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第七話:VSヴィルジール

 翌朝。

 ギルドへ向かう為に家を出たシャルと俺は家の前で思わぬ足止めに合うことになった。

 昨夜のうちに依頼を見て、非常識に当たらない2の鐘が鳴るまで待っていたのであろう魔法使いが3名。他に、昨日来た魔法使いが1名。

 家を訪問するのは気が引ける時間ではあるが、本人が通りまで出てきたのであればその限りでは無いのだろう。早速1人が話しかけてくる。


 「では、行きますよ!」


 朝から元気な挑戦者が、ゆっくりと構える。

 ため息を吐きつつ手を前に差し出したシャルであるが、意識は残りの挑戦者の方を向いていた。そう、昨日負かした相手と話す、”守護霊持ちの有名人”の方を。



 試合は一瞬だった。○イソン魔法陣も使っていない。ある程度質量のある水を叩きつけてそれで終了、である。数メートル吹き飛ばされてすぐに立ち上がれる魔法使いなんてそう居ない。タフな戦士ならまだしも、である。


 相手が入れ替わるのを眺めながら、シャルは俺に話しかけてきた。


「あれ…まさか?」

「ああ、あの守護霊は見覚えあるな。ヴィルジールだ。多分、昨日のあいつは魔法騎士団員だったんだろ」

「じゃあ、最初の目標も果たせたってことね。やったじゃない!」


 少し笑顔を見せると、次の挑戦者に向かって手を向ける。

 そこでシャルのイタズラ心が疼いたのだろうか。ニヤリと悪い笑みを浮かべるとシャルは告げた。


「少しだけ、力入れちゃおっかな」

「よ、よよ…よろしくお願いします!」


 恐らく昨日の11連勝の話も知っているのだろう挑戦者。先程の魔法の威力も見てしまったがために、完全に腰が引けていた。それでもなお、手を向けて魔法を放とうとするが、逆にシャルは手を下げると全身に魔力の膜を展開する。


(パターンは青か…)


 シャルの纏う魔力は、既にいくつもパターンがある。

 その色で見分けはつくのだが、青と言えば家の中でシャルがよく使うお気に入りの魔法だった。


 全身に纏う魔力から、薄く風が噴出する。その途端に、シャルは高速で横に滑っていった。

 正面に向けていた挑戦者の魔法のコースから完全に外れ、斜め前の位置から直角に近い角度で急旋回すると一直線に挑戦者に向かって体当たりをかける。

 当たる瞬間、シャルの纏う魔力は赤…物理完全防御に切り替えられていた。

 13歳の少女とはいえ、発育もよく40キロ前後ありそうなシャルが時速にして100キロを超える速度で突撃する…。吹き飛んだ先でシャルが追加で放った風魔法にキャッチされていなければ、命の危険もあっただろう。見た目で放った魔法は0だが、実質2回。少しだけ次の強敵にサービスしてあげたつもりらしかった。


