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親分

しばらく洞窟内を歩き、一回り大きな木の扉の前で二人は足を止める。

「さてと・・・ここが罠を仕掛けた場所だけど・・・。」

そこには今までなかった木で扉を固定する錠の様な仕掛けがある。

「戸締り、重要ですね。」

「表からは開かないって事は、この奥は外か、何かを閉じ込めてるかのどちらかね。」

ロムの手にしている地図を覗き込むレイナ。この扉の奥は外に繋がっているようだ。

「とりあえず、開けて様子を見てみましょうか。」

「罠が発動しませんか?」

「大丈夫よ、扉に罠は仕掛けてないわ。そもそも、扉がある事は地図ではわからないしね。」

レイナがそう言って右手を前に突き出す。少し呪文を唱えると、扉が後ろに傾き倒れた。

「それでも、扉は開けたくないわよね。」

その光景を見て、ロムは冷静にレイナに尋ねる。

「今度は何を?」

「扉の周りの岩を削って、扉を押したのよ。いくら扉が強固でも、周りはそうとは限らないからね。」

倒れた扉の奥に、何かの影が見える。

「捕まってたみたいね。」

「レイナ!」

ロムが突如レイナの前に出て木の棒を振り下ろす。棒に何かが当たる音と、その直後に響く金属音が何が起こったのかを物語る。

「投げナイフ・・・ロム、ありがとう。」

「気を付けましょう、あの距離からこの精度、かなりの手練れです。」

「そうね。」

レイナは再び指輪を取り出し、剣へと変えた。

「でも、相手は動けないのではなかったんですか?」

「その場から動けなくなるだけだから、反撃は出来るわね。」

そう話している間に、再びナイフが飛んでくる。しかし、構えを取っている二人には当たらない。

一連の攻撃が途絶えた所で、レイナは人影に向かって剣を向ける。

「抵抗はやめなさい。次投げてきたら、命は無いわよ。」

レイナの言葉に動揺を見せる影。ロムは近くの松明に火を付け、影の足元に投げる。

がっしりとした体格の男がこちらを向いている。手にはナイフを打ち出すボウガンの様な道具を持っていた。

しかし、足は地中から不自然に盛り上がった土に絡めとられている。これでは動けないだろう。

「あなたが、お頭?」

「お前たちこそ、何者だ?」

レイナの質問に、質問で返す男。レイナは小さくため息をついて話を続ける。

「先に、こちらの質問に答えて欲しかったんだけど、まあいいわ。私はレイナ、あなた達を退治に来たわ。」

「どういうことだ?」

「私の質問にも答えてくれるかしら?こちらは先に答えたわよ。」

続けて問いかけてくる男の態度に、レイナは少し語尾を荒げて答える。

「敵にそうあれこれしゃべるバカがいるか。」

「そう来ると思ったわ。ロム、お願い。」

「判りました。」

ロムは男の目を見つめ、チャームをかける。

チャームがかかり目がうつろになった事を確認して、レイナは質問を投げかける。

「さて、あなたは・・・。」

「レイナ!ダメ!!」

「え?」

質問の途中で、ロムが突然レイナを制止する。次の瞬間、ロムは両膝から崩れ落ちる。

「ロム!」

男を見据えたまま、レイナはロムに近寄る。男にチャームがかかっている様子はなかった。

レイナはロムの首筋を触り、脈があることを確認する。

「グランドライト」

レイナはロムに左手をかざし回復魔法を唱える。

「チャームを返したのね。」

フィードバックのあるチャームは、精神力の強い相手であれば打ち破る事が出来る。その時には、術者の精神に多大なダメージを与える。

「どうやら、あなたを倒さないとダメみたいね。」

ロムが意識を取り戻し始めているのを確認して、レイナは魔法をかけた手を戻す。そして男に再び剣を向ける。

「色々聞きたいことがあったんだけど、そうも言ってられないわね。覚悟しなさい。」

「ふん、化物女よりは好みだな。」

「そう、ロムはあなたの好みじゃなかったのね。やっぱり、そっちの趣味なのかしら?」

「俺は純粋に人間の女が好きなだけだ。化物女に興味はねぇ!」

ナイフを打ち出してくるが、それを全て剣ではじき返すレイナ。

「あんまりそう言ってると、怖い目に合うわよ。」

レイナが男に向かって飛びかかろうとしたとき、不意に肩を掴まれた。

「え?なに?」

レイナの肩を掴んでいたのはロムだった。しかも、かなり力を込めている。

「レイナ、ここはちょっと私に。」

「は・・・はい。」

その気迫に、レイナは剣を下して後ろに下がる。

「や、やりすぎないようにね。」

ロムに忠告するレイナだが、ロムはにこりと微笑んで答える。

「レイナ、お願いしますね。」

そのロムの言葉に、レイナは頷くことしか出来なかった。同時に、男の未来を案じた。

「化物女か、流石に化物だけあって回復力は高いな。」

男はロムに向かってナイフを打ち出す。しかし、そのナイフもロムの木の棒が叩き落す。

「神よ・・・この者に道を教え導く事をお許しください。」

