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あの出来事から、少し時間が経ちましたが、その間、1度も王子からの接触はありませんでした。
ホッと安心していたその日の夜、父様が慌てた様子で帰って来られ、わたくしを執務室へ呼び出されました。
はて?わたくし、最近は大人しくしていたと思うのですが…疑問に思いつつも、呼びに来て下さったセバスと共に向かいます。
声をかけ、部屋に入れてもらいます。
父様の顔色は悪く、そして、なんだか疲れている様にも見えます。
「お父様、お疲れのようですね、日を改めてはいかがですか?」
そんな言葉を掛けてしまうほど、父様はグッタリとなされていたのです。
疲れた父様と目線が合えば厳しい顔でわたくしに訊ねます。「アイリーン、何をしたのだ」と
「お父様、意味がわかりませんわ、わたくしの記憶ですと、最近は大人しくしていたと思うのですが…」
「じゃー、何故、王家からこの書状を頂いたのか、一体いつ、ジル殿下と出会ったのだ!」
………………はい?
わたくしが、唖然と立ち尽くしておりますと、父様は更にお言葉を綴ります。
「今日、王家から呼び出されてな、陛下と話をした。その中で、我が可愛い娘を嫁に欲しいと、そう仰られたのだ!これが、その時、渡された書状だ!
何故、俺が、必死に隠して来た
‘’変だが‘’俺達家族にとって大事な娘が、
陛下の耳に入ってしまうのだ!」
父様…可愛い娘の前に何故、変が入るのですか…といつもならば、突っ込むところも、その前の衝撃的な言葉により、それどころではありませんでした。
嫁??
「お父様、嫁とは…あの嫁ぐと言う意味のでしょうか」
「それ以外に何があるのだ」
「何故、わたくしが王家に嫁がなければならないのですか?」
「俺にも分からん!だから、お前に聞いている、必死に会わないように調整していたのに、よりにもよって王家だと、どこでジル殿下と会ったのだ!」
冷や汗が止まりません。
そう、確実にあの時だと確信したのですから。
やっぱり、フラグが立っていましたか!!!!
私はその場に崩れ落ちます。
「お、お、お父様、実は数日前に王子殿下と1度だけお会い致しましたわ。でも、ほとんどお話をしておりませんし、むしろ何故、あの態度で、嫁に望まれたのか分かりません」
父様はその言葉を聞き、当時護衛を務めていた者達を呼びました。
何故、報告しなかったのかと。
ですが、返ってきた答えは、第一王子殿下が命令されましたと。そう言えば父様はグッタリとソファーにもたれてしまわれました。
護衛の皆様にお咎めはありません。この国の第一王子殿下に命令されたのですから、誰が咎められましょう。
「お父様、どうにか、この話を無かった事にする事は出来ませんか?そして、わたくし、分からないことが1つあるのですが質問よろしいでしょうか?」
父様は言葉を紡がず、頷きます。