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第一話:転生の秘密…

更新は気分次第です。

一日5話上げたり、一週間空いたり。

飽きないようにうまく調整しながら行きます。

 異世界転生。


 それはこの世界がひたすらに隠しているこの世の秘密だ。

 沢山の人々がそれを知っている。

 例えばアニメ。例えば小説。例えばゲーム。

 多種多様な媒体で繰り広げられる、異世界転生後の人生を紡いだ物語。

 それらは決して創作だけではない。

 中には真実を描いた伝記であったり、ノンフィクションのものもあるのだ。


 信じられない? それはそうだろう。

 それらを文字に起こした小説家本人か、あるいは出版社はそれらを世界に真実だと伝えようとはしていないのだから。

 “この物語はフィクションです”

 ただその一文だけで、視聴者、読者、プレイヤー達は簡単に騙されてしまうのだ。

 その真実が、自分の常識とは乖離している…ただそれだけの事で。


 しかし、その秘密に気付くものも世の中には少しはいるという事を忘れてはいけない。

 俺もその一人だ。あれらの不思議な異世界の物語たちは、確実に真実であると。

 たかが人間の空想で、あれほどまでに彩り鮮やかな物語が描けるわけがない。

 それこそ、異世界で培った執筆スキルでもあるのなら話は違うかもしれないが、そのスキルこそが異世界があるという証でもある。

 つまり、俺が心から愛し、憧れて止まないあの数々の異世界ファンタジー物語たちは真実のストーリーなのである。


 そして―


 俺もいけるはずなのである。


 あの、魅力的な世界に。


 異世界はありまぁす!


 いかん、嘘くさくなるな…。


 心の中で一人ボケツッコミをしながら視線を巡らせる。


 さて、頃合いだろう。少し遠くから迫る影を見つけ、俺は一歩踏み出す覚悟を決める。




 今、俺の前に―



 あの世界へ俺を旅立たせてくれる、スピード違反を犯して走る、理想以上の大きさのトラックが、迎えに来てくれていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺は見下ろしていた。


 何を?

 体だ。

 うげ…と声が出そうになる、見事にぐちゃぐちゃに潰れた、元・俺の体。


 現・俺の体ではないのが不思議な気分であるが、今は俺の体ではないだろう。

 足元10メートルくらいは下に離れているし。



 …って、これは予想していない事態だった。

 10分程辺りを見渡していても、一向に神様が現れる気配が無い。

 俺は神様の手で、潔くすっぱりとこのつまらない地球を離れ、今頃は異世界で転生し産声を上げているはずだった。

 数々のマニュアルにもそう書いてあったのだ。暴走トラックに轢かれたら、神様がスキルをつけて異世界へ送ってくれると。

 …何か間違っただろうか。もしかして、暴走トラックに轢かれそうだった子供が足りなかった?

 あまり多くはない例だが、霊とか、現代ホラー的な物語もこの世の真実だったとは驚きだ。

 そして、俺はそちらのルートへ進んでしまったらしい。



 つまり、俺は今霊体になったと。ふむふむ、納得はしたが…異世界、行きそびれちまったな。

 特にこの世界に未練などなかったはずなのに。

 あえて言えば、まだ連載中のウェブ小説のあれやこれ、来期放送予定だったアニメがこの世界に置き去りだった事だが…まぁ、実体験しちゃえばいいや、と未練は断ち切ったつもりだったんだ。


 深く考えていても仕方ない。

 それに、もしかしたら今から神様が迎えに来てくれるかもしれない…そんな淡い期待を込めて、俺はもうしばらく様子を見ている事にした。



 その後、俺の転生作戦に巻き込まれてしまったトラックドライバーさんが連行されるシーンでは心が痛みつつ、しばらくその場でふよふよと浮いていたのだが…俺の状況は何も変わることなく、夜になっていた。

 美少女霊媒師も、あの世の使いも、霊力の使い方を教えてくれる親切な幽霊仲間も…誰も現れることなく、日は沈んだのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 幽霊の朝は早い。

 というか夜も眠気は来ないし、朝になっても来ない。

 多分、生理現象が無いからだろう。


 「まいったね。何したらいいかわかんねえ…」


 つぶやいては見たものの、その声が辺りの空気を震わせた様子はない。誰にも聞こえていないだろう。

 早朝…おそらく5時くらい? 空は十分に明るくなっているが、辺りには人っ子一人いないので、当たり前ではあるのだが。そろそろ自発的に行動を起こさないと、何も変わらずここを漂うだけの地縛霊になってしまいそうな気すらする。

 そもそも長距離トラックが多く通る場所で、自転車でもなんとか来れる隣町へつながる国道、というだけで選んだ死に場所なので、地縛霊になるような理由というか、土地への未練とかつながりは無いのだが。

 とは言え…行先も特に思いつかない。

 実家…は何となく帰りがたい。あんな親でも泣いていれば後味が悪いし、特に平気な顔…をしていると思っているが、それはそれで見たくない。

 なので、俺はとりあえず大好きな本屋をぶらりとめぐってみる事にした。

 こんな時間でも開いている本屋など、田舎であるこの地元には無いが、隣町まで行けばあるし、幸いここからならそう遠くない。空を飛べるのはずっと実証済みなので、まっすぐに向かっていけば早そうだった。




