4話 開幕 ‐ 刑事②
【11/14 昼前 四木警察署】
四木警察署刑事課。普段は事務作業やらたまにある窃盗事件くらいしかやることのないが、今日は皆忙しそうにしている。それも当然のことだ。今朝発覚した事件の捜査があるからだ。桜田と志木は鑑識の報告を待つため、待機している。
「警部、今日はご飯食べましたか?」
志木のTPOを全くわきまえていない発言」に若干戸惑いながらも質問の意図を察して、
「いいや、今日は何も食べていないな。写真では何回か見たことがあったが、実際に人間の遺体を見るのは初めてだったからな。」
「ですよね。僕も刑事になって2年が経ちましたが写真でも見たことがなかったのでショックが大きいです。」
「まぁこのくらいでへこたれてちゃ刑事は務まらん。被害者のためにもな」
「……はい。がんばります。」
そんな会話を続けていると、鑑識からの報告書が届き、その場にいる全員に配布された。捜査員はこれを参考に捜査を進める。手元に届いた2人は早速読んでみることにした。
「奇妙な点がいくつかあるな。わかるか?志木」
少し考えた後、首をひねりながら……
「そうですね、おかしな点といえば今朝も言っていましたが首元の歯形についてじゃないですか?唾液が検出されず、しかも拭き取った後すらない。これはどういう意味なんでしょうか。遺体を移動した後もないみたいなので、余計に謎が深まりますよ……」
「だな、他には抵抗した跡がないということくらいだな。スタンガンで奇襲をかけられたのなら当然といえば当然だがな」
「そうですねぇ。僕たちはどう動きます?近所の聞き込みは他がやってるみたいですけど」
「俺たちは遺族に会いに行く。」
「そうですか…… それは………」
遺族に会いに行くということは、家族が亡くなったと伝えにいくということなのだ。つらい役割だ。
「そうだな。でも遺族の方の情報は貴重だ。マルガイと遺族のために絶対ホシを上げるぞ!」
「了解でーす。」
「はぁ。今日の晩飯はお前の奢りな」
「えー!なんでですかぁ。」
「いや、なんかやる気のない返事でイラッ☆彡ときた」
「え、えー、何で流れ星なんですかぁ。はぁ、まぁいいですよ。」
「言ったな?冗談だ!とか言わないからな? よし!じゃあ行くか。東京だから少し遠いが運転よろしくな。」
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【11/14 夕方 東京都港区南麻布 三島邸】
車を走らせること4時間。2人は高級低層マンションが立ち並ぶ南麻布内で、ひときわ異彩を放つ邸宅、三島邸に来ていた。事前に知らされてはいたが、被害者である三島 明奈の家は相当な金持ちだったのだ。大きな門をくぐり車を停め、執事と思しき人物に客間へ案内してもらった。
そこでは被害者の母が待っていた。
2人は深く礼をして、桜田が話し始めた。
「こんにちは、四木警察署の桜田と申します。」合わせて志木も
「同じく志木です。よろしくお願いします。」
だが、やはり、娘を亡くしたという事実を受け止められず取り乱した様子で二人に詰め寄ってきた。
「刑事さん! 娘は………娘は本当に……本当に殺されたっていうんですか……?うそ…………嘘ですよね?」
そう言いながら崩れ落ちそうになるが、そばについていた執事がそれを支えて椅子に座らせた。
桜田と志木、2人はそれを黙ってみていることしかできなかった。ただでさえ事件の少ない四木市ではこのような経験をする刑事はまずいない。
桜田は神妙な顔で、
「娘さんが殺されたというのは本当です。ですから私たちが絶対に犯人を逮捕して見せます。ですからそのために捜査にご協力願いたいのです。」
相変わらず椅子に座ったままうなだれているがそのまま続けて、
「娘さんが引っ越すまでの間、何か変わった様子はありませんでしたか?」
ぽつりと何かつぶやいた。桜田が聞き返すと今度は聞こえる声で」
「変わったも何も、詳しいことは言えないが捜査で重大なミスをしたとか何かで、遠くの署に異動になったといって、ずいぶん落ち込んでいました。刑事さん、刑事さんたちは何があったか知っていますか?」
「いえ、私たちは何も……知っていたとしても守秘義務がありますので、いう事は出来なかったと思います。」
「そうですか、でも変わったところといえばそれくらいで、あとは何も………あの………もうお引き取りお願いしてもよろしいでしょうか……?今日は疲れてしまって」
「わかりました。ありがとうございます。」
「お役に立てず申し訳ございません。必ず犯人を見つけてやってください。娘のために……」
「わかりました!絶対に逮捕して見せます!」
こうして三島邸を出た。
車に戻ると早速志木が、
「警部、マルガイの異動の原因になった事件のこと気になりません?」
「そうだな、警視庁によってから帰るか。門前払い食らわなきゃいいが」
「ですね……」
2人は警視庁に向かったが不安が的中。警視庁捜査1課ともなれば忙しすぎてどこともわからない警察署の刑事の対応などしてる暇はないのだろう。
「門前払いなんてまさか本当に……酷いですね!」
「仕方ないだろう。まあ大体どの事件かは分かったがな」
「え?何ですか?」
「後ろのほうで刑事たちが話しているのが聞こえてきた。噂話って感じだったな。この事件についてだった。その中に《ポイズンレッドドック》という言葉が聞こえてきた」
志木もそれには聞き覚えがあった。
「それってもしかして!?」
「そうだ。今年の初めから続いていた連続放火殺人事件の事だ。家族全員が何故か毒殺され、その上放火したという。犯人は高跳びしたって噂だ。今回の事件とは無関係だろうな」
「そうですね。マルガイがその捜査にかかわってたとしても、」
結局その日は何の成果も得られず四木市へ帰った。