部屋にて
ほぼ会話文となり、誰が話しているのかわかりにくい部分があるかもしれず、申し訳ありません。
あと、主人公の名前を間違えていました。
ルチリシャではなく、ルリチシャでした。
ごめんなさい。
「そういや僕、幽体離脱が出来るんだよね」
部屋で四人、箱にしたダンボール箱を台に椅子を持ち寄り、トランプをしている時に不意にロサケア少年が言った。妙な霊力を持っている気もしていたけれど、その方面はさして見れない上に興味もないので忘れていた。そういえばリア少年の呪いについては何も見えない。術式だけでは役に立たないらしい。
「唐突だな」
「なんか皆んな自分の話割とするし、隠しておくほどの事でもない気が。と、言うよりなんだろう、あ、ジョーカー」
「それ言って良いのか。と言うより、もっと隠しておきたいこと誤魔化している様にしか聞こえねぇなぁ、と」
「リアのそういう目端効くとこ嫌い」
「やましい所があるからだろ」
「そこまでないし」
「さらっと言えるところがなぁ」
「そういや、良い人発言。別に下街の皆んなが皆んな、良い事する様になったわけじゃないでしょ」
「まぁ、家族持ちはマシになった所多かったみたいだけどな」
「リアって家族は?」
「いねぇけど」
「それで良い人発言うわぁ。元来なの?でも良い事するからって偉いの?」
「……偉い偉くない問題じゃねぇと思うが、……良い人がいてな、ただの憧れだろうな」
「下街に?」
「病院と喧嘩して医師免許剥奪されて、下街で闇医師やってる爺さんがいた」
「病院とかが気にくわない医者の免許取り消せるのもどうかと思うよねぇ」
「一応裁判所にかけられる筈ですが」
「判事が賄賂貰ってたら意味ないじゃん」
「貰っている前提ですか」
「そうだねぇ」
「まぁ、あと、あの騒ぎの後巡回の人が代わってその人は良い人だったんだよなぁ」
「へぇ。珍しい」
「士官学校行くのに色々手を焼いてくれて」
「手を焼くのか」
「サンそのボケ分かりにくい」
「で、偉くならないと何も出来ないからって言ったら」
「こないだの人宜しく赤服の席官は常軌を逸しているからなんでも出来るんであって、偉いからとか関係ないんじゃない?」
「なにか無いように頼むなって言われた」
「……恐ろしい事任されたね、あがりっと」
「規則とか規定値?守ってたらうちの所はそこまで問題にならなかったとは思うんだが、あがりだわ。だからルシャの言うのは分からんでもないんだけど」
「そうですか。確かに士官兵は守らせる側でしょうが、法律自体に足りぬ所などある場合は、立法側も選択の余地はあるかと思います。あがりです」
「サン弱すぎっ。ありえない」
「……」
「顔に出るからなぁ、サンは」
「あぁ?」
「僕がジョーカー持っているって言った所で覆らない弱さ」
「ルシャって能面みたいだしな」
「リアって目端が効くしねぇ」
「ロアに言われたくねぇな」
「お前らな」
「ババ抜きより七並べとかにする?」
「ポーカーとか」
「カケするの?」
「しねぇよ」
「ヤクとかよくわかんないし、他で」
「麻雀?」
「うん、ヤクわかんないし、その上なんだっけ、牌ないよ」
「駒遊びは?」
「双六?」
「複数を移動するやつ」
「ルールわかってない上に道具ないじゃん」
「戦略などを考えるなら、チェスや、将棋でしょうか」
「二人遊びだよね、あとルール知らないし、あれって実戦で使えるの?」
「使えるかどうかは難しい所と思いますが、多角的に先を見る考えは養われるかと思われます」
「うん、チェス的にだったり将棋的にだったりは多角的とは言えないんじゃない?」
「……成る程。駒や盤は作れると思ったのですが、役に立たぬなら覚えても仕方ありませんね」
「や、損得勘定で遊び選ぶのはやめよう?」
「すみません」
「んじゃ、七並べっと」
リア少年が集めたカードから七を抜き出し縦に並べる。
「ちゃんと混ぜてよ。偏って置いてんだから」
「はいはい」
リア少年はふた束に分けて、ばららららぁと交差させていく。
「手慣れてるねぇ、詐欺でもしてたの」
「お前な。手を見りゃ分かるだろ」
リア少年が普段している支給の手袋をしていない両手を広げて見せる。長い指にしっかりとした爪、その爪の指の間とか、黒く汚れている。
「靴墨?靴磨きって事?盗みはしてないんだ。面白味のない」
「お前な」
「盗みは犯罪ですよ」
「ねぇ。でもそうしないと生きていけないのなんて幾らでもいるんだよ。楽に生きる為の言い訳ぽいけど、結構技術いるんだよねぇ」
