第十四話:食い扶持と夜の探索
颯爽と立ち去っておきながら、追い抜かれるのは格好悪いというシャルの主張はあっさりと俺の賛同を得た。
光学迷彩、風魔法による飛行と高速移動を駆使して次の街へと30分程で到着し、俺達は既に街に入っていた。もちろん門はきちんと許可を得て通過している。親戚の家に用事と伝えればあっさりしたものだった。まぁ、ここまでの道中が魔物に対してはほぼ安全と言われているのでそう問い詰められるようなことにはならない。
「さー、ついたが…あんまり代わり映えしないな」
「そりゃ、王都を挟んで逆側に来ただけだから…」
この国は中心に王都、その周囲に4大都市と呼ばれる街がある。その近郊は魔物の駆除もかなり行き届いているし、街も同じように栄えている。
敢えて言うなら、王都の南のシャルの地元である街は農業・商業が中心で、北側のこちらは大きな森から資源を取っての木工・道具や武器類の鍛冶、そして商業が盛んだ。ちなみに東へ行けば鉱山があり、西なら漁業、一部農業だ。人が多ければ商業が栄えるのはどの街もあまり変わらない。
つまり、街並みを見比べても商業区や住宅街は大差が無い。工房の立ち並ぶ地帯へ行けばすこしは変わるが、異国情緒という次元の差はあまり感じないものだ。
「せっかく来たんだから、なんか買い物くらいはしたいよね」
「うーん、武器でも買うのか?」
「えー…杖とかって、意味有るの?」
魔法イコール杖、という図式はこの世界にはあまり浸透していない。
魔法はイメージ力が大事になってくるので、ルーティーンとして水晶、壺と言った小道具を使う人はいなくも無いらしいので杖を持つのもなしでは無いが…。
「意味は…無いな」
「手が塞がるだけだよね」
「あぁ…まだ護身用の剣のほうがマシだな」
「剣かぁ…」
友達と外を走り回っている姿を見ていた限り、シャルは運動神経は良い方ではある。本職には叶わないだろうが、一般人同士でならそこそこ戦えるはずだ。
「血を見たくは無いから、無しかなぁ…」
「…空の彼方に吹き飛ばしたほうが気は楽だもんな」
などと、考えが物騒になってきたので話を変える事にする。
ごった返しているわけでもないのに、わざわざ至近距離を通る人もいないだろうが、街中でする話じゃない。
「とにかく、一泊して宿で決めよう。稼ぎも考えなきゃいけないだろ?」
「そうだね。今は何よりもお金だね」
宿を探すなら、ここらの商業区か王都とは反対に位置する北の方だ。
一応王都側にも冒険者は出る事があるので、それらをターゲットとする宿もあるが、基本的には北に行った方が冒険者向けの宿が多い。商人向けの宿はセキュリティ的にも割高になるハズだ。
俺たちは街を散策しながら、北を目指して移動することにした。
まだ昼過ぎくらいの時刻なので、宿に入る前にかなりぶらぶら出来る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
半日街を歩き、宿に入った頃には外は暗くなり始めていた。
が、思った以上に何も無かった。
鍛冶職人組合からの委託販売を一手に担っているという大商店も覗いてみたが、そもそも求めている商品も無いので完全に無風状態だった。敢えて言えば、包丁等の台所用品をシャルが少し欲しがったくらいだ。が、それもナイフ一本あれば大抵なんとかなるし、あまり多くない金をかける程の価値は無い。
「で、稼ぎになりそうな話も無かったな」
「こういう時の定番って、やっぱり商売かな?」
「まぁなぁ…」
シャルが言っているのはこの世界の一般的な話では無い。
異世界知識を使ったチート荒稼ぎの事を指している。定番といえばシャンプー等の美容系、製紙業、日本からの輸入品。が、そのどれも俺にまともな知識は無い。
シャンプーというか、石鹸くらいなら子供の時に夏休みの自由研究で作った事はあるが…。あんなもの、灰と油を混ぜるだけで誰にでも出来る。それにこの世界にもあるので意味がない。他に俺の知識で作れる生活必需品になりそうなものなんて有るだろうか。
既にこの世界に来てから13年程経っているとは言え、自らの生活に困る、という事からは縁遠い体になってしまったので特に思いつかないのだ。
結局、しばらく話し込んだものの何も思いつかず。とりあえずは明日、もう一回街中探索をしてから、という事になった。すぐに移動する事も考えたが、人の多い街の方が稼ぎには適している可能性が高いだろうという事で移動は延期となった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その夜。シャルは早めの時間にご就寝したので、俺は外に散策に出る事にした。
なにせ全く寝ない生活をしているので、静かにぼーっとしている事も今では平気になったが、見知らぬ街でただ無駄に時間を過ごすのも勿体ない、と思ったのだ。
外に出て数分。何となくメインストリートをまっすぐに飛んでみるが、酒場から宿へ帰る冒険者がちらほら居る程度で特にこれと言った事件も無さそうに見える。そのまま住宅街や商業地区を通り過ぎ、気付けば最初に入ってきた門に近い場所まで来ていた。流石にほとんど人影も見なくなったが、民家から漏れ出る燭台や松明の明かりが雰囲気のあるストリートを演出していた。
が、一箇所やや騒がしい雰囲気を感じて目をやった。門が開けられ、一台の馬車が入ってくる所だった。こんな時間でも、通行人がいればわざわざ開けてやるらしい。
急ぎで走ってきた馬車なのだろう。御者らしき男が門衛に例を言いながら馬車から降りて手続きをしている。その姿に見覚えがある気がしたので、ふらりと近くまで寄ってみた。
「いやあ、すいません。急ぎの荷物があったもんでして…」
「いやあ、良いんですよ。アルエ商会の旦那には世話になってますから」
そんな会話をしているのが見えるが、その片方…御者の男は、シャルを誘拐しようとした3人のうちの1人だった。どうやらあのまま急ぎで馬車を走らせ、今ここに到着したらしい。
半日程度遅らせたハズだったので、野営をして明日の昼くらいに着く計算になると思うのだが、夕方に野営を取らず、朝から昼までの分を走り続けたとしたら丁度計算が合う。何があったか知らないが、よほど急いで来たように思えた。
御者は手早く手続きを済ませ、再び御者台に乗った。恐らく雇い主の商会まで戻るだろうと思われるので、そのまま付いて行くことにする。何に急いでいるのか、ちょっと気になったのだ。どうせフラフラ飛んでいてもなかなか面白い事など起こらないのは見えているのだし。
さすがに暗いので御者台にカンテラのようなものを下げているが、それでもゆっくりと馬車はストリートを進み、裏道に入ってすぐにあった倉庫のような場所に止まった。表は大きな商店だったので、そこの倉庫だろう。昨日シャルと入った店では無いのでどんな店かはわからないが、奴隷等も商品にしているので表と裏のある店なのは間違い無い。
男たちは3人揃って馬車から降りると、荷物も持たずに倉庫に入った。馬車の中の奴隷達も商品も置き去りだが、相当急いで居る様子だった。
入ってすぐに、中で何やら作業をしていた別の男に馬車と商品の処理を頼むと、そのまま中に入っていく。その足で2階まで上がるとその先に事務所らしき部屋があった。
「旦那様! 今帰りました!」
声をかけながらドアを開けると、奥のソファで書類を眺めていたらしき男が視線で出迎えた。
「おお、随分遅かったな。こんな時間に戻ってくるとは、何かあったか?」
「ええ、聞いてください、旦那様。俺たち、神に出会ったんです!」




