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第八話:規格外

「なにあれ、どうなってんの!?」

「知るか!」


 ぱっと見、守護霊の暴走という事だろうか。

 ヴィルジールを守る、という使命のようなものを成し遂げられなかったからか、それとも他の理由によるものか…。


「コロス…コロスコロス殺ス殺す殺す!!」


 とにかく、不穏当なそれはこちらに対して殺気をむき出しにしている事だけは確かだ。

 両手を前に差し出し、完全に攻撃体制に入った所でシャルも構える。

 ヴィルジール単体の時とは比べ物にならない魔力に、真正面から叩き潰しに行く、という従来の(昨日の)方法は捨てたらしい。右手から、水の壁を展開しようとしているのがわかる。


 ふと見ると、ヴィルジールの向こう側で、昨日負けた魔法騎士団員が歓声を送っている。この異常事態に気付いていないのだろうか。憑依した部分を除いて見れば…まぁ、ヴィルジールが渾身の力で立ち上がったように見えなくも無い。


 そして、彼の手から特大の火球が打ち出された。


「ヤスユキ! 合わせて!」


 叫んだ声に、俺も魔力を操作してシャルの”左手”に魔力を集める。


 魔法の多重起動。2年以上前にシャルが編み出した方法だが、他の人がやっているのは見たことが無い。まぁ、左右の手で別々にやるだけだし、そんなに難しく無いらしい。

 もしこれが指一本一本から…フレイザードかよ。


 シャルが気合を込め、魔力が一気に消費される。停滞で張り出した水の壁の後方から、これまた極大の風魔法が打ち出された。魔法陣を描いている暇は無かったらしい。風は水壁を押し、炎を覆うように受け止めた。


 放出系魔法、というのは、術者の手元を離れた時点で全てが決まる。バットで打った野球ボールのようなものだ。

 なので、長距離を狙えば重力にも、風向きにも影響されてしまう。

 どれだけ強い火球と言えど、抜きにくい高圧をかけた水壁、更には押し返す風がバックアップするとどうなるか。


「え…」


 声援を送っていた彼が、声を出したのが聞こえた。


 そう、推進力を失い、その場で停止。あるいは押し戻される事もあるのだ。

 火球は水に覆い尽くされ、そのまま消失した。ヴィルジールというと…魔力を使い果たしてその場で倒れ伏していた。守護霊は相変わらず叫び、頭を掻きむしるようにしているが、操作した肉体から魔力が枯渇した為に操作が切れた、という感じだろうか。


「あ、あれ? 一発だけ?」

「あぁ、多分一撃に全魔力を乗せたな。威力はそこそこあったけど、知恵が足りん」

「えぇー…」


 シャルとしてはここからが楽しくなる、という気持ちだったに違いない。残念そうだが、楽しくなれる程の相手でも無かったということだ。


 しかし…足りないのは知恵というか、知能だな、ありゃ。

 多分あちらも憑依現象なんて初めてなんだろう。全力を出すとどうなるか、一撃をかわされたらどうするか。そういった事がまったく考慮されていない。経験を積んでいれば違ったかも…いや、あの守護霊の様子だと延々同じ事か。