 ということで付きました、24時間やっている本屋。本当はレンタルCD・DVDがメインの店だが、俺にとっては本屋。

 ごく稀にお気に入りのアニメのDVDを買ったりもするが、レンタルはあまり利用しない為に本屋としてしか認識はしていない。


 自動ドアをするりと抜け…文字通り、通り抜けてしまった事にビビりながら、俺は本を物色する。

 浮いていると高いところの本をとるのも楽だね、なんて考えながら一冊の本に手を伸ばしてみるが…その手は本をすり抜けていた。


「おぉ…そっか。こうなるのか…」


 思わず声が出る…が、やはり誰の耳にも声は届かないだろう。

 自分でも不思議なくらい、霊体になってからなんの実験もしていない。

 すり抜けるくらいの事は、当たり前に捉えているべきだっただろうに。

 思ったより、転生できなかった事は俺の中でショックだったらしい。霊体に順応しようとか、確認をしたい意思が全く働いていない。


「はぁ…どうすんだよ、これから」


 少し大きめの独り言。今更ではあるが、近くの店員に聞こえたりしないか…と期待してみたもののその様子もない。



 俺は、正真正銘の幽霊として、この何もないつまらない世界で、今まで大好きだった小説すら手に取る事が出来ない体を手に入れたのだった。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 霊体になって2回目の朝。昨日は比較的人通りの多い駅前や、通っていた学校、病院、墓地等を見て回った。

 ふよふよと飛んで眺めただけではあるが、それで分かった事が2つ。

 ひとつ、幽霊は思った程多くない。

 あちこち見て、千人は生きた人間を見たと思うが、幽霊はたった2人。そのどちらも守護霊のように特定の人物の背後について…憑いていた。最初の霊を見つけるまでは、他の霊体は見えないのかと勘違いしかけた程だ。


 そして2つ目。俺は特殊かもしれない。

 出会った幽霊2人。そのどちらも理性は無かった。

 憑いている事が使命というか、そうプログラムされたロボットのように対象の人物から離れようとしなかった。

 霊体同士、触れることが出来たので腕を引いたが、気が狂ったように手を振り解かれ、雄叫びを上げながら背後に憑いていった。

 意思の疎通は全く不可能で、いかにも一念貫き通す怨念の籠った霊だった。

 俺のように理性的に思考している様子は無い。

 ただ…片方は背後に戻った途端穏やかな表情になったが、もう片方は硬い表情だったのが気になる。守護霊、背後霊と別の性質の物だったかもしれないが…良く分からない。

 なんにしても、俺の生き方…霊としての在り方?の見本にはならなさそうだったので、適当にちょっかいをかけた所で止めておいた。


 さて…俺はどうしたらいいだろうか。

 正直時間を持て余しているのだ。

 民家に忍び込んでテレビでも見ようか。運良く付いていたとしても、見たいものを見るのは困難だろう。

 探せば理想的な好みのアニオタの家もあるだろうが…。


 そうだ。


 好きな声優を生で見れるのではないだろうか。

 少し…というか、かなり遠いだろうが…とりあえず東京を目指して移動、探せばアフレコスタジオにも忍び込み放題だ。

 このまま目的もなく漂っているよりは素晴らしい案に思える。

 俺はそう判断し、早速東京方面を目指すことにする。

 ふよふよと空を飛びながら、駅方面を目指して移動だ。どっちへ行けばいいか分からないなら、まずは駅。そう思い高度を上げると、遥か先に新幹線が走っているのが見える。


 …あれに乗れたらな。


 多分体をすり抜けてしまうし、ふよふよ飛行では走行中の新幹線など追いつける訳もない。

 ワープみたいな事が出来たらなー…と思い、新幹線の中を思い浮かべた次の瞬間だった。


 俺の視界は新幹線の中を捉えていた。


「うぉっ!」


 高速で俺の体をすり抜けていく座席の列に驚くが、間違いなくそこは新幹線の中だった。

 ビビり、瞬きしている間に車体はすり抜けて俺を置き去りにして行く。


「ま、マジか…」


 ありもしない心臓がバクバク言っている気がする。

 と言うか、ワープ…出来たんだ。


「なんだよ…じゃあ東京だってすぐじゃ…」


 独り言で言いかけ、俺は言葉を飲んだ。



 ワープって、どこまで行ける?


 俺はさっきの新幹線の中なんて知らない。

 思い浮かべたものの、それは想像だった。

 外側とは言え、見ていたから?


 それなら…と、俺は何となくイメージの、アニメのアフレコスタジオを思い浮かべ、ワープしたいと願う。

 次の瞬間、あたりの景色が変わっていた。

 白っぽい壁、大きなガラスで区切られた部屋。誰も居なかったが…確かにスタジオのようだ。

 イメージに近いと言えば近い。かけ離れてはいない。

 それだけでここに来たようだ。どこのスタジオかは知らないが…とりあえずイメージに近い所に行けている。


 なら、異世界をイメージしたらどうなる?


 胸が高鳴ってくる気がする。


 心臓など無くても、気分は高揚するのだろう。


 イメージしろ、俺の脳細胞。


 アニメで散々見た、あの中世の街並み。


 あ、二次元じゃダメかも。リアルにいこう。


 前にテレビで見た、中世テーマパークの風景が近いだろう。北海道だっけ?


 よしっ、ワープ!





 そこは確かに、中世の街並みだった。


 テレビで見た、そのままの景色。

 沢山歩いている、観光客…日本人の。


「違う違う! ちっが〜う!!!」


 そのままテーマパークにきてどうする。


 しかしながら、本物そっくりに作った街並みを見ながら、違う異世界の風景を想像するのは難しい。



俺は数十回の試行の末、一度も見たことの無い、観光客の見当たらない中世の街並みに辿り着いたのだった。


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