「努力の方向間違ってねぇのか」
「ねぇ、時間のかかる貧しい生き方ならなくもないかもだけど」
「楽しようとしているじゃねぇか」
「どうだろ、そもそも機構への上納金はとっていいのに、盗みは駄目とか」
リア少年は数度合わせていくのを繰り返す。
「上納金は儲けの出にくいけれど人の生活に必要な事を安定させる為のものかと思います」
一応搾取された側に還元されている筈であるのだけれど。
「汽車って、切符代とるのに機構のだよね」
「中身のサービス業は一般企業の筈です、護衛と線路補填、駆動部分の整備が機構の仕事で多くを内部企業からの納金で賄われている筈です」
「まぁいいや。そろそろ混ぜた?」
「時間潰しの話題にしてはシビアだな」
リア少年がそれぞれにカードを配っていく。
「料理人も手の爪が黒くなりがちと言います」
「うん。手で仕事を見分けようって話でもなかったかな」
「料理している奴の手が汚れてんのか」
「食材の扱う具合や、包丁の手入れなどで、でしょうか。少なくもない事かと思います」
「手で見分けるのは難しそうだねぇ」
「んー、だったらタコとか、足運び、靴底の減り方、傷跡、癖か」
「リアせせこましいよ」
「言い方あるだろ」
「ところで七並べとはどの様にする遊びですか」
「……」
「七を並べたろ。マーク同じ奴それの次の数字を並べて行くんだ。それで次次と並べていく」
「それ、面白いのか」
「んー、何度かやって慣れればとも思うけれど、次に置けないとパスしないといけなくてな、どれをどの順で出すかとか、その駆け引きをしないとな。そのうち分かると思うから、何度かやって慣れようか」
「ネタバレすると面白くないしねぇ」
「ネタバレって」
「まぁ、コツが」
「習うより慣れろだよ」
「チッ」
勝ってばかりで面白くないと言いながら、ロサケア少年はコツを教えない。それで始まった七並べ、自分の手札をざっと見て最後に残ってはいけないのだとすれば、自分が一や十三を持っているものを先に並べた方が良い。それのないのを後にと思いつつ、一枚目は端のない方向で、端に近い数字があるものを出しておく。
「そういえば、あれなんだったの?」
「あれ、とは?」
ロサケア少年の自分に聞く様子に首を傾げる。
「あれ、シガー、じゃないケース」
「あぁ、はい。分かりません」
自分の内胸ポケットに収めたそれを服の上から見るが、術式が透けて見えたりはしない。七並べは進んでいく。とりあえず満遍なく置いていく。
「線香は使えそうか?」
使え……。
「誤魔化すのに使うには手間取りそうです」
「まぁ、そうか知らんけど」
満遍なく進んでいる様で偏りが生まれている。一番七に近くて、端に遠いカードは残しているが、今の所パスは必要そうにない。
「紙は?」
「一定に折れば、術式が発現するようです」
「んーでも紙飛行機って色々な形ない?パス」
「そうなのですか?」
「パス」
「ルシャ何派?」
「何かは知りませんけれど、半分に折り、開き真ん中の線に合わせて一方の両側を折り込み、角のなくなったそこをまた真ん中の線に向かって両側を折り、真ん中を折り、外側に向かい折れた端に向かって折りを両側、でしょうか」
「まぁ、なんとなく分かる。パス」
「サンは?」
「知るか、パス」
「リアは?」
「紙って贅沢品じゃないか」
「おもちゃとしては、そこまででもないと思うんだけど」
「でも、使い回しあんまり効かないだろ」
「まーそうかな。でも説明するの面倒がってない?パス」
「んーそうかもな」
「……なんだろ」
「パス」
「って、ルシャとリア結託してない?」
「おー、相性がいい組み合わせみたいだな」
「その様です」
「なら僕はサンと良いはずなの?」
「んなのあるのか?」
「ちょっとは?だって四人だし。そうならない?」
「よく分からん」
「あーやっと出た」
「なぁ」
「おー」
「しかし術式付けてない物ルシャに渡すか」
「高級品ぽかったよねぇ。あんなのぽいって。上納金の使い道って」
「まぁしかし工芸品だろ、手仕事は手仕事で必要とされた方がいいだろ」
「綺麗ですが古いものかもしれません、代々伝わる様な」
「赤の席官って名家ではなくて実力だけでのし上がったから余計にやっかまれていた筈」
「その辺りは知りませんので、なんとも言えません」
13に向かうスペードの10を置く。そこに11、12と置かれるので、13を置いて、次の番にハートの5を置いて手持ちの札はなくなった。
「あがりです」
「いい性格してるよなぁ」
リア少年がそこに4を置きつつ言う。
