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弁明者と証言者

「まずは、ギルドにクレーム入れておかないとね。」

教会を後にしたレイナは、大通りを二つほど挟んだ先にある、冒険者ギルドの支部へやってきていた。

早速ギルドの中に入り、受付へと向かう。

「映像通信で、ギルドサポートのアンナを呼んでもらえる?」

ギルドの指輪を見せながら、受付に問い合わせるレイナ。その声に少しの憤りが混じっている。

「はい、少々お待ちください。」

受付嬢は一瞬たじろいだが、すぐに後ろを向いて大きな機械を動かし始めた。

その姿を見ながら、少し声を荒げてしまったことを反省したレイナは深呼吸をする。

「お待たせしました。こちらをどうぞ。」

「どうもありがとう。」

受付から書類サイズの板を渡されると、レイナは落ち着いたのかやさしくお礼を言う。

そして、レイナはその板をのぞき込む。そこには女性の姿があった。

「ちょっとアンナ!」

「どうしたんですか、レイナさん。映像通信なんて。」

キョトンとした顔をしているアンナと呼ばれた女性。その表情を見てレイナに再び憤りの炎が生まれる。

「あなた、この依頼の条件、黙ってたでしょ!」

再び声を荒げるレイナ、周りにもたくさんの人が居るが、もう気にしてはいない。

「・・・なんでも受けるって言ったじゃないですか。」

「手ごたえのある依頼って言ったのよ!パーティー用なんていう重要な条件はどうでもいいなんて言ってないわ!」

ばつの悪そうな表情でアンナは口を開く。

「この依頼、スイーパーでも条件がきつい依頼で、困ってたんですよ。そこへ現れた救世主レイナ様!!」

アンナは大仰に両手を広げ、そのまま左手を胸へ、右手をレイナの方へ差し向ける、

「都合よく持ち上げるな!」

その態度にレイナも相当苛立っている。

「でもでも、レイナさんもお友達と会えるじゃないですか。」

「私はいつでも会いに行けるわよ。」

アンナのどんな言い訳も、レイナは軽くあしらう。

「この依頼の報酬、ギルド負担で倍額貰うわよ。ギルド長には私から話すわ。」

「うぅぅ・・・。」

しょんぼりとしているアンナにレイナはさらに追い打ちをかける。

「この依頼が終わったら私が依頼出すから。」

レイナは白紙の依頼書をアンナに見せる。依頼書にはギルド指定依頼とある。

「な・・・何の依頼ですか?」

「あなたの給料減額。」

「そ、そんなぁ!」

ギルド指定依頼は冒険者登録されている以上その効果を発揮する。ギルド職員も冒険者登録されているため、こういった使い方も可能になる。

「さぁて、これでやる気が出たわ。いい運動が出来そうね。」

最後の一言をアンナに聞こえるようにしゃべった後、レイナは映像通信を切った。

そして、その板を受付に返却する。

「あの、レイナさん。どうかされたんですか?」

先ほどのやり取りを見ていた受付嬢が心配そうに話しかけてくる。その気遣いに、レイナは笑顔を見せる。

「大丈夫、何でもないわ。ありがとう。」

受付嬢に軽く手を振って、レイナは足早にギルドを出る。彼女に聞こえていたと言う事は、他の人にも聞かれていたと言う事だ。流石にそれは恥ずかしかった。


冒険者ギルドから出たレイナが、次に向かったのは商人ギルドだ。

「冒険者の方はよく行くけど、こっちは来たことなかったわね。」

冒険者ギルドとは反対側の通りに商人ギルドはある。支部とはいえ商人ギルド、そこらの建物よりもしっかりとしている。

「初めて入るところは、妙に緊張するわね。」

レイナは商人ギルドの扉を開け、中に入っていった。

「ロムの紹介状、役に立つのかしら・・・。」

レイナは受付に行き、事情を話す。

「すみません、そのような話はプライバシーに関わる事になりますので。」

話を聞いたうえで、申し訳なさそうに受付嬢は断りを入れる。

「えっと、紹介状を持ってきたんだけど。」

レイナはロムに渡された紹介状を受付嬢に渡す。

「紹介状・・・ですか?ちょっと拝見します。」

紹介状を見て、受付嬢は先ほどの答えを変える。

「ロム様のご紹介ですね。かしこまりました。判るものをお呼びしますのであちらで少々お待ちください。」

ソファーに案内されたレイナ。そっとソファーに座る。

「ロム、随分ここの顔が利くようになったのね。」

この街に初めて来たときのロムを知っているレイナからすれば、ちょっとした驚きである。

「それにしても、高そうなソファーね。ちょっと落ち着かないかな。」

ソファーの弾力に戸惑いながら待つレイナ。

しばらくすると、二人組の若い男性がこちらに近づいてくるのが見えた。