 パチパチ…


「凄えな、お嬢ちゃん。だがな、魔法勝負じゃなかったのかい? 今のは体術だろう?」


 手を叩きながら、ヴィルジールがこちらに向かってくる。


「次はあなたね。今のは魔法よ?」


 あぁ…魔力の流れを見るには、目の魔力もしっかり操作してなければならない。

 ヴィルジールには見えてなかったらしい。


「ほう…やたら強いとは聞いたが、見たことも無い魔法ってか? そういうのは詐欺って言うんだぜ」

「はぁ…さっきの魔法がなんだかわからないんですね」


 そう言って、シャルは再び青い魔力を纏う。


「これも、体術だとでも?」


 もう一度噴射。正し今度は下に向けて、である。

 普段家の中で使っている魔法、と言ったではないか。

 家の中であんな高速移動などしない。

 シャルは、自堕落にも動くのが億劫な時、あの魔法で寝転んだままの姿勢で移動するのだ。


 宙に浮いて。


「な…浮いている、だと?」

「ええ、これは魔法ですよ」

「そ、そんな…」


 呆然とするヴィルジール。だが、シャルは復帰まで待つつもりは無かった。


「では、行きます」


 ヴィルジールの真上に移動したシャルは、真下に向かってダイソ…いや、魔法陣を描いた。

 いつもはリングだけなのに、中に紋章のような図形を描いて凄く格好いい…。


 そこから吹き出たのは風速100キロはありそうな暴風だった。

 普通の人間が立っていられる圧力では無い。

 ヴィルジールはへたり込み、そのまま寝そべる体制に移行するとそのままうめき声を上げながら耐えるだけになる。


 長い、とは言っても20秒くらいだろうか。魔法が止まると、シャルは地面に降り立ってヴィルジールの頭の近くまで歩み出た。


「降参、します?」

「あ、あぁ…勝てる気がしない」


 そうつぶやくと、ヴィルジールはこわばった体の力を抜いたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ヴィルジールは神の見守り子である。

 10歳くらいまで、時々自分の周りに穏やかな顔の高貴そうな女性が見えていた。

 気味が悪いとは思わなかった。小さい頃から見慣れた顔だったので。だが、話かけても反応は無いし、いつからか全く見えなくなっていた。

 多分、魔法の才能が開花して、修行に忙しくなった頃から見えなくなっていったと思う。

 気付けば存在を忘れる程に。見守り子、という言葉を聞いた時だけ、ぼんやりと思い出す程度の事になっていた。


 昨日、副団長が所要でギルドに行った際に面白い依頼を見つけたらしい。

 見つけた時は面白い、と思ったのだそうだ。

 世界最強の魔法使いを名乗る女性の名前。金貨10枚という報酬の高さ。

 たった1戦して勝てば半月分の給料。負けても特にペナルティは無い。

 仮に強い相手だったらそれはそれで経験になるし、ぜひ行ってみようと思ってギルドを出たその足で指定の住所に向かったらしい。


 ドアを叩くと、出てきたのは小さい女の子だった。小さい、と言っても15歳くらいだろうか。もう少し下かもしれないと副団長は思った。

 その子が、最強の魔法使いを名乗り、ちょっと調子に乗り過ぎかな、と懲らしめてあげようと思った時には地面に打ち付けられていたという。


 シャルロット、という名前で調べて見れば、一応神の見守り子だったらしい事がわかった。だが、才能なし、と街の魔法店で判定されており、公式に残っている記録はそこまでだった。どんな環境で身につけたと言うのだろうか。威力もさる事ながら、とにかく早い射出と、目で捉えられなかった風魔法。聞けば、先手必勝で彼女に魔法を放った挑戦者も居たらしいが、魔法ごとかき消され、地面に叩きつけられたらしい。


 とまぁ、同じ神の見守り子のルーキーの登場に、少しワクワクしながら朝イチでここまで来たヴィルジールだったが、思っていたのとは桁が違う相手だった。

 少しも悔しいという気すらわかない。それほどまでに圧倒的だった。

 竜巻に巻き込まれ、命を失いそうな場面で悔しい、と思う人間がどれだけ居るだろうか。

 大抵の場合は死にたく無い、の一心で、ただひたすら、暴力がうまく通り過ぎるのを待つだけだろう。先程のヴィルジールはまさにそれだった。むしろ死に恐怖していたとすら思う。


 なんとか生き残…コ…った。はは…なんだこれ。

 全く勝てる…ロ…気がしねえや。

 この国…ス…で一番…コ…ロ…ス…



 そこで、彼の意識はブラックアウトした。






 ヴィルジールの体は、突如地面から吹き出した炎に飲まれていた。


 シャルは後ろに飛び下がり、被害は皆無だがいきなりの事で目を白黒させている。


「シャル! もっと下がれ! なんかおかしいぞ!」


 声をかけると、さっと纏った青い魔力を使って下がってくる。

 先程までヴィルジールが居たあたりで、影がブレて動いた。

 大柄だったヴィルジールとは違う、小柄な、女性のシルエット。

 ゆらりと、その影にヴィルジールと思わしき影が立ち上がり、重なる。


「コ…! ロ…! ス…!」


 なんとも不穏な言葉を吐きながら、炎を割って現れたのは、ヴィルジールに重なるように憑依した、鬼の形相の彼の守護霊だった。

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