第十一話:旅は道連れ
家を出てから3日。最初の夜は王都で宿に泊まったが、昨日は野宿となった。
適当に木陰に隠れ、毛布に包まって寝ただけだがシャルは特に疲れた雰囲気は見せていない。荷物が無いとは言え、遠足が2日も続けばかなりこたえると思ったのだがそうでも無い…わけでは無い。
「シャル、いっその事飛んだほうが良いんじゃない?」
「それだと旅の雰囲気が台無しでしょー?」
魔法で宙に浮き、傍目からは歩いているように見えるものの抵抗はゼロ。足踏みよりも力を使わず進んでいるのである。はっきり言って詐欺だ。
「いや、無駄に時間かかるだけで意味も無いだろ…」
「うーん、だけど変に早く移動してたら、馬車とか追い越しちゃって変に思われるよね?」
それは言えているが…なんというか腑に落ちない。
まぁ、まだ王都近くだし、下手に魔法を使いまくって目立つ行動をするべきでは無いのだろうが…。
と、後方からガラガラと馬車の音が聞こえてくる。どうやら一台のようだが、大きめの馬車が来るのでシャルは脇に避けて道を開けた。
ガラガラガラ…
通り過ぎる、と思ったところで馬車が急に速度を落とした。そのまま停車すると御者台にいた男が降りてくる。
「お嬢ちゃん、こんな所で1人かい?」
「ええ、隣町の親戚の家まで行くんです」
「いくら一本道とは言え、あと2日はかかる。危ないし大変だろう。乗っていくかい?」
親戚の家という言い訳は王都の門でも使ったものだ。
それでも危険だと門番は馬車の利用を勧めたが、割と強引に押し切った。王都周辺だけあって、魔物の出現がかなり少ないので言うほど危険でも無いのだ。単純に行き倒れる可能性のほうがまだ高いらしい。
「いえ、何度か行ったことがありますから、ご心配無く」
別に悪い話では無いのだが、シャルとしてはあまり人の世話になりたく無いようだった。一人前になったばかり(年齢的にはまだだが)なので、自力に拘っているのかもしれない。
「いやいや、遠慮なんてしなくていいから。どうせ同じ道を行くんだ」
多少強引な気がするが、良い人なのだろう…と思いながら、馬車の中に顔を突っ込んで見る。
荷運びをしている商人かな、という単なる興味本位だったのだが…。
馬車の中にあったのは、手足を鎖で縛られた3人の少女だった。
その少女の向かいで、2人の男が剣を構えて静かにするように威圧をしている。
奴隷…か。それも親に売られたパターンだ。
もし誘拐であれば、馬車なんかに乗せて街から出る事は出来ない。解決するまで徹底的に検問が張られ、見つかれば良くて縛り首、悪くて斬首刑だ。
だが、親に売られたり、犯罪奴隷となると話は違う。それは合法だからである。荷物を確認されても、全く問題は無い。公式な書類一枚で彼女らは「荷物」として扱われるのである。
『シャル、こいつ奴隷商人だ。道中の誘拐なら発覚する可能性がほぼ無いから、狙われてるんだ』
次の街に入る時に、樽や木箱に押し込めてしまえば、検問が張られている状況でもなければ問題無く入れてしまう。書類一枚偽造出来るのであれば、3人は本物なので高確率で門も通れるかもしれない。街に入ってしまえば、ほぼ問題無く売り物に出来るだろう。本人の主張など意味は無い。馬で数日かかる街まで確認に走るなんてことはしないのだから。
押し問答をしていたシャルだが、それを聞いて少し黙り込んだ。
別に合法な奴隷であればシャルが開放してやる必要は無い。むしろそんなことは出来ない。商品だからである。シャルが悩んだのはどうやって断るか、だろう。力づくで来られても構いはしないが…。
『シャル、適当に逃げよう』
「わかりました。では、お邪魔させて貰いますね。ありがとうございます」
『シャル!?』
にっこり笑顔で頭を下げると、シャルは馬車の後方に回ろうとする。
御者の男も後方に周り、荷台から足台を下ろした。
すんなりと足台に乗り、シャルは一度幌の中に頭を突っ込む…と同時に男はシャルの足を抱えると、放り投げるように荷台の中にシャルを押し込んだのだった。
「動くな。首が飛ぶぞ」
ドスの聞いた声が馬車の中から聞こえる。俺も慌てて馬車の中に頭を突っ込み、様子を伺った。
「え、え? なんですか?」
「はっ、運の悪い奴だ。残念だが、お前は今から商品になるんだよ」
「どういうことです?」
「お前は今からコイツら奴隷の仲間入りさ。親に売られたことになるんだ。さぁ、荷物を出せ」
なんというか、典型的な悪人だな。
まぁ、奴隷を扱う商人なんて盗賊崩れみたいなもんだ。
「荷物…はありませんけど…」
「はぁ?」
剣を構えた男が怪訝な顔をするが、確かにシャルは何も持っていない。
普通の街娘の格好で、特にポケットすら付いていないのだ。
幌の端を押し上げ、御者と何やら言葉を交わす。荷物を隠したかどうか確認したが、それらしいものは最初から無かったので見ているハズが無い。
「お前、数日飲まず食わずで歩くつもりだったのか?」
「いえ、森で色々取れますし」
「武器は」
「特にありません」
なんとも奇妙な沈黙が流れる。
男の頭の中では、疑問しか生まれていないだろう。
「親は」
「王都にいます」
「捨てられたのか?」
「いえ、何度もこうして隣町の親戚の家に遊びに行っています」
今まさに誘拐されたハズの割に、シャルはずいぶん落ち着いた様子で問答しているが、男はそんな様子にすら気付かないようだった。まぁ、それくらいあり得ない状況なのは確かだよなぁ…。
「意味がわからんな。まぁいい。お前はこれから奴隷の1人だ。次の門で騒いだりするなよ。結果は変わらんし、ただ面倒になるだけだからな」
「いえ、お断りします」
「はっ、変な奴拾っちまったな。断ったところで結果は変わんねーんだよ。変わるとしたらその首が胴から離れるだけだ」
にっこり笑うと、シャルはその場にちょこんと座り、男達に背を向けた。
「ヤスユキ」
「あん? どうするつもりなんだ?」
この間使ったばかりの指向性を持たせた会話である事はすぐにわかる。
内緒話をする為に背中を向けたのだろう。
「とりあえず時間短縮になるし、このまま乗せてもらおうか。街の少し手前で降りればいいし…」
「あ、あぁ、それは良いけど、無茶な事はするなよ?」
「大丈夫。私は何もしませーん」
「見た目には?」
ふふ、と笑い、シャルはそのまま横になった。後ろで男が警戒するように剣を持ち上げたが、シャルの様子を見て警戒を解く。随分と変な顔はしているが、おかしな女を拾った、程度にしか思っていないのだろう。
さて、シャルが何をするつもりなのか推理してみよう。
馬車を爆破でもする?
男達を惨殺?
正直、平和な街産まれのシャルに人殺しの覚悟があるとは思えないが…あったとしても、やらせたいとは思わない。
というか、何もしない、というのが良くわからない。
実際には何かするのは明白なのだ。魔法を使う。正し見た目には何かをしたようには見えない形、という訳だ。
いかんな、こいつのイタズラ癖が少し感染ってきたかもしれない。
シャルは寝てはいないものの、ヒントもくれるつもりが無いようだし…。
俺は、今までにシャルに話した異世界物語を思い出しながら妄想にふけることにしたのだった。




