表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

第九話:襲撃?

 恐らく、旅立ちまではこれが最後の帰宅と思われる帰路で、シャルと話をしたのはその規格外さについてだ。

 この世界の魔法は大きくわけて4つ。地・水・火・風の4大元素系、と思われている。

 最初は俺もそう思っていたが、どうやらそうでは無い。この世の理に関するもの全てに、魔法は影響出来るようだった。

 なぜそれが広がっていないのか。一般的な火の魔法とか、そんなのばかりなのだ。

 しかし、シャルはその殻を完全に脱している。そこが規格外なんだが、本人はあまり自覚が無い様子だった。

 次元魔法、なんてこの世界には無い。というか知られて居ない。

 が、シャルはそれを作っていた。俺の知らないうちにやっていたのは引っかかるが、ヒントは俺が散々与えていたのだ。

 文明の進化というのは、「こんなこと良いな、出来たら良いな」という発想からスタートすると思う。

 この世界の原始の人類は火の便利さに気付いて、火魔法を編み出したのだろう。

 水・風なんかも同じだ。土は…よくわからない。建築魔法みたいなものは知らないが、防壁か何かを作ったのだろうか。

 そして、そこから思考停止していたように思える。

 物理的に行う一部を少し魔法で便利にしただけ。戦闘で攻撃に使うのもほぼ同じ流れだろう。それ以上に魔法で何が出来るか、というのを考えた痕跡があまり、というか全く無い。

 その点、シャルは若干違う。

 この世界の物語は、お姫様を救う騎士や、救国の騎士、ドラゴンとの戦いなどあるが、どれも剣士・戦士の物語なのだ。つまり物理的に強いやつが強い。

 魔法でチート? そんなもん無い。魔法に夢を見て居ない、というのが正しいだろうか。

 俺が日本からこの世界に来た事実を知っているシャルは、他の世界や次元に魔法で道を作る事を発想した。たくさん語って聞かせた物語で主人公たちが使うアイテムボックスや収納の話を聞いて、次元の道を収納先に繋げた。そこまでは魔法で出来るのに、発想した人が居ないかこの世界には無い。