二人組の一人がレイナを見つけ、一人が手を差し出す。

「初めまして、あなたがレイナ様で?」

手を差し出した男性の問いかけに応えるレイナ。

「えぇ、そうですが。」

そう言って、レイナは差し出した手を軽く握り、直ぐに離した。

「私、こういう者です。」

男はそう言い、小さな厚紙を取り出しレイナに手渡した。

レイナはそれに書かれた文字を読む。

「ビッツゲート代表取締役社長 ビッツ?」

聞いた事の無い会社の名前と、その肩書を見て少し首を傾げるレイナ。

「はい。この度はわが社の交易商人が襲われた時のお話を聞きたいと。」

相手から本題を言って来た。レイナはちゃんと話が伝わっている事に安堵する。

「そうですが・・・社長さんがなぜ?」

最初に思った疑問をビッツに尋ねる。

「我が社で起こった事件ですし、何よりあのレイナ様に動いていただけるとあれば、私がご挨拶しないわけには行きません。」

「そう、かしこまらないでください。私はただの冒険者ですから。」

最近このセリフを言うことが多いと感じるレイナ。一時期よりは少なくなったが、まだまだ多い。

「では、早速ですが襲われた時の詳細を教えていただけますか?」

この話を引き延ばしたくないレイナは早速本題に入った。

「わかりました。ハム君、教えてあげたまえ。」

ビッツはハムと呼んだ男の肩をたたく。

「は、はい!」

緊張しているのか、ハムの声が裏返っている。

「お、襲われたのは日没時で、キャンプの準備中でした。」

「どの辺りで?」

レイナが地図を広げる。

「ここの辺りです。」

ハムが地図に印をつける。森を迂回するルートで、一番森に近づく場所だ。

「何人組だったか、覚えてますか?」

「人間は二人でした。」

「人間は?」

奇妙な言い回しに食いつくレイナ。

「はい、二人組のそばにぴったりくっついている何か黒いものが見えました。」

「くっついている?」

「そうです、ずっと二人の後ろにいるというか、足元から離れないというか。」

日没で見えなかったのか、本当に黒いものだったのか、レイナは質問を続ける。

「野盗の顔は見えましたか?」

「顔を隠していましたが、目ははっきりと見えました。」

「服装は覚えてますか?」

「この辺りで購入できるマントと、布の服を重ね着している感じでした。」

野盗の姿は確実に見えている。という事は、黒いものはなぜか正体がわからないという事になる。

「なるほど・・・。襲われた時、何か言っていましたか?」

「命が惜しければ荷物を全部置いて行け、置いていくなら街までは安全を確保してやる。と。」

意外な言葉に驚くレイナ。

「随分良心的な野盗ね。」

「なので、素直に荷物を置いて街まで来たんです。」

商人の緊急事態時の行動に従ったと言うハム。

「街までの道すがら、野盗は着いて来た?」

「いえ。でも、それから街までの間は野盗どころか魔物にも会いませんでした。」

少し考えるレイナ。黒きモノらしき物体を引き連れた二人組の野盗、姿を見られても気にしていない態度。

街までの安全の確保はたまたまかもしれないが、普通の状況ではないというのは確実だ。

「そう。で、置いて行った荷物はどの位なの?」

「一頭立ての馬車一つ分の荷物です。」

ハム一人で輸送していたとすれば少々荷が重いが、商人の隊列としては小規模だ。

「他に、野盗が欲しがりそうな荷物とかは?」

「特になかったと思います。荷物の内容に関してはお話はできません。すみません。」

「いえ、いいんです。ありがとう。」

レイナが手を差し出すと、ハムもそれに応じた。

「お役に立てましたかな?レイナ様。」

そう言ったのはビッツだ。

「ええ、有意義な情報をありがとうございます。」

「それでは、私どもはこの辺で。」

レイナとビッツは握手を交わして別れた。

その後すぐに商人ギルドを出たレイナ、少し立ち止まって考えをまとめる。

「これ、多分・・・本職の仕業じゃない。」

あまりにも不自然な点が多すぎる、そういう答えに行き着くのも当然の話である。

「ちょっと、厄介な事になるかも。」

いくつかの疑念を解消させるため、レイナはその足で再び冒険者ギルドに向かった。


冒険者ギルドに着いたレイナはまっすぐ受付に向かう。

「ちょっと、教えてくれる?」

「はい、レイナさん、どうされました?」

アンナの件の時の人とは違う受付嬢だったが、レイナの事は知っているようだ。

「この街周辺の集落、街、国の情勢の情報はある?」

「少々お待ちください。」

受付嬢は手元にある冊子をめくり、知りたい情報を探す。

「こちらになりますね。」

開いた冊子を指さし、レイナに見せる。

