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朧気な確信

レイナとロムは野盗から聞き出した場所に向かう。

「さっきは、二回もごめんね。」

「いえ、それが依頼の一つですから。」

レイナに微笑みかけるロム。その微笑みを見て安心するレイナ。

「そう言ってくれると助かるわ。」

「その分、私の依頼もしっかりお願いしますね。」

「大丈夫、任せといて!」

「レイナが言うなら、問題ないですね。」

胸を張るレイナと。その姿をみてまた微笑むロム。

二人は他愛もない話をしながら森の奥へ足を進めた。


しばらく歩き続けた二人、木々の隙間から岩壁が見え始める。

「これ、外から見えたあの岩山かな?」

「地図によると、そのようですね。」

地図を見ながら、ロムが答える。

「それじゃあ、あそこに鉱山跡があるのね。」

「ですね。」

ロムが頷きながら地図をしまい込む。

「準備しておこうかな。」

レイナはそう言って呪文を唱え、杖を呼び出した。

「あれ?いつも使ってる武器とは違うんですね。」

いつものレイナを知っているロムは、見慣れない武器を持つレイナに違和感を感じる。

「うん、本気の武器は野盗相手に使うと流石にまずいかなって。」

木製の杖を見ながらレイナは答えた。

「でも、黒きモノも居るかもしれませんよ。」

ロムの不安ももっともで、間違いなく何かがいるだろう。

「その時はその時、これでも十分いけるでしょ。」

手にした杖を左右に振り、ロムの言葉に気楽な答えを返すレイナ。

「ロムこそ、準備はしなくてもいいの?」

「一応、聖職者ですから。大した武器ではないんですが。」

ロムの手には、黒く鈍く輝く木の棒が握られている。

「私、前から思ってたんだけど。」

「何ですか?」

「それ、普通の木の棒よね?」

レイナがロムの持っている木の棒を指さす。

「ええ、こっちに来て買いました。子供のお小遣いで買える程度の安物ですよ。」

「色が黒いけど、元から黒じゃないわよね?」

「ええ、使い込んでるうちに黒くなっちゃいましたね。」

にこりと笑うロム、その黒色は、恐らく血の痕だろう。

「聞きたくないけど、何人ぐらいお仕置きしたの?」

「数えて無いので詳しくは判りませんが、両手じゃ足りないと思いますよ。」

レイナは、両手どころか両足でも余裕で足りないと思っていたが、言葉を飲み込んだ。

「それにしても聖職者が刃物禁止っていう戒律・・・逆に酷くない?撲殺って結構残酷よ?」

「まぁ、そうですよねぇ。」

レイナはロムの持っている木の棒を見る。

「でも、私なら大丈夫です。」

「いや、そりゃあロムは大丈夫でしょ。やる方なんだから。」

にこりと笑うロム。その言葉に思わずツッコミを入れるレイナ。

「いえいえ、これでも苦労してるんですよ。一撃で仕留めるにはどうしたらいいかって。」

「そんな木の棒で一撃って・・・考えたくもないわ。」

背筋が寒くなるレイナ、それと同時に近いうちにこの棒の餌食になる犠牲者に同情していた。

「まぁ、私の信仰している宗派は、別に刃物を禁止にしてないんですけどね。」

「え?!」

突然のロムの告白にうろたえるレイナ。

「じゃあ、なんでそんな木の棒を使ってるの?」

「それはもう・・・ナイショです。」

ロムの目が輝いている。レイナはその目を直視できなかった。

「ロムは敵に回さないようにしよう。」

「そうですよ。良い子にしてないと枕元に立っちゃいますよ。」

ロムは冗談のつもりだろうが、それを聞かされたレイナは笑えなかった。


準備が出来た二人は、鉱山跡に向けて歩みを進める。

それから直ぐに、切り立った岩肌が二人の眼前に現れた。

「この岩山沿いに、鉱山跡の洞窟があるはずです。」

「アジトはその中にあるのかしら、周囲に小屋とか休憩場所とかない?」

「私も、ここには初めて来るのでちょっと。」

困り顔のロムは辺りを見回しながら答える。

「じゃあ、とりあえず洞窟を目指しましょうか。」

レイナ達は岩山に沿って歩く。岩山の近くの地面は、硬く踏みしめられており、先ほどまでの森とは違い、幾分歩きやすかった。

しかし、数分ぐらい歩いた所で、二人は異変に気付く。

「ロム、アジトの周囲にしては、静かね。」

「そうですね・・・出払っているんでしょうか?」

野盗の、しかもお頭がいると思われるアジトに近い場所だというのに、野盗の気配すら感じない。

「罠?」

レイナは慎重に周囲を見渡す。しかし、レイナは罠を見破る術を持っていない。

「・・・侵入者を察知する罠なら、一つぐらいあってもいいんですが、仕掛けるなら森の中に仕掛けるでしょう。それに、罠はないとあの人達も言っていましたし。」

ロムの言葉も一理あるが、レイナは少し周囲を確認することにする。

「仕方ない。ロム、ちょっと力使うから気を付けてね。」

杖を右手に持ち、勢いよく振りながらレイナはロムに注意を促した。

「ええ、判りましたけど、周囲の環境はあまり壊さないでくださいね。」

「なるべく気を付けるわ。」

岩山を背にして、レイナはロムより数歩前に出て、大きく息をする。

「はっ!」

レイナが地面に杖を強く突き立てる。すると、レイナの向いている方向に向かって、突然大地が波打ち始めた。

「えいっ!」

レイナは突き立てた杖の頭を両手でさらに押し込む。次の瞬間、大地の波が大きくなる。

