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魔装機シュミレーター

ルシャがルリチシャだったと前話の前書きで書かせて頂きましたが、それにともない1話目若干の改編をいたしました。

すみません。

ただマリティア少女がルリ呼びするだけです。

「札式魔装のシュミレーター、それを用意出来たので、一般武闘授業の代わりに受けて貰う事になった。指導は教員ではなく外部人員である。面倒をかけないように」

「……」

入学して一年程経った頃に呼び出され、教員により説明がされた。

「魔装に希望を出したのは君らだけであるから仕方なく、こうしたのではあるが、本当に、問題行動は起こさないように」

「……」

再三の注意ではあるが。

「問題行動とは具体的にどのようなものでしょうか」

「……ラリア候補生、頼むぞ」

「はい」

自分が質問した事の答えでない教員の言葉に、なんとも言えない様子でリア少年は返答をした。そんなわけで特別授業というのが始まる。



「ルリ様」

嬉しそうな伸びやかな声に呼ばれる。見れば少女が一人。綺麗に編み込まれた髪。薄い緑の瞳。覚えのあるような、ないような。

「知り合い?」

ロア少年に耳元ではばかるように聞かれ、首を傾げる。それに反応してか少女は笑顔を見せる。

「入学式でお会い致しました。マリティアです」

胸に手を当て、服の裾を持ち礼を取る。あぁと思わなくもないが。

「女学校の方では私しか魔装の希望を出さなかったみたいです。特別講師の方も限られますし、合同で実習をするそうです」

「そうですか」

距離を詰めて来られるので、一歩引く。

「マリィとお呼び下さいな」

「マティじゃないんだ」

「ふふ、お好きに。そちらは?」

「ロサケア、ロアでいいけど、なんか」

ロア少年の訝る様子にマリティア少女は首を傾げる。

「ルシャの事、……いいんだけど」

「まぁ、ルリ様の事は、ルシャ様とお呼びしても?」

「え……はい」

にじり寄って来られるので、リア少年の袖の裾を掴む。

「俺はラリアで、リア。こっちはサンザシでサン」

困ったような表情でリア少年は言う。サン少年は普段通りぶっきらぼうな表情で変わらず。

「とりあえず、入りますか」

教室前の廊下であって、リア少年がその扉を開ける。そこにあるのは高さ二メートル横一メートルばかりの直方体の黒い箱。特殊な術式の刻み込まれた。緻密。奇抜というのか。

「あぁ、いらっしゃい」

緩やかな笑み。濃い金の髪が揺れる。笑みの間キラキラと光を受ける睫毛の隙間から濃いオレンジの色の瞳がのぞく。その人の、その人の。魔術霊式が。やばい。怖い。気味が悪い程、人体にそくしていて。目を逸らして、口元を抑える。

「あぁ、どうしたの?大丈夫?」

近付くその人の気配にリア少年の背後、背中に額をくっつける。

「どうした?急に人見知りか?」

「術式が」

なんと言えばいいのか。ぎゅっと背で手を握る。

「人体形式に即し過ぎていて」

「は?」

「あれ?霊力流見えるの?」

それには首を横に振る。

「術式が」

「そこピンポイント?変わっているね。それで、えぇっと?」

困らせているのは分かっているが。全身が粟立つように拒絶している。声は柔らかく甘く切なげな響きが優しい。

「術式が人体器官のようで。人体器官は、苦手で」

「あぁ、まぁ、人体器官眺めて愛でる人の方が特殊かな」

そういう問題でもなく、それが動く事で人が動く、生きていると思うのが駄目なのだけれど。

「じゃあ、シュミレーターに入るし、そしたら見えなくなるかな。みんなも適当に入って通信オンにしてくれるかな。じゃ宜しく」

さっさと気配は離れて、バタンと鳴って薄くなる。

「ルシャ?」

「あの人の心臓は霊石です」

「え?まじか」

「そこまでするの?」

「まぁ、そのような事を?」

マリティア少女の驚きの声。そういえば居た。四人でいる時の調子で話してしまった。

「ですけれど、石保有の方々は環境課からの活動制限発令後、行動制限されておられませんでしたか?」

「あぁ、確か、石の国と鉄の国の間の特区の署に配備されて以後活動停止していたっけか。まぁ、でも実戦で魔装使っていたのってその人らだし」

「使わずに腐らせておくより教官にしちゃえって?機構の割に柔軟だけど」

「あら?士官生徒であられるのに機構に何か思うところがおありでして?」

「え?なんでもない」

ロア少年もいつもの調子で話してしまっていたらしい。マリティア少女に剣呑な笑みを向けられて目を逸らしている。しかしちょっと落ち着いてきて息を吐く。

「君たちー、箱に入ってくれないかなぁ。ルリチシャ君だよね。君は気分が戻りそうにないなら医務室か部屋に戻るか。見学しておきたいなら中に入って。誰か呼んだ方がいい?」

