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第二十二話:本戦 1

 予定していた祝勝会を断り、俺とシャルはその夜、明日からの作戦会議を行っていた。


「魔法に見えない攻撃って、どうしても風ばっかりになってつまんない」

「仕方ないだろ、他に良い魔法なんてあるか?」


 会議が始まって一言目がこれである。

 かと言って、物理現象を引き起こす魔法以外は、戦闘ではあまり使い勝手が良くないし、火や水、土魔法なんかはどうやっても魔法にしか見えないだろう。かろうじて重力とか、ベクトル変換なんて意見も出してみたが、現状の風と同じような使い方しか思いつかないし、慣れている風の方が楽というオチが付く。


「明日から優勝まで、全部相手転ばせて剣を突きつけるだけじゃ面白くないでしょ?」

「そりゃなぁ…でも、一番確実な方法なのは間違いないぞ」

「せめて、剣以外で戦いたいよね。ちゃんと相手をボコボコにしてさ」

「シャル、いつからそんな好戦的に…」


 とは言え、確かに今のままだと確実だが面白みは無い。


「じゃあ、ちゃんと剣で打ち合うか? 間違って一撃受けたら、痛くなくても魔法はバレるぞ」

「バレない方法も思いつかないしぃ…」


 もういっそ、変な縛りプレイをやめて魔法をぶちかましまくれと思うが、それも嫌なようだ。なかなかワガママなものである。


「日本には、剣以外の戦いは無いの?」

「いや、沢山あるけど…槍、鎌、棒、杖…」

「飛び道具だと?」


 あまり試合では見ないらしいが、弓師という職はこの世界にも居る。

 一回交わされると詰む1対1の対人戦に向かないから、試合には出てこない。まぁ、当然の事だ。魔物相手なら後衛として普通にパーテイに入る。


「弓の他にも、銃…は、シャルも何となく知ってるだろうけど、アレはこの世界じゃ魔法みたいなもんだぞ?」

「そっかぁ…」

「あ…」


 そこでふと思い出した。ゲームのようなスキルも無く、自らを鍛える事で強くなるこの世界において、全く使われない攻撃方法がある。


「空手、ってのがあるな」

「からて?」


 そう、この世界は武器を持つのが基本なのである。冒険者となれば、初心者でも魔物を倒せるだけの攻撃力が無いと生き残れない。初期装備のロングソード、攻撃力2を装備するくらいなら素手の方が強い、なんて事は起こらないのだ。剣を当てれば相手は切られ、死に至るのだ。まぁ、武術の達人ともなれば剣と渡り合えるなんて話を聞いたことがあるが、達人になるまで、自分を鍛えるだけで生きていける世界では無い。当然の如く徒手空拳で戦うという概念が無い。予選の最初で使った足払いすら、実戦で見るのは稀な行動だ。


「あぁ、素手で相手を叩きのめすっていう戦い方だ」

「武器も無く? 手が痛くならない?」

「あぁ、だから手を守るための手袋を付けたり、拳を鍛える為に木を殴る訓練をしたりする」

「うええ…大変そう」

「空手以外にも、柔道、相撲、ボクシング…いろんな素手での戦い方がある」


 シャルが向いているかどうかは別として、魔法で身体補助をして、手を物理防御で守れば実用レベルで戦えるだろうとは思う。


「やったら、目立つかな?」

「おう、それは間違い無い…良いことを思いついたぞ…」


 そうして、俺は明日の試合でやる悪巧み…いや、作戦をシャルに吹き込んだのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 あの後、部屋の中で空手の型のような動きを練習させて見たが、思ったよりもうまく行きそうな予感がしていた。もちろん魔法補助ありでの話である。ファルクスを、自ら扱っているかのように見える動きで操作しながら、自分自身の身体補助を行う、というのと、素手の自分の身体補助を行うのでは難易度が全く違う。苦労して身につけた技術が、結果として徒手空拳をかなりの高みにあげていたというのは嬉しい誤算だった。


 というわけで、今日は本戦1回戦である。

 一試合にかかる時間が予選よりもそこまで長くなるわけも無く、試合数は圧倒的に少ない。なので、昨日とは違い前の人の試合が終わるまで、自分の順番を待つというのでは無く、最初から試合時間が決められている。およそ3時間おきに鳴る時報の鐘を6分割、つまり1試合30分と決められ、日時計のようなもので時間を管理する運営の人が呼びに来てくれるまで、控室で待っていて良い事になっていた。