 魔法で飛ぶことにしてもそうだ。

 鳥が空を飛ぶのを見て、木の板を翼にして羽ばたいて飛ぼうという発想は多分有る。が、風で空に浮くという発想は無かったのだろう。

 多分、ヴィルジールは数カ月もあれば空を飛ぶのでは無いだろうか。

 一度目にして可能と知ったのだから。

 つまり、シャルは先駆者だというだけで、規格外では…


「いやいや、十分規格外でしょ」

「えー…そんな事無いよ。ヤスユキが話してくれた事を、出来るかなーってやってみたら出来ただけだもん。多分、頑張ったら日本にも行ける」

「…マジ?」

「多分? 怖いから試した事は無いけど、次元魔法をいじったら、自分が通れる道も作れると思う」


 俺はローファンタジー派じゃないので、お断り願いたいが…俺も一瞬で戻れるので、いつか日本旅行も良いかもしれない。シャルはある程度は日本語が大丈夫だし。


「見てみたいっていう気はするんだけどね、日本。でも、違い過ぎる世界に行くのはちょっと怖いよね」

「うーん…いつか、行ってみても良いけど日本で魔法使えなかったら帰ってこれないぞ?」

「魔法が使えない?」

「ああ、日本にも魔力があるかわからない。少なくても、日本には魔法が無い」

「そうなの? でも、魔法使いになった人がいっぱいいるんでしょ?」


 確かに、異世界からの帰還者とか、日本と異世界を行ったり来たりしている奴が隠れているハズなのだ。

 俺も半端に作られた常識ってやつに囚われているらしい。


「魔力があるって確証が得られたら行ってみるか…。まぁ、この世界にはマエリスさん達も居るんだし、無理に日本に行かなくてもいいだろ」

「うん、そうだね…ねぇ、あれ、なんだろう」


 歩くシャルが前を指して言った。ふよふよと寝転んで飛んでいた俺もそちらを向き直ると、シャルの家の前に沢山の人が見える。綺麗に整列しており、いかにも軍隊…。


「軍からのお迎えかな」

「あんなに仰々しくスカウトに来る?」

「いや…敵や犯罪者を包囲するつもりじゃないとああはならないと思う」


 幸いにも両親は朝イチで出かけているが、何か問題が起こりそうな予感しかしない。

 シャルもそれを感じたのか、発見される前に建物の影に身を隠した。

 

「ちょっと見てくるよ」


 俺も隠れそうになったが、なんの意味も無い。

 むしろ俺はこういう時情報収集に最も向いているのだ。


「待って、私も行く」

「バレるだろ」

「ううん」


 シャルはいつもより少し集中したように目を閉じると、全身に魔力を纏った。


(白い魔力?)


 見たことの無い魔法だ。いくつ隠し持っているんだか…。


「これで、どう?」


 光学迷彩…。それもとびきりの、背景に違和感すら感じない。なんだこれ。


「シャルは透明人間になれたのか」


 魔力を視認出来る人であれば、白っぽい魔力の壁に見えるだろうが、そんな奴は居ないとヴィルジールで確認済みだ。


「行けるよね」

「そうだな…」


 そして、二人で物陰から出て家を目指した。


 中に誰も居ないのは確認済みなのだろう。人っ子一人逃さない包囲状態というわけでは無く、ただ家の前に並んでいるだけだ。兵士がたまにキョロキョロしているのは、シャルの帰りを待っているのだろう。

 ここでリーダーらしき人物から指示でも飛べば、何をしに来たのか判明するのだが、会話も無く整列しているだけでわからない。


「シャル、声は出さないで…一旦離れよう」


 少し様子を見ていたがわからないので離れる。相談するのは流石に声が出てしまうからだ。

 俺はいつもと全く変わらないで偵察出来るが、シャルはそうは行かない。


「大丈夫、声の振動も向きを決められるから」


 おう…指向性を持たせた会話とか、どんだけ便利だよ。しかも魔法の多重起動。

 空気の震えが音を伝える事を知らなければ発想もしない。これも俺の知識か…。


「何をしに来たんだろう?」

「最大限に都合よく考えたら、世界一の魔法使い様への謁見。都合悪く考えたら、力を恐れての襲撃」

「襲撃、にしては人数少ないよね」


 確かに、ざっと数えて一般兵士15人、偉そうな兵士、指揮官? が1人。

 シャルの事を知っていて来るとしたら、だいぶ戦力不足だ。


「最低に都合悪く考えたら、誰かを人質にしているかもな」

「人質って、お父さんかお母さん?」

「多分。他に居ないだろ。近所のお友達を人質ってわけには行かないだろうし」


 話ながらしばらく兵士達を見ていたが、あまりに変化が無いので、シャルに提案をしてみる。


「シャル、家の鍵を開けて、ドアを開いたらどうなるかな」

「え、今?」


 幸いにもドアの前はがら空きだ。迷彩を解かずに開けたら、中に人が居ると思うかもしれない。


「その反応で、何かわかるかもな」

「わかった、やってみる」


 物音を立てないようにシャルはドアに近づいて、鍵を開けた。

 しっかりかかっていたようで、無理やり押し入ろうとはしなかったらしい。

 