「いえ、大丈夫です」

外部スピーカーらしい、先程の人の声にそれぞれ箱に向かって入る。

「はい、どうもソラです。どうせ偽名だから適当に呼んでくれたらいいから」

箱に響く声は柔らかいまま。マリティア少女が言っていた、声をそのまま届けたいといのは確かに機械よりも術式機向きなのかもしれない。その声が名前を呼んだら返答をと言うので、皆それぞれそうしたし自分もそうした。

「さて、色々憶測するところもあるかもしれないけど、気にしないで、さくさくやっていくよ。このシュミレーターでは魔装発動状態を再現、あと実地映像再現が出来ています。備え付けのゴーグルを付ければ、魔装使用時に内部表示される事柄が見え、座席に座れば魔装から見えるであろう、現場。平野とか荒野とか原野とか、まぁ野外映像が流れ、活動が反映されます」

朗らかに説明されていく。

「よく分からないだろうから、やってみようか」

ぴっと、周りに映像が表示される。それは、外の世界。映像再現術式。あぁ術式が気になって、多分綺麗な映像なのだろうけれど。術式の緻密さが気になる。ゴーグルはゴーグルで、術式が気になる。再現術式。どんなものなのか。きちんと行動対応されるであろうそれ。

「すみません、質問いいですか」

「はい、何ですか、ラリア君」

「この、霊力値ってなんですか」

「魔装に搭載される霊石の使用限度だね。これがゼロになると動かなくなるからその前に基地か陣営に帰還、交換をするように。所要時間はその時に用意された設備によりけり。仲間の数値も表示出来るように出来るからそれぞれの限度を見て交代するのも考えないと、駄目かも」

「えっと、出力制限とかは」

「どれだけの霊力で手足を動かしたり、結界を展開するか、攻撃をするか」

「それってスピードも変わるってことですか」

「そうだね。それぞれ自分にあったスピードは把握しておいた方がいいかも。どれくらいで、どれだけ霊力がくわれるかも」

「……数字に振り回されそうですけど」

「だね。まっ、そんなわけで習うより慣れろで、再現機械。これでならいくら失敗しても怪我もなければ死傷者も出ないし、機械も壊れないから。安心して失敗しようか」

シュミレーターというのだからと思いはするが。

「ルリチシャです。質問よろしいでしょうか」

「はい、どうぞ」

「これは、対魔装シュミレーターですか?」

「対術式武器など選択可能だけれど、実際には少ないだろうし、あったとしても自走機かな」

自走機、人の乗り込まない、プログラム式、もしくは信号を受ける無線式か。

「手動式との違いは、行動起動の反応速度などあるけど、高度な術式が組み込まれていると遅滞も限られるから、無線式は難敵かな。完全自走も思考容量はあげられているらしいから、相手の資金力で用意出来る霊石の濃度や質によっては難敵かな」

「……機構が手動式に重きを置く理由は何でしょうか」

「元の石式が使い捨てにしていい人員だったからかな。無線式もプログラム式も導入、開発重視されているし、君らは士官候補生だからこのシュミレーターでどうにもならなければ、札式魔装の人員に選ばれることもない、安心していいよ。といって君らは希望者で札式人員になりたいのかもしれないけど、あまり気負って貰っても困るかな」

「……はい」

「さて、他に質問はないかな」

「……」

「じゃあ、さくさくやっていくよ」

それから、敵勢力をある程度把握しているシュミレートとして、無線式魔装の配置を数を伴い教えられ、こちらでの五人での作戦時間のち、行動をするなど、幾度か。最初は魔装行動も、連携も取れないので負けても差し迫って気にするものでもなかったが、それなりに慣れてきたと思えたその日の最終シュミレーションにソラ講師の手動式一体に全滅させられたのは少しばかりどうかと思えた。無線式の団体行動を一人で操るのは難しいのは分かるが、一対五で負けるらしい。それは実力の雲泥の差を表していた。