レイナはその情報をまじまじと眺め、ひとしきり確認する。そして、受付嬢に冊子の一部を指さして尋ねる。

「えっと・・・この部分、いつの情報?」

「この部分は、3か月前の更新になってますね。」

レイナの顔が少し険しくなる。

「これが本当なら、ちょっとマズイかも・・・。」

そう呟くレイナ。

「アンナと話をしたいんだけど、また映像通信をお願いできる?」

「はい。分かりました。少々お待ちください。」

受付嬢が後ろを向き、端末を操作し始める。その間に、レイナはカウンターに備え付けの書類とペンを手に取った。書類には、依頼申請書と書いてある。

そして、慣れた手つきで書類に必要事項を埋めていく。

粗方書き終わった所で、受付嬢がレイナを呼ぶ。そして、端末をレイナに手渡した。

「ありがとう。」

レイナはほほ笑んでお礼を言うと、受付嬢も笑顔を返した。

「さて、アンナ、聞こえてる?」

先ほどの笑顔から一変、真面目な顔をするレイナ。

「は、はい。レイナさん、何でしょうか?」

すっかり怯えているアンナに、レイナが苦笑いを浮かべる。

「そんなに怯えなくてもいいのに。」

「で、でも・・・。さっきは失礼しまして。」

「まあ、今はそんな事を言ってる場合じゃないの。アンナ、あなたにもお願いしたいことがあるのよ。」

「お願い・・・ですか?」

お願いと言う言葉に、アンナは首をかしげる。

「アンナが私に寄越したこの依頼、かなり深い問題になりそうなのよ。」

「え?ただの野盗討伐じゃないのですか?」

レイナの言葉は意外だったのか、思わずアンナは聞き返す。

「依頼自体はね。でも、その裏が気になるのよ。」

「まさか、レイナさんのお願いって・・・。」

「あなたの本当のお仕事。特殊な依頼としてサポートしてほしいと言う事よ。」

レイナの言葉に、怯え顔だったアンナが一瞬で仕事の表情になる。

「分かりました。今まで分かってることを教えてもらえますか?」

レイナは、アンナにこれまでの経緯を話す。

「急に増えた野盗の被害と、野盗に従う黒きモノらしきもの、そして、依頼時期と街周辺国家の情勢変動の奇妙な被りですか。」

「そうよ。野盗だけなら、何の問題もないのだけれど、こうも重なるとね。」

「状況は把握しました。レイナさん、出発は何時になりますか?」

「明日になるわね、こちらもちょっと準備しておかないと。」

「了解しました。こちらは準備しておきますので、依頼の方、よろしくお願いします。」

「こちらこそ、頼んだわよ。」

そう言って、レイナは通信を切る。そして、端末を受付嬢に返却するときに、先ほど記入した書類も一緒に渡す。

「依頼をお願いしたいんだけど、いいかな?冒険者指定依頼で。」


レイナが依頼を出して数十分後、ギルドに一人の女性がやってきた。

「・・・レイナ?」

「ロム!依頼を受けてくれたのね。」

呼びかけられた方を振り向いたレイナ。そこには、ロムの姿があった。

「レイナ、驚きましたよ。依頼文に書かれていた話は、本当ですか?」

流石にロムも驚きの表情を隠せないようで、レイナに真意を問いかける。

「今までの話を聞く限りね。後は野盗を捕まえてみないと。」

「もし、あの依頼文の通りなら、大問題ですね。」

深刻そうな顔をするロム。それを見たレイナは、ロムに明るく話しかける。

「そんな訳だから、久しぶりによろしくね。ロム。」

「あぁ、そう言えば確かに。レイナとこんな冒険をするのは久しぶりですね。」

レイナの言葉に、ロムの表情は柔らかくなる。

「それに、依頼文に大きな事を書いてはいるけど、やる事は野盗の討伐に変わりはないわ。久しぶりに運動に行きましょう。」

「レイナらしいですね。」

そう言って、ロムはほほ笑んだ。

「でも、私は何をお手伝いするんですか?依頼内容は、野党の討伐とその他って書かれてましたが?」

「捕まえた野盗の口を割らせるの。ロムなら簡単でしょ。」

レイナがにこりと微笑む。その微笑みを見てロムがたじろいだ。

「うぅ、まぁ、出来ますけど・・・。」

困った表情で答えるロム。そして、仕方ないといった感じでレイナを見る。

「判りました。この街のためです。その代わり、レイナもちゃんと仕事してくださいよ。」

「わかってるわ、そっちは任せて。」

レイナはポンと自分の胸を叩いて自信を見せた。

「じゃあ、出発は明日にするとして。今日は商店を巡って準備ね。」

「そうですね。レイナには今回の件でもう少し聞きたい事もありますから、一緒に行きましょう。」

「ええ、何でも答えるわよ。」

そう言いながら、レイナとロムは冒険者ギルドを後にした。

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