 なんにしてもヴィルジールは可愛そうだ。負けた挙げ句の身体乗っ取りとか。ドンマイ、相手が悪かったね、としか言いようがない。


「この人のお仲間ですよね? 連れて帰ってもらっていいです?」

「あ、は、はい!」



 シャルは、試合は終わったとばかりに水壁を消し、観戦していた彼に声をかける。

 騎士団員はヴィルジールが倒れた事に、心底焦っているようではある。色々聞くべき事があるだろうに、彼はヴィルジールに駆け寄ると背負って立ち去って行った。

 俺があの立場なら、後ろで喚く守護霊がうざくて仕方なかっただろうが…まぁ、気にする事じゃない。


「なんだったんだろうね、アレ」

「うーん、アレが本当に守護霊だったなら、ヴィルジールを守れなくて暴走したってとこか」

「守護霊じゃなかったら?」

「ヴィルジールの家系に恨みを持つ霊だったんなら、ヴィルジールが弱った所で意識を乗っ取ったとか?」

「なるほどねー。私もヤスユキに乗っ取られたりするの?」

「しない」


 俺は別に守護霊でも恨みを持って憑いている霊でも無い。

 実際の所、浮遊霊でしかないのだ。

 まぁ、でもシャルの身に危険が及べば怒りもするし、暴走することはあるかもしれない。


「ちょっと試しに憑依してみてよ」

「お断りします。それよりさっさと依頼書回収しようぜ。また来るぞ?」

「あ、そだね」


 さっさとギルドへ向かっておく事としよう。

 憑依、という現象に興味が無くは無いが…ほら、わかるだろう?

 最近のシャルは結構魅力的な女の子なのだ。ぴったり密着とか、色々まずい気がする。

 日本人目線からすると、欧米の白人の子供というのは少し年齢以上に見えるらしい。

 シャルはそもそも少し大人びている、と言われるし、俺から見たら17歳くらいと言われても違和感がない。つまり、ストライクゾーンに入ってきている。ロリコンというわけでは無い。決して。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 かくして、ギルドの依頼書は無事に撤回出来た。

 ギルドでは朝が混み合うので、既に依頼書を見た奴はたくさん居るらしいが、昨日の11連勝、全て一撃という情報は出回っていたようで、利口な奴らがやめとけと言って話が回ったらしく今日の受注状況は奮っていなかったようだ。


「いやー…本当に世界最強の魔法使いさんだったとは」


 ギルドの受付嬢である。冗談半分で通した依頼で、すぐに依頼達成者が来るかと思えば全員返り討ち。朝には魔法騎士団長ヴィルジールが受注しに来てそのまま向かったはずで、しばらくして無傷で依頼書を回収しに来たのだから驚くしか無い。


「世界は広いから、あくまでも自称世界最強、だよ」

「こんな娘がねー。次期魔法騎士団長にでもなるの?」

「ううん、旅に出るの」

「えっ、どこへ?」

「まだ決めてないけど、世界を見て歩いて、世界最強なのを確認するのも悪くないかも?」

「あぁ…まぁ、そうね」


 ニヒヒ、と笑ってシャルはギルドを後にした。

 俺も後ろを漂いながらシャルについて歩く。


「いつ行くんだ?」

「準備はもう整っているから、明日?」

「準備って…?」

「とりあえず数日分の食料、着替え少し、外套、日用品がいくつか」

「お前、俺の目を盗んでずっと用意していたのか」

「だって、ヤスユキがヒントくれたんだよ?」


 そう言ってシャルは手を前に差し出した。


「ヒント?」


 軽くシャルに目をやると、その手にはアプという果実が握られていた。


「…どこから出した?」

「次元魔法の中。今は時間停止のアイテムボックス研究中」


 そう、シャルにはあるのだ。現代日本から異世界…ここと同じかはわからないが、色々な世界に散っていった、俺と似たような転移者、転生者が何をやってきたか。そいつらが求めたチート能力。その使い方。そういった知識が。

 更には、俺の現代科学知識を使っての生産チート、経営チートなんかも出来る事を知っている。

 そりゃあ、旅に出るのも不安に思わない訳だ。

 魔法騎士団長を軽々と退ける魔法の才能に、俺の知識か…。

 あれ、これって俺がやりたかった異世界転生と大して変わらないんじゃないか?


「ほんと、お前って規格外だな」

「ヤスユキに言われたくないよー」

「でもまぁ、楽しい旅になりそうだ。よろしく頼むよ、相棒」

「がってん!」


 変な事まで覚えなくてよろしい!

やっと旅立ち。

ここまでがプロローグかな?

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