「無線式の時は手を抜いてましたか?」

リア少年の質問であった。

「あぁ、ごめん。無線式の扱いは初めてで。手動式の再現率が高くて驚いたよ」

朗らかな声だった。

「じゃ、今日の授業はここまで、帰ってもらっていいよ」

「はい」

揃って返答をして箱を出る。ソラ講師は出てくる様子がないので気を使わせてしまっているのだろう。礼をとり息を吐きつつ部屋を出た。

「それではまた、次の授業でお会いしましょう」

マリティア少女がそう別れを告げるのに、廊下で別れ、部屋に戻る。そこで溜息。

「あー、なんだ。ルシャは大丈夫か?」

「……大丈夫です。ソラ講師には失礼な態度をとってしまって申し訳なく思います」

「うん、それはどう言えばいいのか分からんけども、ソラ先生は気にしてなかったみたいだし、いいんじゃないか?」

「良かったよ。君の無神経ぶりが発覚してないのに誤解されなくて」

「人体器官云々言うからだろ」

「うん。あの返答もどうなんだろ」

「好きなやついるのか?」

「さぁ、でもサンのジイさん供は平気なわけでしょ。ルシャは生で見なくてあれだし意外に繊細な神経してるよね」

「人の神経シナプスを想像するだに気持ち悪いです」

「うん。違う。いや、そうなんだろうけど違う」

「神経繊維が人を動かしていると思うと尚のこと」

「うん」

「死んだ時の臓物を見るにあれが動いて人かと思うと」

「待って、想像させないでっていうか、なに見たの」

「……調理場で魚を……、それ以来食べられなくなりました」

「存外繊細だね」

「肉解体とか見た事あるが、なんか、動いている事を想像する事もないというか」

「治癒術式に必要な」

「ないでしょ」

「ないだろ」

「造形の再生術式には機械の中身や動きを分かっている程度で完成度が高くなるので、静脈と動脈を間違えて繋げては大変でしょう?」

「……大変かもだけど」

「治癒って人体の再生力促すのじゃないのか?」

「その手法もありますが、それはそれでその」

「気持ち悪いと」

「……すみません。学術的にも必要な分野であり、人間が生きる上で尊い職であるとも思うのですけれど、解体業も人体学も苦手です」

「うん。そこ一括りなんだね」

「まぁ、血を見るの駄目って事だろ。肉料理全般元が想像できないのは、優しいだろ」

「命を頂いているって自覚する意味では、想像つく方が自覚もあるかもだけど」

「……」

「まぁ、……この話深入りすると、やばそうだな」

「万物に神宿るだっけ?神に生かされているって事じゃない?」

「神様信じてないんじゃなかったのか」

「宗教はね」

「神様って宗教じゃねぇのか」

「神は神で、人以外の全て。それでいて、神を敬う人の心に宿るのかもかも」

「意味が分からん」

「そうだねぇ」

訝るサン少年に、ロア少年は緩やかな笑みで返した。

「しかし強かったな」

リア少年が感慨深かげに言った。

「生身でしたら勝てそうなものでしょうに、魔装の扱いとはあぁも違うものでしょうか」

「怖い事言ったね」

「怖い事、ですか?」

「まっ実戦で実績積んだ人には早々敵わないよねぇ」

「無線式は初めてと言われて、あの強さではそこでしょうか」

「んーでもあの言いよう、死んで元々の現場かいくぐって生き残ったなら、熟練度というか、色々違いそうだけど」

「そういや、歳いくつだあの人、北の基地の摘発って二十年ぐらい前だろ。その時子供だったにしても、十代後半か二十代に見えるかも微妙だろ」

「赤ん坊相手では入れる霊石の限度もありましょうから、七、八は超えるか、それなりの大きさの子供であったてよいように思いますが、霊石の影響でしょうか」

「そんなもん?」

「心臓ですし、血の流れる代わりに高濃度霊石の霊力が流れているのでしょう」

「……そういや、そういう怖い話していたね。心臓、心臓って。心臓取り替えるの?どういう神経さそれ」

「……自分には分かりえません」

「聞く?聞かないよね。流石に無神経が過ぎるし」

「人体の術式には興味ないんだろ」

「そもそも知らないだろ、当人は」

実験はされた側でなく、した側が内容把握をしているだろう。そちらはもうこの世にいない筈。書類は、研究基地襲撃時に焼けた筈であるが。

「そういや、なんでルシャは希望出したの?」

「魔装は術式の構築構造解析が素早く積算する機能を搭載できます」

「相手の魔装の術式崩せるってことか?」

「そういう魔装を持てればそうなりましょうか」

