ドラゴンの仔〜異能なし、脳筋〜
明けましておめでとうございます。
新年向けのネタのようなものです。
続きは未定です。「オンモフ」最優先なので。
プロローグ
世界は一度、崩壊した。
長い時間をかけて築き上げてきた文明を全て白紙にし、新たな秩序が敷かれた。それは誰にとっての世界か。誰に優しい世界か。誰に厳しい世界か。
だが、そのリセットは。
星の寿命を延ばすことに成功した。
この青い星は終焉を迎えるはずだった。星がそれを是とした。その滅びまでの数千年。緩やかに滅びるも、唐突に滅びるも、星の住民に委ねていた。
星は全ての母であったために。どれだけ星で争いが起ころうと。自然が何かを食い潰そうと。誰かが傍観しようと。理が書き換えられても、そのあるがままの流れに任せていた。
諦めていたわけではない。事実星にも、意思があった。気まぐれを起こした時もあった。それでもなお、変化を許容した。
寿命を延ばしたかったわけではない。滅びるのならそれも是とした。
すでに星としての子は産まれていたために。後継を産むという役割を果たした以上、自身の身体を間借りしている生き物たちが何をしようと、その結果生き物の大半が死に絶え、生まれ変わっても気にしなかった。
結果として多種多様な生物が産まれ、異能が世界中で体系化されても、些事と呼べた。
言ってしまえば、老後にひ孫が砂遊びを始めたようなものだ。星はまた何か始めたなと思うだけで、何かするつもりはない。ただ内側からふーんと見つめるだけ。
生き物も自然も全てが星にとってはただの子どもで。特別どれかを優遇するつもりはなかった。なにせ等しく子どもであり、あるいはただ星に住んでいるだけの存在であり。身内でもあり他人でもあったために何もする気が起きなかったと言える。
星が特別視するのは真の意味での子どもであったり、興味を持った存在だけ。そんな存在にも声をかける程度で、行動を束縛したりしなかった。
それが、星としての器だったために。
さて、そんな星で。文明が衰退し、地形なども変わり。元の星の面影が海の広さくらいしか残っていない中で。
とある山の上空。そこで透明な壁で四方が閉ざされた空間の中に。
紅い龍と、一人の人間がいた。
人間はいたって平均的な身長、中肉中背でありながら引き締まった身体をしていた。鍛えたというよりは、鍛えさせられた、または勝手にこうなったというような身体のでき方をしていた。
まるで鮮血のような鮮やかな赤い髪に、どこか虚ろな紫煙のような瞳。そんな彼は自分よりも数十倍大きく屈強な龍へ、片手で持ったどこか頼りない両刃の剣を突き立てるように突っ込んでいった。
「爪を寄越せェ!このバカ親父‼︎オレの剣の糧になれ‼︎」
「それが育て親に対する口の利き方かぁ!」
剣など木の棒と変わらないとでも言いたげな態度で、軽く龍は人間の剣を赤い鱗を纏った腕で防いでいた。
その一撃は地面にぶつけようものなら地震を引き起こし、地割れや土砂崩れ、建物の崩壊などを誘発するような一撃だった。並大抵の生き物なら、それだけで身体がミンチになっている。
そんな埒外の威力をぶつけるのは育ての親である龍やその周りが容易に同じことができること。この程度の攻撃でかすり傷ひとつ負わないために手加減など考えたことがなかったからだった。
とはいえ、ある程度社会を学んで平時は用いてはいけないことを知っている。これはそう、家族間のスキンシップのようなものだ。
「こんなちゃっちい剣しかなくて、もし親父たちのような敵が来たらどうすんだよ⁉︎」
「ヴェルニカに貰った剣があるだろうが!」
「あれ剣じゃなくて木刀じゃねえか!あんなもん振り回したらぶっ壊れるわ!」
お互いを罵りながら剣戟は続く。人間は剣で斬りつけ、殴りかかり、蹴りを喰らわせ。
龍も全身を用いて攻撃をいなし、爪で斬り裂こうとし、尻尾で弾こうとして。
