1話 開幕 ‐ 刑事①
【11/14 早朝 志木刑事宅】
四木警察署刑事課に勤める志木はその日コンビを組んでいる先輩からの電話で目が覚めた。
「もしもし、志木です。こんな朝早くにどうしたんですか?桜田警部」
「志木!!今すぐ起きて着替えろ!」
普段大声を出さない桜田の怒声に志木は驚いて飛び起きた
「ど、どうしたんですか警部!?そんな大声出して」
「いいから早く着替えろ!女性の変死体が上がった!場所はメールに送っておくからすぐに来い!」
それだけ言って電話は切れてしまった。
「変死体?」
刑事になって早2年そんな物騒な言葉は聞いたことがなかった。
それにしても市役所の前には
《平和都市四木》
と看板が掲げられている四木市で殺人事件ということだろうか。ドラマでは変死体といえば大体殺人事件だ。
「ふあぁ~…… もうちょっと寝てたかったけど、行きますかぁ」
志木はのんびりと出発した。
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【11/14 朝 事件現場】
現場は人気のない路地。
今はその一角がブルーシートで壁ができて、さらに《KEEP OUT》と書かれた黄テープが張られている。
志木は到着すると、野次馬を搔き分けテープをくぐり現場に臨場した。
堂々と佇む体格の良い男、桜田を見つけると
「おはようございます。警部、」
「あぁ、おはよう志木。遅かったな、のんびり家を出てきただろ」
「い、いえいえいえ、すごく急ぎましたよ!すごく!それより現場の状況はどうなってるんですか?」
誤魔化しながら聞くと
「志木の怠惰については後で話すとして、まずは被害者についてだ」
「え、被害者ってことはやっぱり……」
後で何を話すのかも気になるところだが、今は事件のことが優先だ。
「そうだ、殺人事件って事だ。被害者の名前は三島 明奈26歳。昨日うちの経理課に赴任してきた警察官だ」
これを聞いた志木は桜田がイライラしている原因を理解した。身内が殺されたのだから。それに志木もその女性には見覚えがある。
「え、なんで警察官が……」
「それと死亡推定時刻は昨日深夜12時から2時までの間。死因については失血しだそうだ。正確に言うと失血によるショック死みたいだな」
「え?失血死?」
それにしては遺体の周りに血が飛び散ったりしていないし、遺体にも血はついていないように見える。
「そうだ、誠に信じがたいがな。首には歯形とみられる跡がついてるだろ」
遺体の前で一度手を合わせてから観察してみる。
「確かについてますね。傷口もあります。刃物で切られたようですね。まさかここから血が抜かれたということですか?」
「うーん、たぶんそういうことなのだろう、スタンガン痕もある」
「それって、スタンガンで襲い、首筋に噛みつき血を飲んだってことになりません?狂気の沙汰じゃないですよ!」
「服の乱れもなく性的暴行の跡もないからそういう事なのだろうが謎もある。唾液が全く検出されなかったんだ」
噛みついて血を飲んだのに唾液が検出されていない。奇妙だ。
「それは… おかしいですね」
「まぁ、それは後々考えるとして第一発見者の方がお待ちだ。話を聞きに行くぞ」
「は、はい!」
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第一発見者は朝の散歩に来ていた老人。山田さん
証言をとるため待機してもらっていた。
山田さんはパイプ椅子に座って待っていた。
「こんにちは。四木警察署の桜田です。」
「同じく志木です。よろしくお願いします。」
山田さんは立ち上がると一礼して
「よろしくお願いいたします。」
といい、また礼をした。
「早速ですが遺体を発見した経緯について詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか。」
質問するのは桜田で志木は隣でメモを取る。
「はい、わかりました。」
少し間をおいてから、
「朝の散歩は毎日の日課で今日もいつものように家を出たんです。いつもの散歩コースを歩いていると、女性が倒れているのが見えました…… 心配になり駆け寄って声をかけても返事はなく揺さぶってみると息をしていないことが分かってすぐに救急車を呼びました。動転してしまって細かいことは覚えていないのですがこれでよろしいでしょうか?」
「はい。大丈夫です。お時間をとらせてしまい申し訳ございませんでした。ありがとうございます。」
第一発見者からの聴取は終了
「ここからは何もわかることはなさそうだな。」
「そうですね。これからはどう動くんですか?」
「そうだなぁ。殺されたのが深夜ということもあるから周辺住民からの目撃情報は得られないだろう。一度署に戻って鑑識とかからの詳しい報告を待とう。」
「了解です。 ん?……」
野次馬の中に……
「どうした?」
「……いえ。 今野次馬の中に渋い感じのおじさんと若い女性がいた気がして。まさかと思ったんですけど、たぶん見間違いです。うん。そうです。見間違いです。」
「……まさかな、うん、たぶん援交とかだろ、ほら、最近多いって聞くし、生活安全課の連中が頭痛めてたろ!」
「ま、まぁそうですよね!今なんか言い争ってからどっか行っちゃいましたし。うん!行きましょう!」