「そういう魔装?」

「シュミレーターでは特筆性のない魔装ですが、魔装は人それぞれに合わせて、得意分野を出せるものと思われます」

「向こうのシュミレーションも通常?だったよな」

「そうですね」

「いつもみたいに術式弄れないの?」

「緻密な作りをしていますので、術式操作は難しいものかと思います」

「出来なくもないと」

「けれど、代えの効かないものですから、少し難しいかもしれません」

「失敗していいよぉ、じゃないんだね」

「……壊して許されるものでしょうか」

「ワザとじゃなきゃまだしも、一か八かは駄目だろ」

「その辺り、シュミレーターの機能で操作出来るか相談してみたら?」

「あぁ、確かに」

「出来るか出来ないか、分からないのか?」

「そこまで考察できる程、探索出来ませんでした」

「ややこしいんだ」

「色々重複しておりました」

「整理したい程?」

「出来ればいいのですが、なにが必要ないか分かりかね、削除しかねます」

「赤の人ならぱぱぁとやっちゃいそうな?」

「そうですね。カツラ九席でしたら綺麗に整理して下さるでしょう」

「紙折って飛ばしたら来てくれるかも」

「……」

「まっ暫く自分達で模索しないとなんだろうけど」

「失敗するものと捉えておいででしたし」

「負けと失敗は同じか?」

「や、違うだろ」

「まぁ、シュミレーターだし幾らでもは同じかなぁ」

そんなわけで勝つ算段もつかぬままに挑み続けて早ひと月ばかり、色々なやりようを試させては貰えるけれど、幾らも勝てる兆しが見えない。魔装の扱いにはなれ、自走のプログラミングも、無線式の操作も出来るのに、勝てない。



綺麗な窓から外を眺める。この辺り清掃が他より行き届いている気がする。別館であるからであろうか。人があまり使わないから。術式は変わらない。美しく整えられたそれ。そもそも永続停止の術式で形態保存をしていれば掃除の必要性も霞むものだけれど。

一人で移動教室に向かっていた足を止める。なぜソラ講師が窓を磨いているのか。少し瞬き眼を逸らす。

「あ、早っかたね。一人?というか、待って片付けてすぐに入るし」

「……すみません、大丈夫です」

声に顔を見る。顔だけ見ていれば大丈夫の筈。ソラ講師は笑っている。

「泣きそうな顔して、無理しなくていいよ」

「……いえ、どうにも駄目なところのようでして、私は……」

なにであるのか。ソラ講師の柔らかな笑み。

「血を見たら卒倒しちゃうようなソレでしょ。気にしなくていいと思うけど」

ソラ講師は窓を拭いていた布巾を腰に下げた道具入れのようなポシェットに引っ掛ける。そして乗っていた脚立を肩にかける。

「いえ。人体への無理解で。現実を恐れているだけです。治癒術式などの探求には必要な理解が」

「はは、無理解、そう」

面白げな声で笑い話す。

「会話してくれるだけで十分だよ」

「……?」

なにであるのか。扉を開いてパタンと閉じる。自分が拒絶している癖して、どうして物悲しく思うのか。

「それで、他の子達は?」

「……見かけなかったので、もうこちらに来ているものかと」

扉越しの言葉。

「あぁ、来てなくて残念だったね」

「掃除をいつもされておられるのですか」

「いつもかなぁ。今お世話になっている家の人に教えてもらっていて、まぁ、綺麗に見えても、毎日磨けばまた綺麗になるものだなぁって、不思議に思うよ」

「……はい、綺麗です」

「ははは、よかった」

扉越しの人を思う。

「ソラ講師のお持ちの術式も美しいのかもしれません」

「それはどうでもいいかなぁ。オレが作ったわけでも、好き好んで付けたわけでもないし」

「……すみません」

「んーお陰で生きているっちゃ生きているし微妙な所だよねぇ。死んでいった子がいるから、巡り合わせの問題だろうけど」

切なげで寂しげな声。

「ずっと路上生活を続けていたところで、どこぞで野垂れ死ぬか、ちょっとした悪の組織?に使い捨てにされていたかもだし」

面白げに笑いを含めた声。

「機構の施設は役に立ちませんか」

「どこにでもある事もないし。俺のいた所じゃ養育係?の人がよく殴るし。死んじゃった子がいても誰も気にかけないし。データが残るだけマシに思えていたのか。少しは見向きをされているような。死ぬような事をされているのに、向こうは実験成功させたいから、死なせたいわけじゃないのが、なんか分かるものだから、良い人なのかなぁって、不思議だった」