炎を口から吐けば、人間は剣で一刀両断する。どれだけの灼熱の炎だろうが、剣が業物ではなかろうが、剣に纏わせた風圧で弾き飛ばした。超常の力などではなく、ただ剣を素早く振って起こったただの自然現象だった。
そんな一人と一体の龍の戦いが繰り広げられている中、その真下に半馬半人の巨人と七頭身の人型の猫がいた、その猫はお尻の辺りに二本の尻尾がある、いわゆる二又の猫だった。
その内の半馬半人が口を開く。
『あのバカが、いきなりそちらに邪魔したと聞いたが』
『その通りニャ。まあ、もうご主人たちは御役目を終わらせたから、ただの余生ニャンだけど』
『の割には、色々と動いていると聞く』
『世界を変えた原初の罪がまた動き出したからニャ。友達じゃ納得しなかったのはわかりきっていたことじゃ?ヴェルニカもわかっていたから木刀を回収したはずなのニャ』
二人の話の内容はこの世界と、共通の知人について。猫にとっては主人の話であり、半馬半人にとっては友人についての話だ。
たまに連絡を取る間柄ではあるが、そこまで親しいかと言われたら微妙だ。共闘をしたこともあるが、一度死闘も繰り広げている。知人、が精々だろう。
『今やあれは真の意味で木刀だが。魔法は誰もが門外漢だ。貴様らは憑依については詳しくても、魔法はダメだろう?』
『聞き齧った知識しかないのニャ。ヴェルニカくらいしかまともに知らないんじゃニャイ?』
『そうだな。そのヴェルニカがあの子に木刀を託したのだから。様子は見ようと思う』
魔法と憑依。
この世界に浸透した異能だ。
魔法とは身体のどこかに現れた「オシルシ」から様々な術へ変換する異能。炎を出したり、閃光を放ったり、障壁を出したり多種多様。ただし本人の資質の問題か、何でもできるわけではなく得意不得意はある模様。
憑依とは、身体にその存在を降ろして身体そのものを書き換える異能。猫なら猫に、犬や狼などにもなれる。ただし、融通が利かなく一人につき生まれつき一つの存在しか憑依させられない。
猫を憑依させられる者は犬を憑依させることができない。そこからどれだけ伸びるかは本人次第だ。
この二つの異能の内、どちらかはその身に宿して産まれる。それが常識になって数百年。何も能力を持たない例外がいた。
『あの子が異能を持たなかった理由はわかったか?』
『いや〜?ご主人も星を断片的にしか視られなくなったからニャア。とりあえずそういう才能がないのは確実ニャンだけど』
『そうか。……意図的にせよ偶然にせよ。あの子の周りには大きな変化が起きるだろう。そのために鍛えたのだが』
『鍛えすぎじゃない?今でもあの方と互角に戦っているなんて異常よ』
二人の会話に新たに加わったのはヴェルニカと呼ばれる女性。
ここに普段住んでいる龍と半馬半人と異なり、ヴェルニカは人間の街で暮らしている。だが時折帰ってきて少年を鍛えたりしているため、猫よりは家族に近かった。
そんなヴェルニカは男性が着るような男物の黒い仕事着を着ていたが、それでも損なわれない美貌をありありと示していた。いやむしろ、そんなギャップがたまらないと言い出す人間も多いだろう。
ここにいる者はほとんどがそんな普通とは違う存在なので彼女を口説いたりはしないだろうが。
『やりすぎたとは思わん。それに、貴様も相当絞っただろうが』
『そうねえ。必要かと思ったけど、どうなのかしら』
『お前の学校に入学させるとか聞いたが?』
『もしもの際に、人間を率いてもらうためよ。私だけじゃどうにもならないから』
『あー。だから武器が欲しいって言ってたんだニャア。確かに今使ってる剣、鈍ニャ』
猫が引っ張り出された理由に納得する。
少年と龍が本気で喧嘩する場合、猫が作るような結界がなければ辺りは大惨事だ。あの規模の結界を産み出せる者は限られている。
そして最高級の武器のために、最高級の素材を求めたということだろう。それが龍の牙。
龍の素材となれば全てが最高級だ。品質も強度も加工性も、全てが群抜いている。