両膝を地面に付き、手を組み祈るロム。

「何だよ、驚いたな。化物も神様に祈るのか。」

男は笑いながら再びナイフを打ち出すが、そのナイフはロムの後ろの壁に当たる。

「何?!」

そう思った瞬間、男は右腕に強烈な衝撃を受け、手にしていた武器を地面に落とす。

「確かに、私は人間からすれば化物ですね。」

ロムは男の腹を手にしている木の棒で振り抜いた。男はその衝撃で地面に倒れこむ。

「でもですよ、一応、私も性別は女ですから。」

うずくまっている男の肩に木の棒で強烈な一撃を与える。

「流石に、あんな事言われたら、怒りますよね。」

倒れて肩を押さえる男の顔に、木の棒をめり込ませる。

「レイナ。」

ロムの声にレイナは無言で頷いて、男に回復魔法をかける。男の傷は完全に癒える。

「私もね、こっちの大陸で頑張ってるんですよ。それを、よりにもよってあんなことを言うなんて。」

そう言いながら男を滅多打ちにするロム。チャームのフィードバックで一体何を言われたのか。

「レイナー。お願いします。」

再び男に回復魔法をかけるレイナ。再度傷が癒えるが、男の顔は引きつっている。

「もうそのくらいに・・・。」

「いいですか、私も、こんな事、したくは、ないんですよ!」

言葉の区切りごとに男を殴りつけているロム。持っていた木の棒は、すでに真っ赤に染まっている。

そして、都合四セット目が終わったあたりで、見かねたレイナが止めに入った。

「ロム、これ以上やると心が壊れちゃうわよ。」

「そうですね。そろそろ素直に話してくれる気になったと思いますし。」

レイナの言葉を聞いて、振り上げていた木の棒を下すロム。

「あの、話してもらえます?」

いつも以上に優しい口調で話しかけるレイナ。流石にあの光景を見た後ではこう接するほかない。

「は・・・はい。」

戦意を完全に失った男を見て、レイナは剣を指輪に戻す。ロムも同じく木の棒をローブの内側へとしまう。

レイナは改めてロムは敵に回さないようにしよう思った。


「では、改めて聞くけど、あなたは何者なの?」

レイナが男に向かって問いかける。男は怯えながらもはっきりとした声で答える。

「ヌーガー騎士団の団長ゴルガです。」

ロムは騎士団の名前を聞いて首をかしげる。

「レイナ、知ってますか?」

レイナは小さく頷く。

「ええ。ギルドの情報通りね。」

「ギルドの情報って、レイナの依頼に書いてあった物ですか?」

ロムがローブから依頼書を取り出す。そこには、大きな力が関与している恐れがあると書いてあった。

「そうよ。ロブフォンって国があるでしょ。」

「あの国ですか。よく密偵や騎士団を差し向けてきますね。」

少し呆れた声で、ロムは答えた。

「その国の騎士団の一つよ。」

「でもあの国の騎士団は規模の割には大したことがなかった気が。」

何度も退けているからであろうが、辛辣な言葉を口にするロム。

「その大したことのない国が、なぜか騎士団を新設、さらにその目的が周辺地域の治安維持。その真意は何?」

男を見て尋ねるレイナ。

「ゆくゆくは我が国の領土になるのですから、治安維持は必要でしょう。」

「どうやってって、聞くまでもなかったわね。」

レイナが大きくため息をつく。嫌な予感が完全に当たってしまったというため息だ。

「黒きモノの模倣体を使っての侵攻。で、ヌーガー騎士団はその使用試験も兼ねていた。という事?」

「そうです。」

男は、レイナの推測を肯定する。

「じゃあ、ロブフォンではすでに模倣体を量産しているという考えでいいのかしら?」

「そこまでは判りません。」

新設の寄せ集め騎士団の一団長では判らないだろうと考えるレイナ。

「模倣体は、三匹居ると聞いたわ。人型と犬型の二匹は封印したけど、後の一匹はどこ?」

「封印?!」

突如大声で驚くゴルガに、二人は一瞬たじろぐ。

「え、ええ。今頃は、入り口付近の道の真ん中で石になってるわ。」

レイナがその場所を指して話す。

「あれを封印出来たのですか!」

「え、えぇ。」

ゴルガの突然の質問攻めに、若干戸惑うレイナ。

「なんでそんなに驚くの?」

「あれは、私たちにも制御できなかったので。」

「制御できないものを侵攻に使うなんて。」

呆れ果てた顔をするロムと、怒りの表情を隠せないレイナ。

「ですから、あなた方が私たちに協力していただければ・・・。」

「ふぅん・・・。そう。」

それを聞いたロムがローブをごそごそと探る。

「レイナ。まだ、足りないようですね。」

ロムの右手には木の棒が握りしめられている。

「ヒッ・・・」

ゴルガはその木の棒を見て、再び怯む。

「笑えない冗談は、怪我の元よ。素直に、残りの模倣体の場所へ案内して。」

「は、はい。こちらです。」

ゴルガは急いで立ち上がって、二人に案内を始めた。

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