「……」

「衣食住、冷暖房完備。なかなかそこまでの設備ないんじゃない?お金になる見込みがあるか、使いものになる見込みか。欲得ずく以外で人に気にかける人なんていないでしょ。施設でいくら死んでも気にかけられないのに、研究所でそんな目にあってたってなったら、騒ぎになった。不思議なものだね、同情か脅威の創造に対する恐れか、命に見向きをされた。それなのに、また使い捨ての道具になった」

人権課とは。それ以前に、なにであろう。

「あ、箱入るし、入って来ていいよぉ」

「……」

「ルリチシャ君?」

「……はい」

考えが覚束ないまま、室内に入りいつもの箱に入る。

「気分悪いなら言ってね」

優しい朗らかな声。

「すみません」

「うん?」

石式の魔装の所持者は石付きと呼ばれて、環境課の実戦行動制限前からひと所にまとめているのが決まり。その決まりに反しているのに学校が正式にやっているのだから法規的処置が取られているのだろうと……。なにを考えているのだろうか。

「私には分かりません」

「ん?うん。いいことだよ。世界中の子供がそんなだったらドン引きだよね」

「……」

「人が優しくないのは当たり前だったから、そんなものかなぁとも思うけど、俺は弟が大事でさ。一緒にいられたら良かったよ」

「弟さんも、……」

「あぁそれが先生がね。俺が心臓の差し替え実験の被験者?になってくれるなら、死ぬような実験はしないって言ってくれて、……その時は良かったんだけどねぇ。無理し過ぎて霊石の霊力が減りすぎて、動けなくなって、ずっと寝ているよ」

「……」

声は柔らかく優しく、切なく響く。霊石に霊力を注げるとすれば霊獣だけではないだろうか。人とは隔絶した存在。自分はなにも。しようとも出来ようとも、失敗の許されるシュミレーターの話でも、おごりでどうにか出来るかもなど期待をさせていいものでもない。……ちゃんと見られるようになるだろうか、ソラ講師の事を。そもそも、違う。間違っている。



それから数ヶ月、シュミレーターの改良方法も、戦術的勝ち方も分からないままに通っていて。相変わらず綺麗な廊下と窓と、電灯も。

「ルシャって、下手したら不審者というか落ち着きないよね」

「すみません」

「見るにしても、もう少し遠慮ってないの?」

「壁に対してか?」

「サン、ルシャにまじまじ見られたら壁だって照れるよ」

「マジか?」

「ロア、サンが本気にするからやめたれ」

「うん」

「……そういえば、照れるってなんだ?」

「なんだと言われたら困るな」

「なんだろ、羞恥心からくる高揚?」

「壁が?」

「んー、設計とかなんかに対して何か言われそうなのに、実は自分を見ていなくて、施されている術式を見ているから?」

「ん?」

「あー、マリィ」

扉を開ける所だったマリティア少女にロア少年が声をかける。少しこちらに視線を向けつつ扉を開けていたマリティア少女は、目を瞠目出せる。悲鳴にならぬ声。駆け寄り中を見れば、頭から血を流すソラ講師を黒っぽい布袋に詰めようとする大柄の男。あぁ、あれは落ち葉を入れておく、みたいに思いながら体が動いていて、その腕を蹴り回しソラ講師を床におろしつつ、引いた相手の足を引っ掛けて倒す所で頭を床に叩きつける。あぁ、気持ち悪い。首の感触があった。その男の腹を蹴り飛ばし、呻くのに意識も飛んでいなかった、丈夫であろうかと、その顔面のこめかみを狙い足を振り落とす。あぁ、汚い、気持ち悪い。酷く気分が。

「ちょ、ルシャっ」

「待って、死んじゃう死んじゃう」

「落ち着けコラ」

三人に倒れた男から引き離される。あぁ、本当にどうして、どうしてこんな方法ばかり。

「どうして」

「いや、即断即決、制圧はいいんだぞ。だけどな」

「意味がない」

「あぁ?」

「事が起きてから何をしたって無意味」

無意味。無為無策。なんというのかどうしても、助けられなかった。どうして防げないのか。事が起こってからでは遅いのに。

「なにもかも手遅れ」

「人の事殺してない?」

マリティア少女に支えられながら上体を起こすソラ講師を見る。

「殴られて、攫われそうでした」

「うん、でも攫われてないよ」

頭を痛そうに抑えながら、なんでそう朗らかに笑うのか。落ち着いてきたとみられたのか、三人の抑える力が緩まる。それでも警戒しているのはリア少年で。その目と合う。なんとも気遣わしげで、力ないというのか。