 キイィ…


 小さな摩擦音を出しながら開かれたドアに、兵士の視線が一気に集まる。

 シャルはそのまま外に残り、ドアから距離を取った。


「誰かいらっしゃいますか!」


 指揮官らしき兵士がドアに近寄るが、当然反応は無い。


「シャルロット様! いらっしゃいましたら出てきていただけませんか! 我々は王国近衛兵師団の使いです!」


 どうやらご招待、の方だったらしい。

 近衛兵師団、ということは王族直属の兵士だ。各兵士の中でもエリートを選りすぐって集めたところからのご招待、となるとスカウトだろう。


「スカウトだな」

「そうだね。無理やり入ろうともしてないし、話くらいはしたほうがいいよね」

「よし、頑張れ」


 声を掛け合うと、指揮官の脇をすり抜けて一度家に入った。

 迷彩を解いて、奥から出てきた風を装う。

 ドアが開いた理由は…まぁ、聞かれなければどうということはない。


「なんですかー?」

「おお、シャルロット様! あなたがヴィルジールめを倒したと聞いて、ぜひ我が隊に…」


 返事の声に勢いよく話始めた指揮官だったが、シャルの姿を正確に捉えると言葉に詰まった。


「あ、あの、シャロット様は今おいくつだったでしょうか」


 おいおい、ちゃんと調べてから来いよ…と俺は後ろからツッコミを入れる。


「今13歳ですが…」


 言うまでも無いが、13歳だと兵士としても見習いにしかなれない。

 近衛騎士団の場合、他の軍の「一般兵」以上から才能の有るものを引き抜いて構成されているので、最低でも17歳以上だ。見習い制度すら無い。


「え、ええと…ヴィルジールを倒した、というのは本当の話ですか?」

「ああ、今朝来たので。私が勝ちましたが…」


 どうやら魔法騎士団とはイマイチな関係のようだ。

 ただ、それで若干士気が高かった様子の兵士たちは皆絶望したような表情に変わり、指揮官の背中とシャルの顔を見比べるようにしている。


「ええと…それだけの強さを持ちながら、将来は、どうなさるおつもりで?」

「世界を見て回る旅人になりたいです!」


 にっこり笑顔で答えるシャル。

 余計に子供らしさが出て良いかもしれないが、内容がまずい気がする。


 が、指揮官は少し悩んだ様子で考え込むと、そのまま右足を下げて膝をついた。


「世界最強と自称し、あのヴィルジールを倒したとあっては、あなたの力は本物でしょう。もし愛国心があるなら、将来は近衛騎士団に来ていただきその力を貸して頂きたい」

「はぁ…」


 そっとシャルの後ろから耳打ちをする。


『愛国心が無かったら?』

「愛国心がなかったらどうするんですか?」


 すると、彼はとても悲しそうな顔でシャルを見た。


「私個人としては、それはそれで仕方のない事です。が、国の上層部がどう思うかはわかりません」

「わかりました。ありがとうございます。考えてみますね」


 再び笑顔でシャルが返事をすると、指揮官はすっと立ち上がり告げた。


「あのような依頼をなさる方です。もしよかったら、うちの精鋭たちと模擬戦でも、という事も考えて多めに連れてきましたが、必要無かったですかな?」

「ああ、そういう事でしたか…」


 なるほど、一回手合わせくらいは要求される覚悟だったのか。


「では、お言葉に甘えて」


 シャルはニヤリと笑うと、ドアの外の地面に向けて魔法陣を描いた。停滞型の土魔法?

 魔力パターンを見ながら首をかしげると、ズルリと魔力が吸い出される。

 刹那、立っていた全ての兵士の足元の土が、1メートル程飛び出した。

 兵士たちはそれぞれ2〜3メートル程空中に投げ出され、落下する。

 数人はそのまま着地したが、ほとんどは尻もちをついたり、うつ伏せに倒れた。


「な…!」

「今のが、尖った槍だったら大変だったでしょうね」


 そう言ってニッコリ笑顔に戻りドアを締めた。


 お前たちじゃ役不足。言いたい事は伝わっただろうが、イタズラが過ぎる…。


 このお転婆娘は、無事に出国出来るのだろうか。


 無事じゃなくても出国は出来るか。間違いない。

街を出る前にフラグ作っておきました。

次回は旅立ちですよ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