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シスターの依頼

朝に村を発って、2時間ほどの空の旅を続けているレイナ。

「もうそろそろね。ここは、久しぶりかな。」

遠くにあった山が、ずいぶんと大きく見える。そして、その裾野に広がる緑の絨毯もはっきりとしてきた。

レイナが空から下をのぞく。そこには大きな街道が通っていて、人の姿も見える。

「相変わらず、ここらは活発ね。」

街道を目で追う。その先には、周囲を壁で覆われた街があった。

それを確認して、レイナはゆっくりと街道に降りていく。上空から直接街に入るのは御法度とされている。

「よっと。」

ゆっくりと街道に足をつけるレイナ。そして、またがっていた杖を片付ける。

「元気にしてるといいけど。」

レイナは、これから会う依頼者の顔を思い浮かべながら、街の門へと足を進めた。


街の門の前で、街に入るための手続きを行うレイナ。大きな街になると、こういった事も必要となってくる。

とは言っても、ここは軽い質問と目視でのチェックだけだ。

「こんにちは。」

レイナは、手続きをする門番に挨拶をする。門番はそれに笑顔を返す。

「こんにちは。今日はどういった用件で?」

「仕事よ。」

「そうですか、お疲れ様です。」

門番に軽く敬礼をされるレイナ。問題はないと見なされたようだ。その敬礼に、レイナは笑顔を返しながら門をくぐった。

街に入ったレイナは、周囲を見渡す。何度も来ている街だが、来るたびに少しづつ景色が変わり、飽きさせない。

街は森が近いためか、木造の家が目立つ。門のある大通りの両側には、土産を売る店が並び、街を去る人達を誘い込んでいた。

そう言った店が成り立つと言う事は、この町に来る者も去る者も多いと言う事だ。

そんなにぎやかな街の雰囲気は嫌いではないレイナは、周囲を楽しみながら依頼者の待つ教会へ向かった。


街の中心部を通る道を進むレイナ。目的の教会は、この街の中心部から少し外れた所にある。

「ここは、変わらないわね。」

レイナは、久しぶりに来た教会の前で呟いた。

教会は、レンガ造りで、礼拝堂と住居が一体化している造りになっている。

それほど大きい物ではないが、この街が出来た時からあるそうだ。

レイナは、その教会のドアを開け、中に入る。

「来たわよ。」

ドアを開けると、そこは大きな像とステンドグラスが飾られた礼拝堂となっている。

その礼拝堂に向かって、レイナは声をかける。

「あら、今朝ギルドから連絡がありましたが、早く着きましたね。ようこそ、レイナ。」

礼拝堂の奥から、掃除道具を持った教会のシスターが出迎える。

「久しぶり、ロム。変わりはないみたいね。」

「レイナも、変わりないようですね。」

レイナは、シスターのロムに近寄り、握手を交わす。旧知の仲といった感じだ。

「それにしても、また厄介事なのね。」

「ええ、ですから、ギルドにお願いしたんですよ。」

ロムはレイナに微笑みを返しながら答える。

「あなたってギルドを使いこなしてるわよね。」

「ふふっ、そうですね。使えるものは使っていかないと、向こうでは生きていけませんでしたから。」

「まぁ、こちらとしてもこの周辺の治安維持と情報提供は助かってるから、お互い様ね。」

ロムの意味深な言葉を聞き流し、話をつづけたレイナ。

「そうですね。それでは、こちらへどうぞ。」

ロムはにこりと微笑みを浮かべ、レイナを礼拝堂の隣にある客間に案内する。

客間には、応接用の机と椅子が並べてある。ロムはそこの椅子に座るようレイナに促し、レイナもそれに従った。

「少しここで待っててくださいね。」

そう言って、ロムは手にした掃除道具を片付けに戻る。そして、二人分のお茶と資料を手に客間に戻って来た。

「で、早速依頼の件だけど。」

「はい、この地図を見てください。」

ロムが机に地図を広げる。その地図は、この町の周辺が書かれていて、いくつかの印がついていた。

「印をつけた場所が、ここ1か月で住人が野盗に襲われた場所です。」

地図の印をなぞるレイナ。

「結構多いわね、襲われた場所も範囲が広い。」

静かに頷くロム。

「そして、襲われた人の話だと、野盗は黒きモノを従えて襲ってきたと言っています。」

「黒きモノを?」

「見間違いだと思いたいのですが、複数の人が証言している以上、注意するべきでしょう。」

ロムの言葉に、レイナは訝しげに質問を投げかける。

「黒きモノを従えるって、出来るのかしら?」

「何かしらの道具を使って、操ってる可能性もありますね。」

「道具・・・ねぇ。」

レイナは相手を操る道具について考えたが、黒きモノを操る事はできないと自分の中で結論付ける。

「とにかく、野盗を倒せばいい。で、黒きモノの話は注意しておく。これでいいのね。」

「はい。レイナなら余裕でしょう。」