「先生呼んでくるけど、サンは医務室の方に」

「分かった」

そんなわけでロア少年とサン少年の二人は出て行く。

「ルシャ?」

「機構の学校内部で、安全を保証できない。機構はどれほどの問題処理能力が貧困なのですか」

「あぁ、うん。そうくるのな」

「事が起こる前の解決。未然に防ぐ事が大事ではありませんか」

「うん。そうだな。そうだよ。そう思うよ」

リア少年は困った様子で頭を撫で、慰めるように頭を撫でてくる。あぁ、そうだ、リア少年が言われた事が頭に残っていただけ。誰も攫おうとしないような。誰も殴ろうとしないような。誰も撃とうとしないような。

「ん」

倒れていた男が起き上がるのに、顎から蹴って昏倒させる。歯と歯のぶつかる感触、首の伸びる感触。なにかにつけ、気持ち悪く。自分が汚れていくような。

「おぅ」

「俺じゃ止められないのは分かってけども」

「すみません、きちんと対応出来ていなかったみたいです」

気分の悪さをあまり押し付けるべきでもないだろう。息を吸って吐く。

「でも、なんだろ。石目的にしても、君達以外知らない筈だし、殺してからの方が楽だろうに」

「いや、目的多分ソラ先生自体ですよ」

ソラ講師が呑気な調子で言うのに、リア少年が返す。

「俺?」

「人が良いから。この人多分庭とかの作業員でしょうけど、普通に挨拶とかしてたんじゃないですか?」

「え?」

「ここの人間は作業員とかは居て居ないも同じなんです。それはマシな方で邪険にしたり。まぁ……ともかく、ソラ先生みたいに、ちゃんと仕立てた服着てオーダー靴履いた人が、情けをかけるでもなく、ただただフラットだと、勘違いさせたんでしょ。つまり、あー恋って言ったら綺麗すぎですけど」

「ハニバリズムでしょうか」

マリティア少女がざっくと言う。

「……あのさ」

「言い方違いましたか?えぇっと、恋をしたら食べたくなるアレです」

「いや待て待て、そこまで言ってない」

「あらでも、私感じてしまったんです。この人は探究心も睡眠欲も食欲も性欲も恋に食われてしまっているのだと。扉を開けてソラ先生を袋づめしようとしている目、何日も寝れずに、思考はただ自分の物にしたいという欲求に染まった。自分の物にすれば解決すると安直に考える思考の放棄。とても、とても、ソラ先生の御心が自分の物にならぬと知れば、自分の幻想の否定の否定の為に食べていたでしょう。恐ろしい話です」

「わぁ、聞きたくなかったなぁ」

ソラ講師の柔らかな声が呑気とも取れる調子で言う。

「殿方は少しばかり自分の欲望を蔑ろにし過ぎて、よくよく暴走させがちではありません?」

「……」

「欲望のままに、と言っているのではありません。普段からきちんと把握して、きちんとコントロールして下さいね、と、言いたいのです」

「俺はそうじゃないと思いたい所だけれど」

「ふふ、ソラ先生はそうかもしれません」

「俺もそうじゃないと思いたいけど、ルシャは探究心に行き過ぎだろって。なんでこっちに背を向けてんだ」

「術式が」

「あぁ。て、あんまり睨んでいると余計に気分悪いだろ」

「……はい」

倒れた人。

「リア様はだいぶとコントロールされておられます」

「え、あー。えっと、そういや、他の先生も知らないんですか」

「あぁ、うん、多分。わざわざ言わないし。でも石付きだって分かっていたら、もっと気味悪がられたり、憎まれていたりの方が多いいし。元の出自がアレだから、それでも蔑まれるし。それこそ君らの方がフラットだよ」