だが、欠点もあった。
『そろそろ止めようかしら。レグナー。龍の牙を手に入れたとして、誰が加工するの?そんな伝手、あなたにある?』
「……あ⁉︎」
「バカ息子」
ヴェルニカの言葉で硬直した少年レグナは龍による平手を受けて結界の壁に衝突。
そのまま気を失って龍共々降りてきた。
『あれ?これご主人が加工できちゃうことは言わないほうがいい感じかニャ?』
『ああ。言わないでやってくれ。そうしたらこの敗北に延々と文句を言いそうだ』
喧嘩を止めるためにズルをしたヴェルニカはくすくすと笑っていた。そんな笑みすら一枚の絵画にできそうなほど整っていたが、それを見ていた猫はしらーと白目を向けていた。
もう用済みになった結界を解除して、レグナの症状を見る。特に治療の必要のない気絶だったために放置。
レグナ・イストリア。
異能を持たないただの人間が、がむしゃらに突っ走る。そうして周りを明るくする物語が今、始まる。
かもしれない。
・
「それで、学校っていつから?ヴェル姐」
『今日から』
「へ?」
気絶から立ち直って、学校に入るよう命令して来た姉のような人物に問いかければ、おかしな返答がやって来た。
時刻はすでに夕方。一日が終わるような時間帯だ。学校も終わるような時間で、今から学校に向かったら陽も落ちているだろう。それほどに致命的な時間だった。ここから学校はそこそこ離れている。
『私、日程は伝えておいたわよね?試験はパスさせてあげたから入学式には来なさいって。……弁明はあるかしら?』
「……ウソ?」
『ウソじゃないわよ。だから私がここに来るのが遅かったんじゃない。流石にあなたたちが戦ってたらわかるわよ。どこに行ったのかと思ったら、彼と喧嘩するために極東まで彼女を呼びに行くなんて』
龍が戦えば地形が変わってしまうために、戦う時は結界を張れる人間が立ち会いの元なら許可すると伝えた。ここ最近は修行という名前の決闘も少なかったために気を抜いていたらこれだ。
その約束を守ったことは褒めるところだが。
「ここから極東まで走ったとして、往復十日というところか?我が息子ながらバカだな」
『ヴェルニカ。こいつこれで学園生活なんてできるのか?』
『さあ?でも必要でしょ。魔物と戦う者を育成する学園だけど、なかなか強者がいなくてね。人間の強者っていう刺激が欲しいのよ』
『お前が半吸血鬼だとバレているのか?』
『いいえ?学園長は戦えないって思ってる子たちばかりで。私が教育したらそれだけで再起不能になりそうだし』
「ヴェル姐の肉体言語に耐えられないと授業にならないのかよ?無理じゃん」
『あら?今から授業する?』
「遠慮します!」
それはレグナとしても遠慮願いたい代物だった。親である龍と叔父さんのような半馬半人にしごかれるのはまだマシだと思ってしまうほど、ヴェルニカだけは別格だった。
一撃一撃が、重すぎるのだ。何度内臓が口から飛び出ると思ったことか。
『とにかく、行きましょうか。今から走っていけばあなたの足でも明日のお昼には着くでしょう』
「夜通し⁉︎……あの。親父と喧嘩した後だから疲れてるかなーって。そんな速くは走れないかなって」
『さっき寝て休んだじゃない』
「気絶させられたんだけど⁉︎」
『あなたがちゃんとしていれば走る必要もなかったのだけど?さあ、行きましょうか』
「痛い痛い痛い!耳引っ張らないで!ヴェル姐の速度で走ったら耳が弾け飛ぶ‼︎」
そんな騒がしい息子の旅立ちを、龍と半馬半人はため息交じりに見送る。これが一度目ではないのだ。人間の世界を学ぶための旅に送り出したこともある。
二度目の旅だから少し軽めに。とはいえ大丈夫かという不安も込みで見送った。
今も泣き声が聞こえるが、次帰ってきた時に少し甘やかしてやろう。そう思った二体だった。
私としての更新は二日後の18時に「オンモフ」の続き更新します。
改めまして、明けましておめでとうございます。