「自分の置きたい所に先をこされる事がないと言うのは一種の安心感を得られます」
「んじゃ、次はジョーカー入れて、代用効くようにするか」
「それ、ジョーカー代用されたら負け決定じゃん。やだよ」
「んじゃ、13と1にしか代用効かなくて、ジョーカーで取られた奴は他のマークに侵略可能、とか」
「それって意味ある?途中で止められるの嫌で、自分の続く道開拓したいわけじゃん」
「んじゃ、あがり」
「……」
リア少年は先にあがり考える様子。
「ですが、粗雑に扱ってはいけないという理由は分かった気もします」
「うんうん」
「返しの術がかけられているのかもしれないと」
「なにそれ」
「あがりだ」
「ぎゃん」
「お前なんで、コツがあるとか言いながら、端残ししてんだよ」
「君らが止めるからでしょ」
「サンもそのあと止めたか」
「あぁ一応」
「これってパス制限ないと、粘り勝ちとかない?」
「いや、んー、んじゃ、パス3回以上させたら、そこに違うマーク割り込みokにするか?」
「それ、面白いの?」
「いや、お前が不満気だからな」
「いちいちそれでルール変えてたら、混乱するでしょ。ねぇルシャ」
「そうですね。明確な決まりがあり、それに従う。従いようは人それぞれ。それが人の特出性とも言えるかもしれません。あまりにも目に余るルール改正は必要と思いますが、それは一人の意見でも総合的に判断しなければならないと思います」
「よく分からないけど、そう言うことだから。あんまり明確化されてもつまらないし、誰かの為に規定されてもムカつくしね」
「んー、まぁ、いいけど」
リア少年は7以外のカードを回収してまたばらばらと混ぜ合わせていく。
「器用だよねぇ」
「練習すれば出来るだろ」
「んー、そういえば、環境課が赤い制服って返り血が目立たないってホントなのかな」
「どこからその話に飛んだ」
「いやぁ、ルシャに渡していった人がなぁって」
「俺の事はホントにどうでもよかったんだな」
「えぇーやだぁ、妬いてるのぉ?」
「キメェ」
茶化すロサケア少年に言ったのはサンザシ少年で、サンザシ少年のそれにリア少年は笑った。
「黒の方が返り血は目立たないと思います」
「だよねぇ」
「法務課の色だろ」
「まんまだけど、法務課って今三人しかいないとか、しかも大将は地獄の門番だから、実質二人。左官と右官、増やす気ないよね」
「実質一般職員が取り締まりはしているな。巡回や立番も一般、灰色だしな」
「他も色あんのか」
「人権課が青服、土木課が緑服」
「緑ってダサくね?」
「んー、区じゃ殆ど見かけねぇが、渋めだと思うけどな」
「スプルースグリーンぐらいでしょうか」
「分かんねぇよ」
「青は?」
「ミッドナイトブルーでしょうか」
「夜色?」
「真夜中です」
「ほぼ黒じゃん、赤は?」
「クリムソンあたりでしょうか」
「分かんない。黒は?」
「アイボリーブラック、漆黒か純黒と言った方が分かりやすいでしょうか」
「おぉ」
「灰色は?」
「灰色は灰色ではありませんか?」
「うん。ダサい」
「シメントの方が近いでしょうか」
「うん、分かんない。ルシャは赤の科学室に希望出すの?」
「……分かりません」
「分かんないんだ。意外。誘われて直ぐに行きたそうだったのに」
「……自分があれ程のものを作れる人に役立てるかどうか疑問です」
シガーケースを服の上から、抑える様に手を置く。
「連絡を取る権利もありません」
「うん、なんか、なにだけど。分かるといいね、それの謎」
「ありがとうございます。……ロサケア殿は」
「待って、なぜその調子のままなの?リアがリアで良いって言ったよね?」
「はい」
「うん、僕はロアで宜しく」
「はい」
「サンはサンで宜しく、」
「サンザシ殿は嫌がられて」
「いいよね、サン」
「え、あぁ。……今更、だしな」
今更とは。
「私は分けて呼ぶ事に不便はありませんので、サンザシ殿の」
「マジで、サンでいい」
「……」
顔を赤くして何を言うのだろうか。
「うん、ルシャには伝わってないね、今更自分だけ呼び方違えられたら除け者感」
「ちげぇっ、んなじゃ」
「えー、ともかくルシャは、が、良いって言わないと通用しないよ」
「……がいい」
「そうですか」
なぜ、その羞恥にまみれた表情でそう言うのだろうか。よくわからないままに頷いておく。
「そういや、図書館って、グレイだよね一般軍人管轄?」
「管轄は機構の文化局です」
「軍って軍事局?ってことは根本が違う」
「えぇ」
「軍の財政って機構が持っているの?」