柔らかで朗らかな声。

「私は、そうでもないです」

「はは、術式に対する執着が凄いよね」

顔を見て話せもしないのに、柔らかな表情を想像してしまう。なんて勝手だろうか。リアの息を吐く音。なにかを諦め、人のための言葉を探す音。

「そもそも札付きに希望出してますし、俺はスラム出身ですし、ロアも施設を転々としていたそうですし、サンはサンであれなんで、……マリィぐらいではと」

「私も札式の、札付きと言います?」

「違うんですか?石式の魔装の乗り手は石付きなんですから」

「札付きの悪とか言いません?」

「言いますけど」

「私悪になりたいわけではありませんよ」

「だろうけど」

「なんかこの話面倒くさいね」

ソラ講師が軽やかに言った。リア少年が安心したように息を吐くのが分かる。上手い言葉が出ない事もあるのか。ここに行き着くのも……。考えすぎか。

「あー、起きて大丈夫です?」

ロア少年が入ってきつつ言った。教員と警備兵を連れて。サンも医務室の人を連れて来ている。

「あぁ、うん。大丈夫、ですよ」

立ち上がるらしい気配。

「そっち倒れ方変わってないか?」

「俺にルシャを止められるわけないだろ」

「あぁうん、起きたんだって。ルシャが一発で決めないのが珍しいっていうか、死んでなかったんだぁっていうか。とどめ刺しにいくの止めたけども」

「とどめ?」

「え?そこそうくるの?」

「君らな」

とどめ?自分は殺す気だった?ただ、動くままに動いて、確かに気分は悪かったけれど。殺す気だった?

「あー、自分大丈夫ですけど、帰ってもいいですか」

ソラ講師が気遣わしげに聞いた。

「え?あぁでも、一応見て貰ってから」

「あぁ、はい。ちょっと得意体質なんで、大丈夫です」

石付きは治癒術式も診療術の目も通用しない。術式に支障があれば術式を見る目で調整出来そうなものだけれど、そもそもの落ち着きどころというのか。

「それでは、じゃぁね。君達も気をつけて」

「あぁ、はい。お気をつけて」

ソラ講師は、なんともいえない感じで出て行かれた。

「では、君らも部屋に戻っていなさい。マリティア君も、戻るように」

「はい」

部屋に戻った。いつものように危なっかしいとか散々言われて、それだけだった。



「魔装シュミレーション授業の中止、ですか」

「中止、というか、満了で構わないと。耐性はあるようであるし、これ以上の指導の必要なしとのことだ。適性テストはまたあるが、ここを卒業後実地研修終了時の希望届で魔装配備希望を出せば通るだろう」

「……そうですか」

なにの言いようもないけれど。

「ソラ先生が直接断ってきたんですか」

「いいや。しかし、……我々の責任だ。君らはなにも」

「いえいえ、折角いい先生と思っていたのに、残念だなぁと。そういう話ですよ」

リア少年が聞いた教員の返答を止めるようにロア少年が笑顔でざっくりと言う。

「途中で投げ出すのかなぁって。でも最初からこれぐらいの終わり方想定されていたんでしたら別にいいんですけど」

「ロサケア候補生」

教員は奥歯で怒りを噛み潰したかのような表情でロア少年の名を呼ぶ。

「言った通りだ。もともとの予定も短期的なものを想定されていたようではあるが、簡単に連れ去られるような事があっては困ると、ソラ講師の後見人からあり、所定の要件は満たしていたため、授業は先日、ではなく、その前の授業で満了となった」

「わぁ、勝ち逃げされた」

「ロア」

「君らが勝てなかったのか?」

いじけるように不満を漏らしたロア少年をリア少年が嗜めるように呼んだが、教員は内容の方が気になったらしかった。

「一度も勝てませんでしたけど」

「……そうか。では、本当に」

なんとも微妙な表情。

「先生?」

「あぁ、もしかして石付きだったなんってって?出自で人を判断するなんて人に」

「そういう事じゃない、君らは世代でないから知らんだろうが、奴らが悪魔と呼ばれる所以は、その無慈悲までの戦闘格差にありながら、一切の慈悲なくそこを不毛の地と化す、その所業だ」