 実際、30分もの時間を使う事はまず無い。にらみ合いにでもなればわからないが、それでも30分、命の危険がある状況下で集中力を保つような戦いはまず起こらないのだ。なので、余った時間で賭博を管理している商会の従業員があちこちの観客席を飛び回って売上アップに勤しみ、ドリンクやツマミを売る売り子が沢山歩き回っていた。観客も予選よりも明らかに多く、ここからが本番なのだ、という感覚を嫌でも味わう事になった。


「シャル、緊張してないか?」

「大丈夫。逆にワクワクしてきたよ」


 本戦初日、第一戦。素晴らしい組み合わせに当たったものだ。係員の声に従い、シャル(と俺)は競技場の中央付近の開始位置まで進み出た。ファルクスは”まだ”持っている。相手の出方も分からずに最初から素手だと、先制で食らう可能性が高いかも知れないという判断だ。なので、出来る限り演出も考えたつもりだ。


 相手は大柄な戦士だった。ロングソードと、盾まで持っている。エンゾさん情報では、予選勝ち抜き組では無くシード枠かららしいが、決勝まで行くレベルでは無いらしい。

 さて、舞台の開始である。


「準備は良いですか。では、始め!」


 審判の声がかかる。が、お互いにその場で動かなかった。相手は盾を構え、完全に防御先行で行くつもりらしい。


「来ないんですか?」

「お前の速さは知っているからな。最初から飛び込んで来ると思って構えたんだが、意外だな」

「なるほど、昨日の試合を観戦していましたか」


 少しだけ言葉を交わすと、シャルは腰を落として力を貯めるように構えた。


「では、こちらから行かせて貰いますね」


 言い終わると同時に、シャルは地面を蹴った。あっという間に相手に近寄り、盾を持っていない右手を目掛けてファルクスを振る。


 キン!


 右半身だけなら、多少速度で負けていても剣で受けるのは難しくない。むしろ受けやすい位置を目掛けて振られたファランクスを、ロングソードが正確に受け止め…宙を舞った。


「なっ」


 なんという事は無い。受けやすいのはわかっており、タイミングを見るのも難しくないのだから、インパクトの瞬間に相手の握った拳の中に空気の層を薄く流し込んだのだ。一瞬宙を浮いたロングソードは、そのまま衝撃を受けて飛んでいったという訳だ。


 相手は必死の形相で盾を構え、数歩後退る。その更に後方でロングソードが地面に落ち、乾いた金属音を響かせたが戦士の足はそこで止まった。そのまま武器を取りに走りたいだろうが、シャルの速度に追いつかれたら終わると気付いたらしい。


「あらあら…では、こうしますか」


 ファルクスを構え直したシャルだったが、すぐに構えを解いてファルクスを脇に放る。

 そのまま、拳を構えると右手の平を上に向け、ちょいちょいと動かす。


「な、何をしている!?」

「どうぞ、かかってきてくださいな」


 そう、シャルは相手の武器を取り上げ、拳での戦いを煽ったのだった。


「盾は持っててもいいですよ。至近距離だと邪魔だとは思いますが」

「な、舐めるな!!」


 男は激高し、盾を放り投げると拳を握りしめてシャルに駆け寄った。構えも何もあったものじゃない。ゴロツキの喧嘩と変わらない光景であるが、シャルは綺麗にその拳に腕を当てて受け流し、懐に潜り込む。そのまま相手の胴に手を回すと、男を抱え放り投げた。


「う、うぉぉぉ!?」


 いわゆる投げっぱなしジャーマンである。本来は背面から抱えあげるものだろうが、細かい部分は誰にもわからないので構わない。

 男は3メートル程だが確かに宙を舞い、地面に落下した。ワッと観客席が沸く。まず見ることの無い光景に興奮は高まって来たようである。


「いってぇ…てめぇ、本当に女かよ!?」

「あの武器を振り回してて、鍛えてない方がおかしいでしょう?」


 男は痛そうにしながらも立ち上がり、ズレた兜を直したがすぐに兜を取った。


「畜生、てめぇがその気なら本気で行くぞ。大人を怒らせてタダで済むと思うな!」


 言いながら、鎧の胸当て部分も外し放り投げる。完全に素手で戦う気になったようで、邪魔だと判断したのだろう。だがそれは悪手でしか無い。


「あら、防御を捨てていいんですか?」

「あぁ!? うっせえ、ぶん殴ってやる!」

「出来るなら、どうぞ」


 言った次の瞬間、シャルは再び男の懐に飛び込んでいた。慌てて振った腕はシャルの頭上で空を切る。そして、大きく伸びたシャルの体の勢いそのままに、拳は彼の顎を捉えた。もちろん魔力の補助付きのその一撃で、彼は一度たたらを踏んで後退し、ゆっくりと後ろに倒れたのだった。

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