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黒きモノ

「本当にこの道で合ってるんでしょうか?」

奥まった場所へ案内される二人、その薄気味の悪さにロムが呟く。

「今は、信じるしかないでしょ。」

「そうですね・・・。」

「まぁ、何かあったら判ってると思うし。」

ゴルガに聞こえるようにレイナは言葉放つ。その言葉にゴルガはビクッと肩を震わせる。

「さて、さっき聞きそびれたから歩きながらでも教えてもらえる?」

「は、はい。」

「制御できなかった模倣体は、人型だけ?」

「いえ、全部です。」

ゴルガの意外な答えに、レイナは首をかしげる。

「じゃあ、なんであなた達は襲われないの?」

「襲われないように、識別用のペンダントをしています。」

レイナはゴルガの胸にあるペンダントを見る。何の変哲もないペンダントだが、レイナはあることに気付く。

「それって、あなた達では制御できないけど、本国は制御できるって事じゃない!」

「それと同時に、あなた達は捨て駒という事ですね。」

「え?あ・・・。」

自分の立場をようやく理解したのか、ゴルガは一瞬立ち止まる。

「そ・・・それじゃあ。」

「遅かれ早かれ、処理されたのかもね。私たちが来たのは、幸運だったかもしれないわよ。」

ここに人が少ない理由がおぼろげながら判ってきた。他の連中は別のアジトに集まっているのだろう。

生贄は一人で十分というわけだ。

「あなた、人望ないのね。」

「ぐ・・・。」

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるゴルガ。

「まぁ、とりあえず今は死なないから。安心していいわ。」

「とりあえず?」

レイナの言葉に引っかかりを覚えたゴルガは、思わず聞き返す。

「案内してもらって、模倣体を全部片づけるまでの安全は保証するわ。」

「その後は・・・?」

「国に帰る事ね。まぁ、帰ったら処分されちゃうだろうけど。」

「そんな・・・。」

「なら、素直に国に戻らずにどこかに隠れ住むことね。後はあなたの自由よ。」

ゴルガはそれっきり黙ってしまった。

それから数分後、赤い×印のマークが貼ってある物々しい扉が三人の目の前に現れる。

「この奥なの?」

ゴルガは無言で頷く。

「開けて欲しいけど、死なないって言った手前、私が開けなきゃダメね。」

「レイナ、判ってると思いますが、中に居ますね。」

ロムの言葉にゆっくりと頷くレイナ。そして、扉に手をかける。その手からも嫌な気配が伝わってくる。

「行くわよ・・・。」

レイナがゆっくりと扉を開け、中を覗き込んだ。


部屋の中は何かを発酵させたようなツンと来る匂いが充満している。

「あの水槽は・・・。」

ロムが部屋の隅に置いてある水槽を指さす。その水槽は濁った緑色の液体で満たされており、中は見えない。

レイナは注意深く周囲を観察する。水槽は全部で三つあり、その内の一つの水面が波打っていた。

水面が波打っている水槽の周りには、液体が飛び散っている。

「これは一体・・・。」

レイナが水槽を見つめていると、水槽から黒い物体が頭を覗かせた。

「あれね!」

指輪を剣に変え、レイナが物体に切り掛かる。しかし、その手は物体に届く前に止まる。

「レイナ、どうしました?」

剣を向けたままゆっくりと後ろに下がるレイナに、ロムはさっきの行動について問い掛ける。

「不定形且つ、実体を認識できない存在。そして剥き出しの敵意。」

「それって・・・。」

「これは、本物みたい。」

ロムはその言葉に驚いたが、さらに輪をかけてゴルガが驚いていた。

「ま、待ってくれ。これが黒きモノなのか?!」

「そうよ。正真正銘の本物。まだ幼体みたいだけど。」

「黒きモノっつったら、こう人ぐらいの大きさで、何だか解らないが周囲の全てを破壊するんだろ、こいつなのか?!」