青ざめん勢いで言い立て、その目に滲むものまでありそうな。

「先生はお身内で」

「あんなもの、身内などと」

言って言葉を切り、息を落とす。

「……君らに言うことではないな。すまない」

それでは敵側からすればと、思うものでもないのかと。

「裏切りの疑惑もあった、それが実地生訓練との錯誤を生み悲劇に繋がり、実地演習は無くなってしまった。君らには半端な訓練しかしてやれずすまないが」

「別に実戦さながらっぽい、映像訓練がいいと言っているのじゃなくて、先生がって」

「ロア」

ロア少年が言い立てようとしたところで、リア少年が嗜めるように呼んで止める。教員は深く息を吐く。

「元々の出自でこれ幸いと、鉄砲玉扱いしたんじゃん。それで使い出が良かったら悪魔扱い?くそったれだね」

「ロア」

「君がそこまで自分の出自に卑屈だったとわ思わなかった」

リア少年の嗜めるのに、教員の方は喧嘩ごしに近くなったように思う。しかし意外である。

「鉄砲玉のような消耗品であれば確かに良かったのかもな。しかし強すぎたのだ、アレらは」

「いい先生と思われたかったのですか?」

遮るのは失礼と思いつつ口にしていた。

「教員は教えるべき事を教えられればいいはず。特にここは士官学校です。軍人として生きられるように教え込めればいい。慕われたいというのはエゴではありませんか」

「……」

「うん。ルシャやめたれ」

リア少年に嗜められる。

「あぁ、すみません。なにかまた」

「アレの中にあるのは特殊な石だそうだ。シュミレーターには影響が出ないように調整していたらしいが、学校の術式にも出る可能性があると心配もされていた」

「……美しいままです」

睨み付けるような目で、必要事項だろう事を確かめられた。

「ならいい。……、君らは優秀で、士官としても即時採用可能な能力だった。特に君は」

自分を見る教員の目。

「しかし人間形成に難がある。ラリア候補生ととロサケア候補生はそこも問題はない。教えられる事はなかった。そこが。それが、多分私を卑屈にさせたのだろう。君らにはすまない事をした。……、これを言ってから難だが、これからも励んでくれ。失礼する」

パタンと閉じられた扉。

「特殊な霊石」

「うん、ルシャ、そこか?」

「あぁ、いえ。霊力波には苦手意識があり、きちんと見れないものですから。どう特殊であったのかと思いまして……。その、術式に影響を与えるというのが、それでいくと自身の術式にもと思うのですが。そこまで不安定な状態にも見え……。あまり見てもいませんが。それを内包する術式であればいいとして、それがなにであるのか。多分ですが霊獣に近しい霊石。霊樹の実とも取れなくもありませんが、ソラ講師は霊石が狙われる事を一番に疑われた。霊樹の実は確かに希少ですが、士官学校に盗みに入るほどとも思えません。ならば霊獣の体の一部であった霊石と」

そこまで言って口もとを抑える。

「自分の言っている事で気分悪くするのやめようか」

「すみません、心臓の代わりになりうるといえば、心臓かと」

「霊獣の心臓って石なの?」

「えぇ、多分」

霊獣というのは不確定要素の多いものであるけれど、その身から離れた一部は石となるのは定説である。

「元の霊獣にもよりますが、霊力暴走を引き起こせば、大陸を半滅させられるでしょう」

「なに怖い話にしてんの」

「その怖い力を魔装を使えなくなった石付き一人に委ねて置いているという事は、それなりに、慎ましい組織なのでしょうか、機構というのは」

「……あぁ、うん」

「そうくるのな」

「仮定上の憶測でしかありませんけれど」

「それって、取り出せねぇだけじゃないのか」

「亡くなられた石付きの方からの取り出しは確認されています」

元は石の確保の為、その場で遺体から取り出していたそうだが、規則改定で火葬して取り出すようになった。

「それ、さくっと殺せば的に言ったね」

「消耗品であると言っておられましたし、以前ソラ講師も似たような事を言っておられたかと思います」

「あー、まぁ、そうか。喉から手が出るほど欲しい物を、人を一人殺さずに置いていると、それで慈悲深い組織だと言われてもな」

「あぁ、いえ。すみません。ただ、そうですね。環境課が石付き魔装の使用停止にしたのは、土地の霊力消費に対して疑問を呈したからです。けれど、ソラ講師の霊石が霊獣の心臓であるなら全員の霊力補給を賄えるはずであるのに、魔装使用停止を命じたというのが気になります」

「……」

「思い至ってないだけなんじゃね?」

サン少年の言葉はどうかと思う。考えようによっては恐ろしい。

「そのような考え足らずの組織かと思うと不安です」

「んなもんだろ。さっき言ってたじゃねぇか。お前の人となりはともかく、能力は十分だって」

「確かに……。そういえば、教員に対しても思いやりを持たねばならないのだなと、反省をしました」

「全然反省は感じられねぇけど」

「リアが、理解しえないものに対してより一層の慈しをと言っておられましたし」

「いや、それはもう忘れて」

「それに向うは教える立場なんだから。なんで僕らが情けをかけるの」

「わかりあえそうにないからでしょうか」

「……うん」

「まぁ、ルシャが反省しようが成長しそうにないところに反省したところで、諦めておくか」

「はい」

「いや、ルシャ、思いっきり見限られてるけど、なんでいい返事するの」

「見限られてはいないように思います」

「あー。うん、そう」

ロア少年は諦めたように嘆息を吐く。リア少年も似たようなものである。サン少年はサンも呆れている様子。それになぜか口元が緩んだ。

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