「大まかには、機構の基本財政から、軍事局へ、そして軍事局の財政部がこれまでとこれからをかんばみどこに必要か検討して決めていくはずです」
「赤って寄付金多いんだっけ?」
「そう聞きます」
寄付金という形で望む所に寄付すれば、機構への納付金がその分に見合って免除されるが。
「その寄付で、……。目溢しなど起こることもあるようです」
「それの処断が、がっつりぶっ殺されるとか笑えないけど」
「んだ、それ」
「言ったでしょ、部下の失態は上が処罰していいの。赤でそういう事すると、死ぬ覚悟じゃないと駄目っていうね」
「それでもやるのか」
「なんだろねぇ、短い人生と諦めの勢いか、あっとは対岸の火事的に自分は見つからないって思っちゃうとか?」
「他にも処罰される理由はあるみたいだけどな」
「赤は断トツで多い筈。返り血も身内の色ってね」
「んなヤベェ奴に見えなかったけどな」
「野生種に家畜を襲われるから毒盛ったら、そこを処分して。野生種の狩を取り締まって。野生種の狩を断罪したら、その身内を処分して。狩の摘発を逃れるために野生種殺したら処分して、忙しいよね。あの人は現場じゃなくて科学職員だからマシに見えるんじゃない?」
「じじい共は、……まとも、なのか?」
「サンの感じ方で良いと思うけど、どこの科学者?」
「知らねぇけど、軍人なのか?」
「軍事局にも科学室あるんでしょ?」
「えぇ、科学部管轄でそれぞれの所轄に少なくとも解剖室は置いているはずです」
分析室は小さいところにはないらしが。
「また、なんかアレな。こう身も毛もよだつ実験が、的な」
「私も好きな分野ではありませんが、死因究明が大事と考えるのは、環境課、人権課、土木課にも関わる事ですので重要視されているかと思われます」
「土木課も?」
「事故があった場合、事故原因などの究明に必要かと思われます」
「それは冷凍庫で凍死が先か窒息が先かみたいなこと?」
「具体例を言える程詳しくありませんので、申し訳ありません」
「そういや、死体よく弄り回してたような」
「それはどうかと思う」
「何故上手くいかなかったのか知りたいのでしょうが、人体実験は人権課案件か、一般警務部の担当ですし、訴えは一般市民もするものです」
「俺市民権あるのか?」
「……」
「入学された時点でなにがしかの証明書類はあるはずです」
「あぁ、俺も作ったな」
リア少年から配り終えられたカード、それを手に取る。
「そういや、ロアはその調子でよく合格出来たな」
「それはサンに言ってよ」
「んだと」
「幽体離脱と言われておられましたか」
「うん、ちゃんと聞いてたんだね」
「私の受けた会場では確実に出来なかったと思います」
「うん、別に課とか色とか分かってなくても合格出来るテストだったでしょ」
皆でカードを置き始めている。
「そうだったか?」
「え?待って内容同じでしょ?」
「同じ筈ですし、テストのどこに強いかで、学校振り分けも決まる筈です」
「いやいや全然違うだろ」
「そうですね」
「ルシャ適当言ったの?」
「そう聞いていただけですが、あまり似たり寄ったりの人間を集めるのも問題でしょうかと」
「……かもだけど、まぁいいけど」
「この部屋も似たり寄ったりだろ」
「え?ちょっと同じにしないでよ」
「謹慎食らって、反省文書き終わったからって、カード遊びに興じている時点で、どうなんだ」
「規則には」
「だろうな」
「ねぇ」
「無くて良かったわ、マジで」
「暇する所だったよ」
「やっぱ、どうかと思うぞ」
「いやいや」
「うんうん」
「つか6止めんなよ」
「それはちょっとした嫌がらせじゃない?というかもうないの?」
「いや……いけるが」
「端よりですか?」
「混ぜ下手?」
「人一人に任せておいて言うなよ」
「んー」
「おー」
「なぁー」
何であろうか。
「小さなミスが起こった時改善案を出しておくと、大きな事故は起きないそうです」
「んー無理に話題提供しなくても」
「軽微な犯罪を取り締まり解決する所から、大きな犯罪は防がれるという説があるそうです」
「反省文の内容?」
「謹慎を貰わない事を心がけなければ、いつか退学処分になるものかと思います」
「……わぁ、切実」
「……」
「何が謹慎処分相当のものか謎なのですが、明確化していただけないものでしょうか」
「それ聞くなよ」
「……」
「困ったものだねぇ」
「なぁ」
「おぉ」
次に出す札を悩んでいるのか、謹慎処分相当の聞き方であるか。どうしたら防げるか、か。判断の付かないものであった。