ゴルガが興奮気味にまくしたてる。過去に黒きモノを見たことがあるようだが、似ても似つかないようだ。

「何だか解らない。確かにそうね。こいつは、自身を理解されるのを拒絶する事が出来る存在なのよ。」

レイナが剣を地面に突き立て、魔法を唱える。剣を中心に部屋全体が明るく照らし出される。

「こんなもの、制御できなくて当然だわ。」

当たって欲しくなかった、本物という存在に、大きなため息を漏らすレイナ。

「どうするんですか?」

「今のうちに対処しましょう。後は・・・。」

レイナはギルドの指輪に手をかざす。

「状況は判った?」

『はい、ばっちり把握しました。』

指輪からはギルドの特殊依頼サポートのアンナの声が聞こえた。

『ロブフォン国の危険度を上げて、注意情報を出しておきますね。』

「よろしく。こっちはこれを対処するわ。後の回収は任せたわよ。」

『了解しました。回収部隊を向かわせます。』

そう言って、ギルドからの通信は切れた。

「さてと、ロム。その人をお願いね。」

「判りました。」

ロムはそう言って、ゴルガをかばうように立った。それを見て、レイナは黒きモノに向き直った。黒きモノはすでに水槽を出て地面に立っていた。

「あの女で、倒せるのか?」

「レイナは私より強いわ。大丈夫よ。」

ロムがゴルガの質問に答える。

「あの程度の黒きモノなら、私でも倒せますし。」

ゴルガはその言葉を聞いて呆然とする。もうすでに強さの基準が判らなくなっていた。

「それに、今の黒きモノは腕の立つ冒険者ならカモよ。」

「5年前の大量発生の時に、倒し方は確立されましたからね。」

「そういう事。だから、模倣体なんて言うなおさらわけの判らないものの方が危ないのよ。」

そう言いながら、レイナは道具袋を漁る。そして、ペイントボールを取り出し、黒きモノに向かって投げつけた。

「理解されるのを拒絶するなら、初めから理解しなきゃいいのよ。」

ペイントボールが当たった黒きモノの体にはっきりと色がついていた。

「目の前の変なモノを動かなくなるまで攻撃する。それが倒し方。」

ゴルガはその説明を聞いて思った。そんな無茶なと。

「まあ、そうは言っても、相手を見ただけで脳は勝手に認識して理解しちゃうからね。」

レイナは右手を握りしめて拳を作る。その拳に左手で魔法をかける。

「理解を拒絶、すなわち黒きモノが姿を消す前に別の方法で認識できる様にしてやれば後は簡単よ。」

素早く黒きモノに近寄り、握りしめた拳で殴り飛ばし、壁に叩きつける。

「素手での戦いは久しぶりだけど、まぁ何とかなるでしょ。」

右手をプラプラとさせながら叩きつけられた黒きモノに近づくレイナ。

「あの、どうしてあの女は武器を使わないんです?」

それを見て、少し冷静になったゴルガはロムに尋ねる。

「あの剣で、この部屋全体を明るくしてるからです。黒きモノを倒すのに必要ですから。」

「え?」

ゴルガは光を発する剣を見る。そして、その光がこの部屋全体を漏れなく照らしていることに気付いた。

「黒きモノの姿を把握するため、部屋を明るくして黒きモノの隠れる場所を無くしたのです。」

「最初から倒すために動いていたのか。」

本物と見抜いた時から、レイナの行動は一貫して敵を倒す事を優先としていたようだ。

その後もレイナは黒きモノを殴り続ける。その度に壁に貼り付けにされる黒きモノは徐々に動きが鈍くなっていく。

「そろそろいいわね。」

すっかり小さい固まりになっている黒きモノを掴み上げるレイナ。

「最後は回収班の為に厳重に封印っと。」

両手に黒きモノを挟み込む。黒きモノはどんどん小さくなり、最後には一つの大きいコイン状の物体となった。

「これで良しと。ロム、何か入れ物ある?」

「これでいいですか?」

ロムはローブから麻袋を取り出し、レイナに手渡す。

「ええ。ありがとう。」