不敵な笑みをレイナに向けるロム。

「まぁね。」

そう言って、レイナもロムに笑みを返した。

「それにしても、この街の自警団は使わないの?ロムが訓練してるんだから、相当強いでしょ?野盗も任せてしまえばよかったんじゃない?」

この街は難儀な場所あるため、自警団は自然と組織された。その自警団のトップをロムが務めている。

「流石に街を守る役目の自警団で、野盗の討伐に行かせるのは問題があります。」

「そう?黒きモノの話が本当だったら、街の自警団では流石に手に余る・・・が、本音でしょ。」

レイナの言葉に、ロムはにこりと笑みを返した。

「レイナには、隠せませんよね。そうです。黒きモノと、この街の住民を戦わせるわけにはいきません。」

「ロムの立場ならそうよね。」

一応、この街の上位責任者であるロムの言葉に納得するレイナ。

「でも、腕利きの冒険者となれば、報酬次第でやって来てくれます。あなた方のように。」

レイナに優しい視線を向けるロム。

「私は報酬につられたわけじゃ・・・それに、この依頼、確かに厄介なんだけど、それにしても、ちょっと報酬奮発しすぎじゃない?」

レイナは、提示されていた報酬額と、ロムの話を鑑みて問いかける。その問いかけに、ロムはきょとんとした表情を見せる。

「そうですか?パーティーの方々と山分けしても十分な様にと準備していたんですが。」

「パーティー?」

予想外のロムの言葉に、思わず聞き返すレイナ。

「あれ?依頼内容には必ずパーティーでって書いていたんですよ。仲間の方が来るんじゃないんですか?」

不思議そうな顔をするロム、対照的に驚いた顔をしているレイナ。

「依頼を受けた時、そんな事一言も聞いてないわ・・・。」

「でも、レイナなら一人で十分ですね。」

「十分だけど・・・。」

腑に落ちない感じで、レイナは口ごもる。

確かに、パーティー分の報酬を一人で受け取れるのは魅力だが、パーティーと指定している以上、何かしらの懸念事項があると言う事だ。

「ちょっと、ギルドにクレーム入れないとね。」

不満を隠しきれないレイナを見て、ロムが申し訳なさそうな顔をする。

「すみません、厄介な依頼で。」

「ロムが謝ることはないわ、後できっちり話付けるから。」

「私からも、ギルドに言っておきますね。」

「依頼者と受注者のダブルクレームかぁ・・・。」

レイナのその言葉に、ロムは思わず笑ってしまう。それを見て、レイナの憤りも少し落ち着いた。

「ところで、この依頼、随分前からあったの?」

「はい、2か月程お待ちしていました。」

「大丈夫だったの?」

直接は関係ないのだが、少し申し訳ない気持ちになるレイナ。

「街の周りは、自警団で何とかしてましたが、周辺から来られる商人の方が襲われる事例が多かったです。」

「商人ね・・・。その間、物資が来なくて大変じゃなかった?」

レイナの問いに、ロムは首を横に振った。

「商人も慣れたものでしたね。商品は分割して到着するようにして、襲われた人達はとにかく野盗の言う通りにして命をつないだそうです。」

「さすが、そのあたりも織り込み済みって事ね。」

商人のリスク管理に感心するレイナだった。

「で、野盗の出没する場所とか、アジトとかの情報はある?」

レイナはロムに尋ねる。

「いえ、地図でお見せした被害状況が唯一の手掛かりです。」

「そっか・・・。」

レイナは残念そうに言う。ロムは続けて話す。

「でも、襲われた商人はまだこの街に滞在してますから、その方々からお話を聞いてみては?」

「まだ居るの?そうね、そうするわ。その商人はどこにいるの?」

「商人ギルドに宿泊してるそうですよ。」

「商人ギルドかぁ。行った事ないわね。」

「大丈夫です。これを渡せば、お話を聞いてくれると思いますから。」

不安を漏らすレイナに、ロムは商人の滞在場所を書いたメモと紹介状を手渡す。

「紹介状?」

「ええ、商人は、繋がりを重視しますから。」

それを受け取ったレイナは、腰の道具入れに書類をしまう。

「ありがとう、行ってみるわ。」

「ええ、お願いしますね。」

一通り、話が落ち着いたところで、レイナとロムは互いに一息ついた。

「ところで、ロム。一つお願いがあるんだけど、いいかな?」

そう話を切り出すレイナ。にこやかな顔をしてロムが聞き返す。

「何ですか?」

「今日はここに泊めてくれないかな?」

「ええ、もちろんいいですよ。」

レイナの願いを快諾するロム。

「よかった。ありがと。」

ロムの好意に、レイナは感謝する。

「それじゃあ、私はちょっと情報収集と、準備に行くわ。出発は明日かな。」

「そうですか。では、私はレイナの寝室を準備しておきますね。」

そう言って、席を立ったレイナを、ロムはにこりとほほ笑んで見送った。


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