「うぉ!!」

その波打つ地面に周囲の草や木が飲み込まれる。それと同時に、森の奥から複数の人の悲鳴も聞こえた。

「声?!」

ロムが人の声に気付く。レイナはロムに目線を送り、頷いた。

「・・・よっと。」

レイナが杖を大地から引き抜くと、波もおさまり、地面は元の硬さを取り戻した。

膝上ぐらいまであった草は、全て地面の中だ。木も同じように地面の中に埋もれている。

「相変わらず、凄いことをサラッとやりますね。」

ロムは目の前の光景に感嘆の声を漏らす。

「これで、少しですよね?」

「そうね、まだまだいけるわ。それよりも。」

レイナは声のした方向を見る。その方向からは、ざわめきが聞こえて来る。

「行ってみましょう。」

二人は、ゆっくりと低くなった木々をかき分けて声のする方へ向かって行った。


数分ほど歩いた先で、木の隙間から、地面に足を飲み込まれた人達が見えた。

「一般人・・・では無いみたいですね。」

二人が木の陰から様子をうかがう。

どうやら、地面に埋まってしまったらしい人達がもがいている。

「行ってみましょうか。」

二人は、埋まってしまった人達の元へ向かい、声をかける。

「どうされました?」

白々しく問いかけるレイナ。

「と、突然地面が波打ち始めて・・・気が付いたら足が地面に!」

辺りには革鎧を着た四人が、膝ぐらいまで埋まっている。全員パニック状態だ。

「た、助けて!!」

「まずは、落ち着いてください。一体こんなところで何を?」

救援要請を軽く流し、聞きたいことを問い掛けるレイナ。

「こ、この辺りに住処があるんですが・・・。」

「住処って、こんなモンスターが沢山いる場所に?」

「鉱山の跡地なら、安全なんです。」

「安全?」

「はい、番犬がいますから。」

少し落ち着いて来たのか、埋もれた四人のうち数人は足元の土を掘り始めている。

「ところで、皆さん・・・お仕事は?」

「・・・木こりです。」

全員が力強く頷く。それを見たレイナは。

「ロム、軽いのお願い。」

「はいはい。」

すでに準備が完了しているロムは、手早く全員にチャームをかけた。

「はい、もう一度、皆さんのお仕事は?」

レイナは手慣れたように質問をする。

「盗賊です・・・。」


「集まっていたのはなぜ?」

「見張りの交代です。」


「さっき言ってた番犬って?」

「黒きモノの模倣体です。」


「お頭は今どこにいるの?」

「アジトで、寝ています。」


「そのアジトは、鉱山跡の洞窟でいいのね。」

「はい。」


「ありがと。」

レイナはロムに目配せする。それを受けてロムはチャームを解除する。

「それじゃあね。」

そう言って野盗達に背を向けるレイナ。それを見て慌てる野盗達。

「え?!た、助けて!」

「そのくらいなら、1日地面を掘れば抜け出せるわ。今なら地面も少し柔らかいから、頑張って。」

そう言って、レイナ達は大声で叫ぶ野盗の集団を置いて鉱山跡の洞窟へ向かった。


「あー、あんな言い訳されるなんて思わなかったわ。」

岩山まで戻って来たレイナは、さっきの出来事を思い出して思わず吹き出してしまう。

「私、全員が木こりって言ったとき、笑いそうになりました。」

ロムも一緒に笑っている。

「全員、木こりの道具持ってないのにね。」

そう言って、二人はひとしきり笑いあった。そして、真面目な声のトーンでロムが切り出す。

「それにしても、やっぱり変ですよね。」

「全員が一度に同じ罠にかかるなんて、やっぱり本職じゃないわね。」

もし本職が居れば、あの状態でも何かしらの方法で逃げていたはずだ。現に、周囲にあった木に急いでしがみつくなり登るなりすれば埋もれずにすんでいた。

「ですね。」

ロムは今までの事を思い出しながら考えを口にする。

「野盗というより、軍の統制っぽいですよね。」

「そうね・・・。」

レイナの不安がいよいよ現実味を帯びる。

「もし、国が関与してたら、どうするんです?」

「そうなると、もう私の手には負えないわ。だから先に私の依頼の範囲を聞いておいたのよ。」

少し暗い顔でレイナは答える。

「となると、私がもう一度依頼をすればいいんですね。」

おどけた感じでロムが答えるが、レイナの表情は変わらない。

「正直な話、もしその依頼をするのなら、私には荷が重すぎるわ。」

どんなに有名でもレイナは個人だ。国を相手にする事は難しい。その事はロムも知っている。

「困りました。街周辺の盗賊退治がまさかこんな事になるなんて。」

「私もよ。とりあえず今回の依頼はちゃんとこなすけど、次の依頼はよく考えて出した方がいいわね。」

レイナの答えに、ロムは少し悲しそうな顔をする。

「まあ、私からも心当たりに声をかけておくわ。」

「心当たりって?」

「国を相手にするんでしょ?なら、同じ土俵で戦ってくれる仲間を用意しなきゃね。」

指を折りながらレイナはロムに答える。

「それでは・・・。」

レイナを見つめるロムの目が涙で歪んでいる。

「ロムを見捨てたりはしないわ。でも、依頼料は高くつくわよ。」

「やっぱり、レイナは頼りになります。」

レイナの手を強く握るロム。

「褒めても依頼料は割引しないわよ。」

レイナはそう言ってロムに微笑んだ。


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