が…しかも…やってた事が覗きとは…あ〜おかしい…あははは…笑いが止まらないや」
お腹を抱えてヒイヒイ言いながら笑う殿下。
本当にわたくしには何も見せてはくださらなかったのですね。
殿下の笑いが収まるまで、わたくしはお茶を飲みながら待ちます。
「すまなかった、変な姿を見せてしまったね」
そう言ってわたくしへと目を向けます。
「イザベラ嬢、僕は彼女を婚約者に選ぼうと思う」
「なぜ、わたくしに報告なさるのですか?」
「君は僕と似ているからね。君と過ごして来た8年は僕にとって妹と接している様だった。だからこそ、君には僕の口から報告しようと思ったんだ」
「わたくしが妹のよう?」
「ああ…君は、いつも孤独を感じてる気がしてね、ほっとけなかったんだ。いつも、心が泣き叫んでいる様だった。もし、僕が君が来る事を拒めば、君のお父上は怒っただろう?幼いながらに、妹を守っているつもりだったんだよ」
初めて聞く殿下の気持ちに、心が軽くなって行く。
「ありがとうございます」
泣きそうな声で、お礼をどうにか紡ぐ。
「だからこそ、君に伝えたかった。この先、辛い思いをしないように、僕も手を尽くそう」
わたくしは、初めて殿下へ思っていた事をぶつけた。
「ありがとう!嬉しいよ!初めて、君を見れた気がする」
「殿下が婚約者に選ばれた方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「アイリーン・ゼン・クワノスだよ」
その瞬間わたくしの世界が広がった気がします。
「殿下!その方の事を教えて下さいませ!!」
そう目を輝かし、彼女の功績、そして、殿下から見た彼女を聞いたのです。
そして、わたくしは、後日、彼女を知ったお父様に言われます。
アイリーン・ゼン・クワノスを我が家に取り入れて陥れろと。わたくしは、表面上、はい、と答えますが、心の中はわたくしが必ず守ってみせると誓う。
これが初めて自分の意思でお父様の命に反抗した瞬間でした。
そして、わたくしは、筆を取り、彼女をお茶会へと誘います。
彼女から手紙が返ってきた時は、声をあげて叫びたかったですわ。ですが、培った教育がそれを外には出しません。
そして、初めて会った彼女は、とても素晴らしい人でした。わたくしを見つめる目には好奇心はあれど、純粋に感動を浮かべ、損得など無縁の人物だと確信致しました。
だからこそ、わたくしも、ありのままの自分でいられました。受け入れてもらえなかったら…色んな感情がありましたが、勇気を出して、一歩踏み出したのです。
そして、わたくし、初めてお友達が出来ましたわ!
本当に夢心地で、気がつけば、わたくしは、お客様の前で寝てしまうという失態まで起こしてしまいました。