レイナはその麻袋に黒きモノを入れ、しっかりと口を結んだ。

「ここでの仕事は終わりね。さて、森の各アジトに案内してもらおうかしら。」

ゴルガに向き直って話しかけるレイナ。そこにロムが口をはさむ。

「その前に、さっき封印した模倣体の方も何とかしておいた方が良くないですか?」

「それもそうね・・・。」

レイナはロムの提案に頷き、最初に封印した人影の所へと向かう事にした。

「あなた方が制御できなかったのは、これでしょ?」

赤い石になっている人影とその傍らにいる物体をゴルガに見せる。

「はい。この一体も制御できませんでした。」

「こんなの制御できるなんて・・・って、一体?」

ゴルガの不意の言葉に驚くロムとレイナ。

「ええ、これは人型と攻撃型のセットで一つの模倣体です。ブリーダーと番犬と呼んでましたが。」

「それじゃあ、まだあと一匹いるって事?」

レイナの問いに黙って頷くゴルガ。

「今だと、餌を取りに行っているのかもしれません。」

「餌?」

嫌な予感がするレイナは、ゴルガに聞き返す。

「この周囲に住む動物ですね。たまに大きいのも襲いますが。」

「・・・食べるの?」

「ええ、一飲みに。」

「大きいって、どのくらいまでのを襲うの?」

「飼っていた馬を食べられました。」

その答えを聞いて、レイナは急いでギルドの指輪に手をかざす。

「・・・ギルド、ギルド、聞こえる?緊急事態よ!」

『はい。どうされました?』

レイナの呼びかけに応答するアンナ。その声の様子から、緊急事態という事を把握する。

「黒きモノの模倣体が逃げたわ。今私がいる森周辺に住む人達に警戒を呼び掛けて。後、回収班は装備をしっかりとしたものに。」

『わ、判りました。レイナさんは?』

「私は、このまま模倣体を追うわ。強力な魔法も使うから、戦闘区域には立ち入らないようにお願い。」

『伝令しておきます。ご無事で。』

「任せといて。」

そう言って、レイナはギルドとの通信を切る。

「レイナ。ここの模倣体は、どうしますか?」

「回収班に任せましょう。ロム、伝えといてもらえる?」

「判りました。」

ロムも同じように指輪を操作し、ギルドと話を始めた。

「さて、ゴルガ。あなたの身の安全は保障するって言ったけど。ちょっと怪しくなってきたわ。」

「そ、そんな。」

レイナの言葉に、ゴルガは悲壮な声を上げた。

「とりあえず、あの模倣体がいると思われる場所をこの地図に書いて。後は、しばらく悪さが出来ないようにあなたにマーカーをつけるわ。」

「え?」

続くレイナの言葉に状況が飲み込めないゴルガ。

「地図を書き終えたら、出来るだけ遠くに逃げなさい。仲間も全員引き連れてね。」

「は、はい!」

ようやく状況を把握できたゴルガは、レイナに渡された地図に印をつけ始める。

「ロムも・・・って、あなたは大丈夫だったわね。」

レイナはロムの顔を見て微笑む。

「レイナとはそこそこ長い付き合いですからね。判ってますよ。最後までお手伝いします。」

ロムが木の棒を握りしめてレイナに微笑む。

「本当に、ロムは敵には回したくないわね。」

「お互い様ですよ、レイナ。」

二人は向かい合って微笑む。そんな会話をしている所に、ゴルガが地図を持ってきた。

「この周辺が、鰐蛇・・・あ、模倣体の事です。その餌場になります。」

レイナに地図を返し、説明をするゴルガ。今いる場所から森のほぼ半分に円が描かれている。

「意外と広いのね。」

「あと、他のマークはここ以外のアジトになります。」

いくつか増えていたマークの説明をするゴルガ。

「気が利くわね。」

「では、お気を付けて。」

「もう罠は解除してるから、裏口から逃げれるわ。そっちも気を付けるのよ。」

深々と礼をしてゴルガは洞窟の奥に消えていった。

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